目次

1. パートナー選びと語彙力
2. 女性同士の競争がもたらすストレスと摂食障害の関係
3. カップルの容姿レベルは本当に似ているのか？

パートナー選びと語彙力

人は結婚相手を選ぶとき、意識的か無意識的かは別として、同じくらいの語彙力を持つ相手を選んでいる可能性があるという研究が報告されていた。

確認だが、「語彙力」というのは、ある人が理解し、（ある程度）正確に使用できる単語の総数のことを指す。これは生涯を通じて成長し続けるものの、特に子供時代に急速に発達し、成人期に入ると成長のペースは緩やかになっていく。語彙力は教育、読書習慣、社会環境などの要因によって大きく影響を受けることが知られている。

そして今回、イギリスの研究チームが実施した調査で、夫婦間の語彙力には強い相関があることが明らかになった。この研究の詳細は以下の通り。

• 研究対象：イギリスに住むトルコ語と英語のバイリンガルの既婚カップル83組
• 対象者の特徴：結婚期間は9年から23年、年齢は27歳から57歳
• 評価方法：英語とトルコ語両方の語彙力テスト（X-lexテスト）を実施
• • テスト内容：実在する単語100語と、意味を持たないフェイクの単語20語を含む
  • 単語の選定：日常的によく使用される単語から稀にしか使用されない単語まで、様々な頻度の単語を使用

その結果、以下の結果が得られた。

• 英語の語彙力が高い人はトルコ語の語彙力が低い傾向にあり、その逆も同様
• 夫婦間で語彙力のレベルに強い相関が見られた（下表のとおりかなり高い相関）
• 結婚年数を考慮に入れても、この相関は維持された

参考文献より

結婚生活を送ることでどんどん似通ってくるのではなく、パートナー選択の時点で語彙力が重要な役割を果たしていた可能性が高いというのだ。

研究チームは、語彙力が知性や教育レベル、経済力を示す「正直な指標」として機能している可能性を指摘している。なぜなら、語彙力は一朝一夕には身につかず、長期的な教育プロセスを経て獲得される能力だからだ。

ただし、この研究にはいくつかの限界がある。まず、対象者がトルコ語と英語のバイリンガルに限定されており、サンプル数も比較的小規模だ。異なる文化や言語グループでは、また違った結果が得られる可能性は十分にある。

それでも、コミュニケーションの質は恋愛関係や結婚生活において重要な要素であることは間違いなく、語彙力がその基盤となるというのは十分ありうる話だろう。また、私たちは意識的か無意識的かを問わず、自分と似たような知的レベルや教育背景を持つ相手を選ぶ傾向があるというのはほかの指標でも確認されてきたことだ。

さらに、この研究からは言語教育や自己啓発の重要性も示唆される。語彙力は単なる言葉の知識以上のものを示す指標として機能している可能性があり、生涯学習や自己成長の一つの目標として考えることができるだろう。例えば、読書習慣を身につける、新しい分野の学習に取り組む、異なる文化や背景を持つ人々との交流を増やすなどの取り組みは、語彙力の向上に寄与する可能性がある。そして増えた語彙は誰が生涯のパートナーとなりうるかという選択肢にまで影響を及ぼしうる。語彙力の高さは知性、収入、心身の健康等と相関するというデータも多い。「いいパートナー」を見つけたいのであればまずは自身の語彙力を見直してみるのもよさそうだ。

女性同士の競争がもたらすストレスと摂食障害の関係

女性同士の競争がメンタルに大きな負担がかかるというのはデータで示されずともよくわかるだろう。摂食障害的もその一つだが、最近の研究ではこの影響が若い女性だけでなく、閉経後の女性を含む幅広い年齢層に当てはまる可能性が示唆されていた。

レッドランズ大学の研究チームによる研究では、女性間の社会的地位や異性の関心を巡る競争がもたらすストレスが、食行動にどのような影響を与えるのかを調査した。これまでの研究の多くは、文化的な理想像やメディアの影響に焦点を当てていたが、この研究では女性同士の競争というユニークな視点から問題に迫った。

