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🏮お盆休みを「最高の自己投資」に変える、科学的な休暇デザイン10箇条
なぜ、休んだはずなのに疲れが取れないのか? その答えは、休暇の「デザイン」にあった。最新科学が解き明かす、心と脳を最高に回復させるための10の技術。
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おくさん
2025/07/30
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お盆前!ってことで今回は「休暇」の話。

早速ですが、皆さんに問いたいのが、「あなたの『休暇』、本気でデザインしてますか?」。

なんとなく旅行サイトを眺めて、良さげな宿を予約して、現地でダラダラ過ごして、「あー、リフレッシュしたー(気がする)」みたいな感じで終わっている方も結構いるんじゃないでしょうか? しかし、個人的には、それってめちゃくちゃもったいないことしてるのでは?って感じてたりします。なぜなら、休暇ってのは単なる「休息」や「ストレス解消」の時間じゃないからです。特に、AIが人間の仕事をどんどん代替していくこれからの時代、休暇ってのは、デザイン次第で私たちに残された数少ない仕事とも言える「創造性」を爆発的に高めるための、最高の投資になりうるんですよね。

この手の話をすると、「いやいや、休暇の効果なんて一時的でしょ?」「休んでも、どうせ休暇明けには元のクソみたいな日常に戻るだけだよ」って声が聞こえてきそうです。気持ちはよくわかるし、実際、少し前までの心理学の世界でも、それが定説だったりしたそうです。2009年に行われた有名なメタアナリシスでは、「休暇がウェルビーイングに与える効果は小さく、すぐに消え去る」って結論が出されてて、それが長らくアカデミックの世界でも「常識」とされていたらしい。

ところが、最近の研究ではその結論が覆ってたりするんですよ。

例えば、ジョージア大学とオーバーン大学の研究チームが、『Journal of Applied Psychology』で発表した、過去最大規模のメタアナリシス(32本の研究、256もの効果量を統合)によると、

  • 休暇がウェルビーイングに与える効果は『大きい』し、その効果はこれまで考えられていたよりもずっと長く続く!

と、結論付けてたりします

つまり、休暇は、(正しくデザインすれば、)私たちの心身を深く、そして長く癒してくれる強力なツールになりうるってこと。生理学的にはストレスホルモンのコルチゾールを下げたり、睡眠の質を改善したり。そして何より、私が今回一番声を大にして言いたいのは、創造性への効果です。

これからの時代、思考停止でできる仕事は全部AIに食われる、なんて話はもはや耳タコでしょう。私たち人間が価値を発揮できるのは、新しいアイデアや問いを生み出したり、誰も思いつかなかった解決策を閃いたりする、そういうクリエイティブな領域だけだ、と。そして、最近の研究をみていると、その創造性は、実はオフィスでうんうん唸っている時間よりも、むしろ仕事から離れた「休暇」の過ごし方によって育まれる、ってことが分かってきてるんですな。

個人的にも、自分や周囲の成果や働きぶりを振り返ってみると、仕事のパフォーマンスは、仕事をしていない時間に決まるってのはわりあい正しいんじゃないかなーと思ってたりしますね。

だからこそ、年に数回しかない貴重な休暇を、なんとなく過ごすのはもうやめにしませんか、というのが今回の記事で提案したいこと。最高の成果を出すために、最高のコンディションを作るために、私たちはもっと「本気で」休暇を計画し、デザインすべきなのではなかろうか、と。

というわけで、本エントリでは、最新の科学的知見をベースに、「最高の休暇をデザインするための10のポイント」を「提案」させていただければと思います。お盆休みの過ごし方については、すでに計画が完了している方もいらっしゃるかと思いますし、言うても休みの過ごし方くらい自由に決めるのが一番だとも思ってますので、気になるところだけでもご参考にしていただければ幸いでございます。


本ニュースレターでは、徹底的に調べあげたエビデンスをベースに「より信頼でき、真に価値ある情報」をレポートし、ゴミがあふれるネット上においてキラリと光る質の高いコンテンツをお届けすることを目指しています。あなたの人生を彩るヒントとしてご活用いただければ幸いです。


