目次

1. マッチングアプリでスワイプした顔、あなたは覚えてる？
2. 女性の体型の魅力度、「曲線の度合い」がカギを握る
3. 妊娠中の母体の腸内環境が胎児の脳の発達に影響を与えるかもしれない

マッチングアプリでスワイプした顔、あなたは覚えてる？

近年、Tinderなどのマッチングアプリは、パートナーとの出会い方を大きく変えた。膨大な数の候補の中から、写真を見て瞬時に判断を下す。この新しい出会いの形は、私たちの脳にどのような影響を与えているのだろうか。マーストリヒト大学から面白い研究が発表されていた。

研究チームは269名の参加者（女性137名、平均年齢25歳）を対象に、模擬マッチングアプリを使用した実験を実施。参加者は異性の写真を見て魅力度を評価し、マッチングしたいかどうかを選択。その後、記憶テストを行った。

その結果、

• マッチングしたいと選んだ顔は、そうでない顔より記憶に残りやすかった
• 「自分は魅力的だ」と考える人ほど、短期的な関係を求める傾向が強かった
• 短期的な関係を求める人、自己評価が高い人、魅力的な人ほど、魅力的だと感じた相手とマッチングを希望していた
• 長期的な関係を求める人は、道徳的な嫌悪感が強い傾向にあった

だったそうだ。「いいね」を押した相手の顔が記憶に残りやすいという事実は、私たちの脳が潜在的なパートナーの情報を効率的に処理していることを示している。また、自分をどう評価するかが、パートナー選びの戦略に大きく影響するというのも面白い。

結局のところ、マッチングアプリで写真を見て瞬時に判断を下すという行為は、私たちの記憶システムと密接に関連しているということで、「写真」がやはり重要だということが改めてよくわかった。写真で興味を持ってもらえなければ、「やっぱりあのひと気になるかも」なんて思って戻ってきてもらえる確率はかなり低い。

写真による第一印象だけでなく、より深い交流を通じて相手を理解することの重要性も忘れてはならない、というのはおっしゃる通りだ。しかし第一印象できっかけをつかめなければ深い交流もくそもない。一度、あなたの写真も見直してみてほしい。参考までに、私も過去にマッチングアプリ関連の知見をまとめているので、よければヒントとしてどうぞ。

女性の体型の魅力度、「曲線の度合い」がカギを握る

女性の体型の魅力度を判断する際、ウエストとヒップの比率（WHR）が重要な指標といわれてきた（男性は「肩：ヒップ」）。WHRは、ウエストの周囲径をヒップの周囲径で割った値で、一般的に0.7前後のWHRが高い魅力度と結びつくとされている。進化心理学者たちは、このWHRが健康状態や生殖能力のシグナルとして機能し、潜在的なパートナーに対して生殖適性を示す指標となっている可能性を指摘してきた。

しかし、ドイツのコンスタンツ大学の研究チームは、WHRだけでは体型の魅力度を説明するには不十分ではないかと考えた。そこで、体の曲線の度合い（curviness）に注目。WHRと曲線の度合いは確かに関連しているものの、特に胴体の全体的な輪郭を考慮する際には、曲線の度合いの方がより包括的な指標となる可能性があると考えたのだ。

この仮説を検証するため、研究チームは2つの実験を実施した。

実験1

• 参加者：80名の成人（うち25名が男性、平均年齢28-29歳）
• 刺激：12種類の女性の体型を表す線画
• 特徴：WHRと曲線の度合いが完全に一致するようデザイン
• 評価方法：1-100の尺度で魅力度を評価

実験2

• 参加者：98名の成人（主にコンスタンツ大学の学生）
• 刺激：25種類の線画
• 特徴：WHRと曲線の度合いを独立して変化させたデザイン
• 評価方法：同様に1-100の尺度で評価