研究の概要は以下の通りだ

研究1：若年層を対象とした調査

• 対象者：18歳から22歳の大学生女性103名
• 調査内容：
• • 女性間競争ストレス尺度：社会的地位や容姿に関する競争からのストレスを測定
  • 摂食態度テスト：食事制限への執着、過食、排出行動などを評価
• 主な結果：
• • 競争ストレスは摂食態度の変動の約26%を説明
  • 摂食行動の変動については4%を説明

研究2：より幅広い年齢層での検証

• 対象者：30歳以上の女性295名
• 調査内容：
• • 現在の競争ストレスレベル
  • 若い頃の競争ストレスレベル
  • 摂食行動の評価
  • 閉経状態や婚姻状態に関する情報
• 主な結果
• • 年齢が上がるにつれて競争ストレスと摂食障害的な態度の関連は弱まるものの、完全には消失しなかった
  • 予想に反して、閉経後の女性でも競争ストレスの上昇が見られた
  • 未婚女性は既婚女性と比べて競争ストレスが高い傾向にあった
  • ただし、婚姻状態は摂食障害的な行動との有意な関連は示さなかった

特に研究２の結果が新しいポイントで、女性同士の競争が「若い女性だけの問題」ではないことを明確に示している。現代社会において、この競争ストレスは生涯を通じて影響を及ぼす可能性があるということだ。

中高年以上の女性にターゲットを絞った場合、社会的な競争がメンタルに影響を及ぼすメカニズムが異なる可能性も考えられる。これまであまり注目されてこなかった分野だけに、今後の新たな知見の蓄積にも期待したいところだ。

カップルの容姿レベルは本当に似ているのか？

（様々な観点で）同レベルの二人がカップルとしてうまくいく！という話は何度もお伝えしてきた（Assortive matingというやつ）。しかし容姿に関して言えば、主観が入りまくるせいでどこまで同レベルといっていいのか怪しい部分が多くあった。

しかしこの点について、最近のメタアナリシスでは、1988年のファインゴールドによる古典的なメタアナリシスのデータを、より高度な統計手法を用いて再分析することで、この問いに迫っていた。

具体的には、27の研究から収集された1,295組の異性カップルのデータをもとに、自己評価による容姿の魅力度と、第三者による容姿の評価データを使って、多変量メタ分析と二者関係データ分析を実行。特に、以下の３要素に焦点を当てた分析を行った。

• アクター効果：個人の自己評価と第三者評価の一致度
• パートナー効果：一方のパートナーの自己評価と他方のパートナーの第三者評価との関連性
• 関係性の特徴（交際期間やコミットメントレベル）による影響

分析の結果、以下のような面白い発見が得られた

• 人は概して自身の容姿の魅力を正確に評価できている
• この自己認識の正確さには性差が見られない
• カップル間で容姿の魅力度には強い相関が見られる
• 交際期間が長いほど、自己評価と第三者評価の一致度が高まる傾向にある

この結果は、いわゆる「釣り合いの法則」とも呼ばれる、似たような容姿レベルの人々がカップルになりやすい傾向を、より洗練された統計手法を用いて改めて確認したという点で重要な意義を持つ。

確かにデータ自体が数十年前に収集されたものであり、オンラインデートやSNSが普及した現代では、容姿の評価や相手選びのプロセスが変化している可能性があるという指摘はもっともだろう。

それでも、人は概して自分の容姿の魅力度をそれなりに正確に把握しており、その認識に基づいて現実的なパートナー選択を行っている可能性は高いのだろう。また、交際期間が長くなるにつれて、自己認識がより正確になっていくという発見は、親密な関係性が自己理解を深めるのではないかという考察も興味深い。

しかし、やはり（すでにいくつか論文も発表されているところではあるが、）オンラインデートが一般化した現代において、容姿レベルの一致度がパートナー選択に与える影響の変遷については、気になるところである。