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目次

  1. ポイント1:休暇は「長さ」より「アレ」と「アレ」
  2. ポイント2:「心理的離脱」をマスターせよ
  3. ポイント3:「ガチな趣味」こそが最高の幸福をもたらす
  4. ポイント4:「誰と過ごすか」が休暇の価値をブーストする
  5. ポイント5:ツアー旅行で失われる「○○感」
  6. ポイント6:脳が喜ぶ「非日常」を摂取せよ!
  7. ポイント7:○○に身を浸せ
  8. ポイント8:最高の回復は「適度な疲れ」から
  9. ポイント9:最高の休暇は最高の睡眠から
  10. ポイント10:デジタルデトックスは必須じゃない


ポイント1:休暇は「長さ」より「アレ」と「アレ」

まず最初のポイントは「休暇の長さ」について。

「休暇って長ければ長いほどいいんでしょ?」

多くの人が漠然とこう考えてるんじゃないでしょうか。実際、この考えを裏付けるような、研究もあって、例えば男性管理職を40年間も追っかけた調査によると、年間の休暇取得が3週間以下の人は、3週間以上取る人に比べて、調査期間中の死亡リスクが37%も高かったぞ!なんてことが分かってたりします。

なんで長い休暇がいいかっていうと、私たちの心と体が仕事モードから完全に回復モードに切り替わるには、それなりの時間が必要だから。実際、研究では、ウェルビーイングがピークに達したのは休暇の「8日目」あたりだったと報告されていたりします。

…と、ここまで聞くと「やっぱり長期休暇最強じゃん!」って思うでしょう。実際、複数のメディアでも、この研究をもってなるべく休暇は長めに取りましょうと説明しているところも少なくないようです。

しかし、話はそう単純じゃないから面白い。

2023年に行われた別のメタアナリシスでは、調査した13の研究(計1,428人分)を分析した結果、「休暇期間の長短は、幸福度のアップには特に有意な差をもたらさなかった!」っていう結論が出ているんですよ。

ってことで、案外はっきりした結論がいまだ出ていない論点ではあったりするんですが、ここで皆様とシェアしたい提案が、「1回の『長さ』にこだわりすぎるな。もっと大事なのは『頻度』と『質』だ!」っていう視点。

これまでの研究で繰り返し確認されている点として、休暇の効果ってのはそう長続きしないんですよ。だったら、年に2, 3回、清水の舞台から飛び降りる覚悟で2週間の休みを取るよりも、3〜4日の短い休みを年に5回とか取って、「回復ゲージ」がゼロになる前にこまめにチャージしてやる方が、トータルでの幸福度は高くなるんじゃないか?って考え方ですね。休暇効果のフェードアウトが早いって事実を踏まえるなら、むしろ「定期的に短い休暇を繰り返し取る方が望ましい」と提言している研究者も一人や二人じゃないんですよね。

そして、もう一つ大事なのが「年間の総休暇日数」。アメリカの医師3,000人以上を対象にした調査によると、

  • 年間の休暇取得日数が3週間(15日)を超えると、バーンアウトのリスクが有意に低くなる
  • 特に年間20日以上休んでるお医者さんは、全然休まないお医者さんに比べて、バーンアウトの確率(オッズ比)が0.59、つまり半分近くまで下がっていた

ってことが報告されています。要するに、年に最低でも15日、できれば20日ぐらいの休みを「トータルで」確保できると、燃え尽きリスクをかなり減らせるってことっすね。

ここまで言っても、「でも短い休みって、本当に意味あるの?」って思う人もいるでしょう。しかし、研究によると、たった4泊の短期休暇でも、ストレスや心身の緊張が改善して、その効果はなんと最大で45日間も続いたと報告されていたりします。しかも、この研究では、ホテルに泊まるグループと自宅で過ごす「ステイケーション」組で、効果の持続性に差はなかった、とされています。

要するに、短い休みでも、たとえ家で過ごすとしても、「ちゃんとデザインすれば」効果は絶大だってこと。

ってことで、現実的に考えると2週間の休みを年に何回も取るってのは多くの方にとって無理ゲーだと思うんで、まずは「3連休を年に5回は死守する!」みたいな感じで頻度を重視しつつ、年間でトータル15日の休みを目指す、さらに休暇の時には「質」を最大限引き上げるってのが一番かなーと思います。

ってことで、以降はその「質」とは何か?というお話です。

ポイント2:「心理的離脱」をマスターせよ

休暇の質として、これだけは絶対に押さえておけ!という概念があります。それが「心理的離脱(Psychological Detachment)」というやつです。

これは要するに、「仕事以外の時間に、仕事関連の思考や活動から精神的に完全に距離を置き、スイッチをオフにすること」。物理的にオフィスを離れるだけじゃダメで、頭の中から仕事を追い出せるかどうかが勝負ってわけですね。

