「優れたリーダーとは何か」という問いは、ビジネスだけでなくあらゆる世界において最も重要な課題の一つである。リーダーの質や行動は、組織の成否を大きく左右する。実際、多くの科学的研究によって、リーダーシップの質が組織のあらゆる側面にディープな影響を及ぼすことが明らかになっている。

個人レベルでは、直属の上司であるリーダーの在り方が、フォロワーの生産性や仕事満足度を決定づける重要な要因となる。さらに、リーダーの質はフォロワーの人生全般における幸福感とも密接に結びついていることが、数々の研究で示されている。リーダーは、直接かかわりのないフォロワーのパートナーの幸福に関連するという報告まである。つまり、リーダーの影響力は、フォロワーの職業人生のみならず、私生活全般の質にまで及ぶのだ。

組織レベルでは、リーダーシップの特性が企業文化を形作る。優れたリーダーのもとでは、心理的安全性が確保され、イノベーションが促進される。一方、不適切なリーダーシップは、組織の士気を低下させ、優秀な人材の流出を招く。組織の持続的な成長と発展は、リーダーシップの質に大きく依存しているのである。

では、「優れたリーダー」に必要な要件とは何か。本稿では、最新の知見をもとに、「優れたリーダー」になるための9つの条件を提示する。これらは、単なる理論的な概念ではなく、実践的な指針として活用できるものを厳選した。

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目次

1. 野心より謙虚さを
2. 他者から学ぶ姿勢
3. パラドックスを受け入れる力
4. アサーティブネスの最適化
5. 適度なカリスマ性
6. 外見
7. 高いセルフコントロール
8. 自律性を重んじる
9. ユーモア
10. おわりに

野心より謙虚さを

優れたリーダーの第一の条件は、意外にも「野心を抑え、謙虚をアピールすること」である。この知見は、スタンフォード大学ビジネススクールのAlzahawiらによる2024年の研究でも導き出されている。

同研究では、アメリカの有力ビジネススクールで経営者教育プログラムを受講する472名の管理職を対象に、野心的な性格とリーダーシップとの関係を検証した。特筆すべきは、この研究の綿密な調査設計である。研究チームは、野心度の測定と効果性の評価を最長2年の期間を空けて実施することで、同時測定によるバイアスを排除した。

調査では360度評価を採用し、リーダーの効果性について3,830件もの第三者評価（上司、同僚、部下からの評価）を収集・分析している。評価項目には、他者の動機付け、意思決定、協働作業の管理、対立の処理など、10の主要なリーダーシップ能力が含まれていた。

分析の結果、興味深い事実が明らかになった。野心的なリーダーは自己評価が一貫して高い一方で、周囲からの評価では必ずしも優れたリーダーとは見なされていなかったのである。この「自己認識と現実の乖離」は、あらゆるリーダーシップ能力の評価において一貫して観察された。

この知見が示唆するのは、真に優れたリーダーは、自己の限界を知り、常に学び続ける謙虚さを持ち合わせているということだ。そしてその態度は他者にはきちんと見えているものだ。

他者から学ぶ姿勢

優れたリーダーの第二の条件は、「他者から学ぶ意欲と能力」である。これは前章で述べた謙虚さとも密接に関連する要素だ。クルムレイ=マンクーソとロウェットによる研究（Journal of Positive Psychology）は、この点について重要な学びを提供してくれている。

同研究では、キリスト教系大学の学生アドバイザー101名とその指導を受ける学生215名を対象に、リーダーの謙虚さと学習意欲が、フォロワーの満足度にどのような影響を与えるかを検証した。

結果は明確だった。

他者の視点を尊重し、積極的に学ぼうとする姿勢を持つリーダーは、より高い評価を得ていたのである。特に注目すべきは、「他者の視点への敬意」が、リーダーの公正さとコミュニケーション能力の両面において、フォロワーの満足度を高めていた点である。

しかし、権力を得ると人は往々にして共感性が低下するものだ。実際、ビジネスリーダーは組織階層を上るにつれて、自身の意見への依存度を高め、他者の視点を軽視する傾向が強まることが、複数の研究で示されている。この「権力の罠」を避けるため、グレートなリーダーたちは以下のような具体的な施策を実践している。