参考文献より

これらの実験から、以下のような結果が得られた

• WHR 0.7の体型が最も高い評価を獲得
• 特に、細身の体型の場合にWHR 0.7が最も魅力的と評価された
• しかしウエスト、ヒップの絶対値が大きくなるにつれ、WHRよりも曲線の度合いが魅力度の重要な指標になっていた
• 中程度の曲線の度合いを持つ体型が、WHRに関係なく高評価だった

研究者たちは、「WHRは一般に想定されているほど曲線度合いの有効な指標とはならない」と結論づけている。むしろ、曲線美の方が、女性の体型の魅力度をより正確に予測できる指標だというのだ。しかしくびれていればいるほど良いというわけではないというのも面白い。

ただし、この研究にも限界がある。実験で使用されたのは線画による体型表現であり、実際の人体ではない。そのため、実際の体型を評価した場合には、異なる結果が得られる可能性は否定できない。

それでも、体型の魅力は単純な比率だけでは説明できず、より包括的な要素を考慮する必要があるというのは直感的にもうなずける。体型の魅力に関する従来の理解を見直すいい機会かもしれない。

身体の美しさについての研究は古くから行われており、芸術家（および研究者）たちは「黄金比」のような数学的比率に注目してきた。しかし、この研究が示すように、人体の美しさは単純な数値では捉えきれない複雑な要素を含んでいる。今後は、より多様な視点から体型の魅力度を検討していく必要があるだろう。

妊娠中の母体の腸内環境が胎児の脳の発達に影響を与えるかもしれない

妊娠中の母体の腸内環境が胎児の脳の発達に影響を与えるかもしれない——。そんな研究結果が『Molecular Metabolism』誌に掲載されていた。これまでの研究で、腸内細菌叢は私たちの身体とメンタルの健康に深く関わっていることが分かってきたが、今回の研究では、母体の腸内環境が胎児の脳発達にまで影響を及ぼす可能性が示されたというわけだ。

バーミンガム大学とケンブリッジ大学の研究チームが実施したこの研究では、ビフィドバクテリウム・ブレーベ（Bifidobacterium breve）という善玉菌が、胎児の脳の代謝や栄養輸送に良い影響を与えることを明らかにしている。この細菌は、実は妊娠中の女性の腸内で自然に増加することが知られており、感染症への抵抗力や免疫調節にも関与しているとされる有益な菌だ。

実験手法は以下の通り。

• 対象：無菌マウスを2グループに分け、比較実験を実施
• 投与：一方のグループには、妊娠10日目、12日目、14日目にビフィドバクテリウム・ブレーベを投与
• 分析：胎児の脳における遺伝子とタンパク質の発現を分析し、細胞成長や栄養代謝に関連する経路を重点的に調査
• 測定項目：分子生物学的手法で脳の発達と代謝に関与する重要な遺伝子の変化を追跡。さらに、分光法を用いて脳組織の代謝過程も詳細に分析

その結果、母体の腸内にビフィドバクテリウム・ブレーベがいた胎児マウスでは、以下のような変化が観察された

• 脳の代謝と栄養輸送に関連する遺伝子とタンパク質の発現が増加
• グルコースやアミノ酸の輸送体レベルが上昇し、脳細胞への栄養供給が改善
• 新しいニューロンの形成やシナプス結合を支えるタンパク質の増加
• ミトコンドリア機能を支える経路が活性化
• 低酸素状態への適応を助ける因子が最適化

参考文献より

まさに母体の腸内環境が胎児の脳発達に影響を与えうることがはっきりわかる結果だ。今回の実験で使用されたマウスは完全な無菌状態で、ビフィドバクテリウム・ブレーベのみが存在する環境であり、これは人間の複雑な腸内環境とは大きく異なる点には注意が必要だろう。

とはいえ、この研究結果は妊娠中の腸内環境の重要性を示唆している。現在妊娠中または今後妊娠を見据えている女性は、食事、ストレス管理、適度な運動等を介して、適切な腸内環境を構築しておくと、将来子供に感謝されるのではないだろうか。

他の腸内細菌との相互作用や、最適な細菌の組み合わせについても今後の研究に期待したいところだ。