心理的離脱は、数ある回復テクニックの中でも、効果は別格。2017年に行われた大規模なメタアナリシス(91もの研究、約3万8千人分のデータを統合)によると、心理的離脱をきちんと行えた人は、

  • メンタルヘルスへの効果
    • 燃え尽き感(バーンアウト)が大幅に低下(相関係数 r = -0.36)
    • 人生の満足度がアップ(r = 0.32)
    • 睡眠の質が改善し、心身の不調も減る 

ってなことが示されています。要するに、ちゃんとデタッチメントできてる人は、メンタルが安定して、よく眠れて、人生ハッピー!ってことっすね。さらに、2025年に発表された最新の縦断研究では、コロナ禍のロックダウンという極限状況下でさえ、心理的離脱ができていた人は、なんと1年後もうつや不安のリスクが低く、生活満足度も高かったことがわかっています。すごいですねぇ。

さらに、上記のメタアナリシスによると、心理的離脱は、タスクパフォーマンス(自分の担当業務をきっちりこなす能力)においても小さいながらもポジティブな関係(r = 0.09)が認められておりまして、しっかり休んで回復すれば、仕事にも集中できるんじゃないか、ってとこですな。

ここで思い出されるのが、スティーブ・ジョブズの逸話。彼は休暇で仕事から完全に距離をとることで有名で、休暇明けの彼はアイデアが爆発して、むしろ社員たちが「月曜のジョブズが怖い…」と恐れるほどだったと言います。つまり、一度頭を完全に空っぽにすることは、創造性も磨き上げ、常識を覆すような「ブレークスルー」を生む土壌になるんじゃないか、とも考えられたりしますね。

ってことで、健全なメンタルのためにも、休暇明けの生産性の高い仕事のパフォーマンスのためにも、「いかに仕事としっかり距離をとれるか?」は徹底的にデザインしておくのがおすすめです。最低でもメールの自動返信くらいは設定しておくべきでしょうねぇ。

▼ 正直、あまりこの手の本は好きじゃないのですが(サンプリングがめちゃくちゃだったり、主観とエビデンスの区別がはっきりしていなかったりして、どこまで信用するかの判断するための追加のリサーチが面倒なので)、以下でも「トップ5%の社員は休みの時はきっちり休む」的なことが書いてあったのでご参考まで。

AI分析でわかった トップ5%リーダーの習慣


ポイント3:「ガチな趣味」こそが最高の幸福をもたらす

休暇の過ごし方として、多くの人が思い浮かべるのは「ひたすらリラックス」じゃないでしょうか。ビーチで寝そべる、温泉に浸かる、家でゴロゴロする…。もちろん、それも大事。否定するつもりは毛頭ございません。

が、もしあなたが休暇を通じて「長続きする幸福感」を手に入れたいなら、もう一歩踏み込んでマスタリー経験(Mastery Experiences)を取り入れるのを激しくお勧めしております。

マスタリー経験ってのは、要するに「新しいスキルを学んだり、何かに挑戦して『できた!』っていう達成感を得たりすること」。例を挙げると、

  • 海外旅行先で、現地の言葉を覚えて使ってみる
  • やったことのないサーフィンや登山に挑戦する
  • 陶芸教室に参加して、不格好でも自分の作品を作り上げる
  • ボランティア活動に参加して、誰かの役に立つ

みたいな感じ。一見すると「休みなのに、なんでそんな面倒なことを…」って思うかもしれません(正直私も思っています)。が、この「ちょっとした挑戦」が、私たちの心にめちゃくちゃ良い影響を与えてくれることが明らかになってきるんですよね。

ちなみに、心理学の世界では、こういう活動を「真剣な余暇(Serious Leisure)」なんて呼んだりします。ふざけた名前ですけど、効果は本物で、こういう活動にガチで取り組むと、時間を忘れるほど没頭するフロー体験(いわゆる「ゾーンに入る」ってやつです)が生まれやすい。そして、その先にある「できた!」という達成感が、私たちの自己肯定感や「自分、やればできるじゃん」っていう自己効力感を爆上げしてくれるわけですな。

想像に難くないですが、これは、ただのリラックスでは得られない種類の幸福感。少しかっこつけた言い方をすれば、気持ちいいとか楽しいっていう短期的な幸福を「ヘドニア的幸福」、一方で、人生の意義や目的、成長を実感することから得られる長期的な幸福を「エウダイモニア的幸福」と呼びます。マスタリー経験がもたらすのは、まさに後者の、深く、長く続くタイプの幸福感なわけですね。

実際、研究では、休暇中にマスタリー経験を積んだ人ほど、休暇後の生活満足度が高いって結果が出ています。これは短期旅行でも長期旅行でも変わらなかったそうで、マスタリー経験こそが、休暇の効果を持続させる最強のエンジンだ、と。

私自身もこの点については、経験がありまして、ただ観光地を巡るだけの旅行より、現地で料理教室に参加したり、拙い言葉で地元の人と交流したりした旅行の方が、何年経っても鮮明に記憶に残ってて、「あの旅は最高だったな…」って思えるんですよね。あれはまさに、マスタリー経験がもたらすエウダイモニア的幸福だったんだなーと。

皆様のなかにも、バックパッカー旅行を通じて「人間的に成長できた」と感じたり、休暇をボランティア活動に使って「自分の価値観が変わった」という経験がある方もおられるはず(そのような話を聞いたことくらいならあるかもしれません)。 あれも全部マスタリー経験の一種。新しい挑戦が、私たちに新しい視点を与え、人生を豊かにしてくれるわけですね。

もちろん、休暇のすべてをマスタリー経験で埋め尽くす必要はありません。リラックスとのバランスが大事。とはいえ、「ただ休む」に加えて、「何か一つ、新しいことに挑戦してみる」という要素をプラスしてみるのは激しくお勧めです。

▼ おすすめ本
フロー体験入門―楽しみと創造の心理学


ポイント4:「誰と過ごすか」が休暇の価値をブーストする

休暇の計画を立てる時は、どうしても「どこへ行くか」「何をするか」に目が行きがち。もちろんそれも超大事。ですが、最新の研究は、それと同じかそれ以上に「誰と、どのようにつながるか」が重要だぜってことを教えてくれてます。

これは、心理学でいうところの関連性(Relatedness)ってやつで、「他者と親密な関係を築き、つながっていたい」という人間の根源的な欲求が根拠として説明されます。この欲求が満たされたときに、私たちは深い幸福を感じるようにできている、と。休暇ってのは、この「つながり」を育むための絶好の機会というわけですね。

家族やパートナー、気のおけない友人との旅行を思い浮かべてみてください。美しい景色や美味しい食事もさることながら、そこで交わした何気ない会話や、一緒に笑い転げた瞬間こそが、後々まで温かい記憶として残っている方も少なくないはず。

実際、ある研究では、「人間関係を深めること」を旅の目的にしていた人ほど、休暇後により多くのポジティブな感情を報告していた、なんて結果も出ていたりします。要するに、「どこへ行くか」だけでなく、「この旅を通じて、誰との絆を深めようか」という意識を持つだけで、休暇の質がグッと上がるんじゃないか、というわけっすね。

さらに面白いのが、旅行中に撮った写真を、帰ってから家族や友人と一緒に見ながら「この時さー、マジでウケたよね!」みたいに語り合う。たったこれだけのことでも、他者とのつながりが再確認されて、幸福感が高まることが報告されていたりするので、旅行後にもこのテクニックは使ってみるのがおすすめ。

当然、この「つながり」は、何も身内だけの話に限りません。例えばボランティア活動を通じて、現地のコミュニティの人々と新しい関係を築くこと。これもまた、参加者の人生に大きな変化をもたらす強力な「関連性」の経験になることがわかっています。

結局のところ、私たちは一人じゃ生きていけない社会的などうぶつなわけで、だからこそ、休暇の計画を立てる際には、「アクティビティ」のリストと並行して、「誰とのどんな思い出を作るか」という視点をぜひ持ってみてください。私も一人の時間も大好きですけど、振り返ってみて一番記憶に残ってるのって、やっぱり旅先で仲間とどうでもいいことで笑い合った、あの瞬間だったりしますねぇ。

▼ 参考
最高の人間関係を構築する7つの柱(note)


ポイント5:ツアー旅行で失われる「○○感」

こちらもよく言われるところですが、「コントロール(Control)感」も超大事。「自律性」とか「自己決定感」といった言葉もほぼ同義ですね。

これは要するに、「休暇中に何を、いつ、どこで、どうやって過ごすかを、他人から指図されるんじゃなく、全部自分で決められる!」っていう感覚のこと。

団体旅行で「はい、次は〇〇へ移動しまーす!」「食事の時間は〇時でーす!」みたいな時間の過ごし方では、コントロール感が一気に欠如しちゃうので基本的には避けたほうがいいでしょう。

なぜこの「自分で決めた」って感覚が大事かといえば、私たち人間は、自分の人生の手綱を自分で握っていると感じたい、という根源的な欲求を持っているから。心理学でいう自己決定理論の根幹をなす考え方で、この欲求が満たされると、満足度や幸福感が自然と高まることがわかっています。

休暇もまったく同じで、せっかくの休みなのに、パートナーの機嫌をうかがいながら、あるいは子供の要求に振り回されっぱなしで、「自分のやりたいことが何もできなかった…」なんてことになったら、休んだ気なんてしませんよね。

逆に、たとえ家でゴロゴロするだけの「ステイケーション」だったとしても、「今日は一日中パジャマで過ごすと俺が決めた!」「昼飯はデリバリーでジャンクなものを食うと俺が決めた!」というように、一つ一つの行動に自分の意思が介在していれば、それはもう立派な「コントロール」なんですよね。

研究によると、この休暇中のコントロール感が、休暇後の生活満足度を予測する重要な因子であることも示されています。つまり、休暇の過ごし方を自分でコントロールできた人ほど、「ああ、いい休みだったな。明日からまた頑張ろう」って思える確率が高いってことっすね。

ってことで、次の休暇を計画するときは、ぜひ「この休みの期間、自分は何をしたいんだっけ?」と自分に問いかけて、その声に耳を傾けてみてください。家族旅行だとしても、「1時間だけは一人でカフェに行く自由時間が欲しい」と交渉してみる。友人との旅行なら、「ここは別行動にしない?」と提案してみる。

すべてを自分の思い通りにするのは難しいかもしれません。しかし、「自分の休暇の主導権は、あくまで自分にある」という意識を持つだけで、休みの質は劇的に向上するはず。ぜひお試しあれー。

ポイント6:脳が喜ぶ「非日常」を摂取せよ!

休暇における新規性(Novelty)、つまり「新しい体験」も大事。

これは、日常から離れた非日常的な経験そのものが、私たちの幸福度を高めてくれるって話で、未知の土地の空気を吸い、見たこともない風景に圧倒され、初めて食べる料理に舌鼓を打つ。こういう新しい刺激ってのは、私たちの好奇心を満たし、脳の報酬系をガッツリ活性化させることがわかってるんですな。

例えばある研究では、休暇中に「新しい体験をしたいという欲求が満たされたなー」と感じた人ほど、主観的な幸福感が高い傾向が示されていたりします。非日常の体験がマンネリを打破して、凝り固まった私たちの視野をグンと広げてくれるんでしょうな。

もっというと、もともとの性格として「新しいものが大好き!」っていう新奇追求傾向(Novelty-seeking)が高い人ほど、旅行に行く回数も多くて、幸福度も高いなんていう報告もありますね。

とはいえ、「新しい体験」ってのは、アマゾンの奥地に行くみたいな、大冒険じゃなきゃダメなのか?っていうと、全然そんなことはなくて、大事なのは、スケールの大小ではなく「いつもの自分」のパターンを壊すこと。

例えば、

  • 旅行先の知らない路地裏に、あえて迷い込んでみる
  • ガイドブックに載ってない、地元の人しか行かないような食堂に飛び込んでみる
  • いつもは泊まらないようなタイプの宿(ゲストハウスとか、古民家とか)を選んでみる

こんな些細なことでも、十分に脳を刺激する「新規性」になりえます。実際によく聞く話として、旅の醍醐味ってのは、有名な観光スポットよりも、むしろ予定外のハプニングとか、偶然の出会いだったりするってやつですね。

ってことで、「いつものパターン」から一つでもいいので、意識的に逸脱する要素を組み込んでみるのもおすすめでございます。

▼ おすすめ本
習慣と脳の科学――どうしても変えられないのはどうしてか


ポイント7:○○に身を浸せ

続いては、私が個人的に最も効果を実感しているポイントで、自然との触れ合いでございます。

海、山、森、川…こういった自然豊かな環境に身を置くことが、私たちのメンタルヘルスにめちゃくちゃ良いって話で、直感的にわかる方も多いでしょう。

これについては、以前Twitter等でも触れてましたが、界隈ではバイオフィリア仮説っていうのがあって、人間は進化の過程で、生命や自然とつながりを求める本能的な欲求を刷り込まれていると考えられています。だから、自然の中にいると、理屈抜きで「あー、気持ちいい」「落ち着くなー」って感じるわけです。



実際に、研究でも、

  • 生理学的メカニズム: č‡Şç„śăŽé˘¨ć™ŻăŤč§Śă‚Œă‚‹ă¨ă€ă‚šăƒˆăƒŹă‚šăƒ›ăƒŤăƒ˘ăƒłă§ă‚ă‚‹ă‚łăƒŤăƒă‚žăƒźăƒŤăŽăƒŹăƒ™ăƒŤă‚„čĄ€ĺœ§ăŒä¸‹ăŒă‚‹
  • 神経学的メカニズム: ăƒă‚Źăƒ†ă‚Łăƒ–ăŞă“ă¨ă‚’çš°ă‚Ščż”ă—č€ƒăˆăŚă—ăžă†ă€ŒĺčŠťć€č€ƒďźˆrumination)」に関連する脳の特定領域(膝下前頭前皮質とか)の活動が、自然に触れることで低下する

といったことが示されています。しかも、この効果はそこまで長時間自然にいる必要はないのがまたうれしいところ。たった20分ほど自然の中にいるだけでストレスホルモンが減少し始めたり、週に合計120分以上、自然と触れ合う時間を持つだけで、健康状態やウェルビーイングが有意に向上したりするって報告もあったりします。

となれば、この効果を休暇に応用しない手はないでしょう。実際、国立公園へのハイキングや、美しい田園地帯への旅行といった「自然ベースの観光(Nature-Based Tourism)」は、もはや娯楽の域を超えた、効果的な「非薬理学的介入」、つまり薬を使わない治療法とさえ言われたりレベルなんですな。

実際、エクアドルの保護林で行われたある研究では、うつや不安、ストレスのレベルが極めて深刻だった大学生たちに自然観光を体験してもらったところ、直後にはこれらの症状が劇的に改善した、なんていう結果も出ています。

ここで面白いのが、「環境のコントラスト」が効果を増幅させる可能性。例えば、上記の研究によると、冬が長くて暗い北欧の国に住む人たちが、休暇で太陽が降り注ぐ熱帯の国へ旅行した場合、心理的な幸福度がガッツリ向上して、その効果がより長く続いたんだそうな。日常とのギャップがデカければデカいほど、脳が受ける「非日常」の刺激も強烈になるってわけですね。

ってことで、日常を改めて振り返ったうえで、なるべく「非日常」を感じられる自然環境に身を置いてみるってのはグレートな休暇ではなかろうかと思っております。

▼ おすすめ本
NATURE FIX 自然が最高の脳をつくる―最新科学でわかった創造性と幸福感の高め方


ポイント8:最高の回復は「適度な疲れ」から

「休暇なんだから、一日中ゴロゴロしてたい!」って気持ちは痛いほどわかりますが、「最高の回復効果」を得たいなら、あえて休暇中に体を動かす、アクティブ・リカバリーという視点も大事。

例えば、オーストリアのチロル地方で、普段あまり運動しない健康な男女52人を対象に行われた、面白い研究があります。

参加者には1週間の休暇を過ごしてもらい、その際2つのグループに分けてます

  • グループ1: ă‚´ăƒŤăƒ•ă‚’ćĽ˝ă—ă‚€ăƒăƒźăƒ 
  • グループ2: ăƒŽăƒŤăƒ‡ă‚Łăƒƒă‚Żă‚Śă‚Šăƒźă‚­ăƒłă‚°ă‚„E-バイクを楽しむチーム

そして休暇の前と後で、幸福度やストレスレベル、心拍変動(自律神経のバランスを示す客観的な指標)、睡眠の質がどう変わるかを測定したんだそう。その結果、

  • 幸福度が爆上がりし、ストレスが激減
    • たった1週間で、ゴルフグループは幸福度が40%アップ、ウォーキンググループでも19%アップした
    • さらに、両グループともストレスレベルが約44%も減少し、回復度も20%以上向上した
  • 睡眠の質が劇的に改善
    • 「よく眠れた」という主観的な感覚だけでなく、HRVから分析した客観的な睡眠の質(スリープ・アーキテクチャ)も、両グループで有意に改善した。特にウォーキンググループは、「やや問題あり」の睡眠が「ほぼ正常」のレベルまで改善した。
  • 心臓の健康にも良い影響が
    • HRVの数値も改善傾向にあった。特に、心血管疾患のリスク指標とされるSDNNは、ウォーキング組で有意に改善した
    • 研究チームいわく、ゴルフよりもノルディックウォーキングのような有酸素運動の方が、心臓の健康にはより直接的に効くのかもしれない、とのこと 

ってことで、休暇中の運動の重要性がよくわかりますな。ただしこの研究の本当にすごいところは、ここからで、このアクティブな休暇から2年後、追跡調査をしたところ、

  • 参加者の85%が、より活動的な生活を送るようになり、健康意識も高いまま維持していた!

ってなこともわかったらしい。要するに、たった1週間のアクティブな休暇が、その後の人生をより良い方向に導くための「最初の火花」になった、と。これはすごいですな。

他の研究でも、休暇中に散発的に運動するだけでは、幸福度に大した影響はないことが示唆されています。大事なのは、休暇中に「定期的」に体を動かす習慣を取り入れること。なにもアスリートみたいに追い込む必要はなくて、実際、この研究の参加者も普段は運動しない人たちでした。

ってことで、お盆休みでは、ぜひ「午前中に30分だけ散歩する」「レンタサイクルで街を巡る」といった、軽い運動を計画に組み込んでみてください。心地よい疲労は、その夜の睡眠を深くし、食事を美味しくし、そして何より、あなたの心と体に「リセットボタン」を押してくれるはずでございます。

▼ おすすめ本(再掲)
習慣と脳の科学――どうしても変えられないのはどうしてか


ポイント9:最高の休暇は最高の睡眠から

これまで休暇中にすべき「行動」について色々と話してきましたが、ここで一度、最も基本的かつ最強の回復行動について立ち返りたいと思います。そう、睡眠でございます。

「休暇なんだから夜更かしして、溜まってた映画やドラマを一気見したい!」って気持ちはよくわかりますが、休暇の効果を最大化したいなら、最高の睡眠(量と質)を確保するのが大前提。

私たちが日々の仕事やストレスで、知らず知らずのうちに「睡眠負債」を溜め込んでいるってのは耳タコでしょう。この借金が、パフォーマンスの低下やメンタルの不調を引き起こす元凶なわけです。そして、休暇ってのは、この睡眠負債を返済し、めちゃくちゃになった睡眠パターンをリセットするための、またとないチャンスなんですな。

睡眠負債は返済できない!って主張もある程度は真実なんですが、全く返済できないかといわれると実はそうではなかったりします。

例えばオランダの研究チームが行った研究では、休暇中に睡眠時間が増え、睡眠の質が向上した人ほど、休暇中から休み明け2週間にわたって幸福度や健康状態が大きく改善していたことが明らかになっています。具体的には、

  • 睡眠時間が伸びるだけで効果あり
    • この研究の参加者は、休暇前は平均6.7時間だった睡眠時間が、休暇中には平均7.4時間に増加した
    • そして、この睡眠時間の長さは、休暇中の幸福度アップと明確に関係していた(r=0.38) 
  • 睡眠の「質」も重要
    • 睡眠の質が高いと報告した人ほど、幸福度も高まる傾向にあった(休暇中の相関 r=0.38) 

要するに、休暇中の睡眠は私たちの睡眠の問題を(ある程度は)立て直してくれる力があるってこと。質の高い睡眠は、脳の機能を最適化してくれます。記憶を整理し、認知機能を高め、そして休暇後の「創造性」を育むための土台となります。

皆様のなかにも経験がある方もおられるかと思いますが、休暇中にしっかり眠れた週の翌週は、頭の回転が明らかに違うはず。アイデアが次々と湧いてきたり、普段なら面倒に感じる仕事にも前向きに取り組めたりする。あれはまさに、睡眠負債が返済されて、脳がフルスペックで稼働している状態なんでしょう。

ってことで、お盆休みにはぜひ「夜更かしして遊ぶ」という誘惑に負けず、長く良好な睡眠をとるように意識してみてはいかがでしょうか。

ポイント10:デジタルデトックスは必須じゃない

最後のテーマは、最近よく耳にするデジタルデトックスについて。

休暇中くらいスマホやPCから離れて、心穏やかに過ごそうぜ!ってやつですね。最近では、Wi-Fiも通じない山奥の宿に泊まる「デジタルデトックス観光」なんてのも流行ってたりしますね。

実際、デジタルデトックスには良い面がたくさん報告されておりまして、

  • ストレスが減る
  • 気分が良くなる
  • 睡眠の質が上がる
  • 目の前にいる人との関係が深まる

といったあたりは複数の研究で確認されていますね。特に、2024年に発表されたメタアナリシスでは、「デジタルデトックスは、うつ症状の軽減に有意な効果がある」という、かなり強力な結論が出ています。SNS上のキラキラした投稿を見て落ち込んだり、ネガティブなニュースに心をかき乱されたりすることがなくなるわけだから、これは納得の結果でしょう。

しかし、個人的には、「ぶっちゃけ、デジタルデトックスは、全員がやるべき必須項目ではないのでは?」というスタンスだったりします。

なぜなら、エビデンスをよく見てみると、話はそんなに単純ではないからです。例えば上記のメタアナリシスでは、うつ症状には効果があった一方で、全体的な精神的幸福度や、人生の満足度、ストレスレベルの軽減については、「特に有意な効果は見られなかった」とも報告してるんですよね。

つまり、デジタルデトックスはうつっぽい気分の落ち込みには効くかもしれないけど、「これをやったから人生バラ色ハッピー!」ってなるほど万能じゃない、ってことっすね。

それどころか、無理にやろうとすると逆効果になる可能性すらありまして、特にデトックスを始めたばかりの頃は、解放感よりもむしろ「ああ、あの投稿への『いいね』が気になる…」「連絡取れなくて不安だ…」みたいな、禁断症状にも似たネガティブな感情に襲われる人も少なくないんですよ。これでは、リラックスするために始めたのに、余計なストレスを抱え込む本末転倒な事態になりかねません。

私が言いたいのは、デジタル「デトックス(解毒)」という、ちょっと過激な言葉に振り回される必要はないってこと。スマホやSNSが、あなたにとって純粋な楽しみや、大事な人とのコミュニケーションツールとして機能しているなら、無理に断ち切る必要なんてないのではないかと思っています。

大事なのは、自分が「テクノロジーに使われる」んじゃなく、「テクノロジーを使いこなす」っていう主導権を握ること。例えば、「食事中と寝る前1時間はスマホを見ない」とか、「通知は全部オフにして、自分がチェックしたい時だけ見る」とか。そういう自分なりのルールを決める方が、完全なデトックスよりも現実的で、長続きするんじゃないでしょうか。

私の場合は、旅先での情報収集や写真撮影にスマホは欠かせないんで、完全オフは無理。とはいえ、「仕事のメールやチャットアプリは休暇中絶対に見ない」というルールだけは死守してます。完全にデジタルとは離れなくても、それでも気分的には結構すっきりした気がしてたりします。

ってことで、多くの人にとっては、そこまで神経質になりすぎる必要はないんじゃないかなーと思っております。

おわりに

以上、今回は最高の休暇をデザインするための10のポイントを考えてみました。

もちろん、これら全てを完璧にこなす必要は全くありません。ただ、「今年のお盆休みは、ちょっとだけ戦略的に過ごしてみるか」くらいの軽い気持ちで、一つでもピンときたものを試してみていただければ幸いです。

最高の休暇は、最高の自己投資。皆様が心身ともに満たされた、素晴らしいお休みを過ごせることを願っています!

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ではまた次回!


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というのも、私自身はこうして論文を読んで、ゴリゴリと文章を書くのは好きなんですが、いかんせんそれを多くの人に届けたり、ビジネスとして成長させたりするのが、まあビックリするほど苦手でして…。

そこで、こんな方を探しています。

  • 私が書いたゴツゴツした文章を、もっと読みやすく、面白く編集してくれる方
  • そして何より、より多くの人に届け、ビジネスとして成長させる戦略(マーケティングとかグロースとか、そういうカッコいいやつです)を一緒に考えてくれる方

長期的に、腰を据えてご一緒できる方だと、めちゃくちゃ嬉しいです。

もちろん作業は完全オンラインで住んでいる場所や作業する時間は一切問いません。

少しでも興味を持っていただければ、まずは【こちらのAboutページ】を読んでみていただければと。コンセプトに共感してくれた上で、もしご興味があれば、DMか、ニュースレターへの返信で、ぜひお気軽にご連絡ください。よろしくお願いします!

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