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【人生100年時代の人間関係】20代と30代では最適な「人脈づくり」は違うらしい|ロチェスター大学長期研究より
20代は量、30代は質。その戦略が30年後の幸福度を左右する。
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おくさん
2024/04/24

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本ニュースレターにご興味をもっていただきありがとうございます!このニュースレターでは、中国清華大学大学院に留学中でありサイエンスライターなどをこなす筆者が、科学的知見をベースにあなたの人生の道しるべを提案します。

最近では「検索エンジン、AIの発達で各人が欲する情報に容易にたどり着けるようになった!」などと言われますが、実際にはテキストの複雑さが低い、つまり平易な文章ばかりが表示されるし、プロンプトによらず結局最小公倍数的な情報が提供されるようになってるしでニッチで深い情報にたどり着くための道のりはむしろ長くなってしまっているのが現状だったりします(R)。

もちろんAIはなんでも知っているけれど、それと同時に大多数の人がニッチで深い情報には興味を示さないことも知っています。だからAIはあえてニッチ情報を提供せず、結局情報の濁流の中で「より信頼でき、本当に価値ある情報」にたどり着くのは一層困難になっているというわけ。そこで本ニュースレターは検索エンジン、AIからは辿り着けない「ニッチ」な科学的知見をニッチなあなたに毎週お届けします。ゴミがあふれるネット上においてキラキラと光る質の高いコンテンツを目指しています。

よろしければあなたの人生を彩るヒントとしてご活用いただければ幸いです。少しでもご興味があればぜひ購読してください(無料です)。

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ってことで今回は人間関係のお話です。

良好な人間関係が私たちの心身に大きな影響を与えることは間違いないところ。実際、これまでの研究によると、人間関係は、

  • タバコ、肥満、アルコールの過剰摂取よりも、早死にのリスクを下げる(R
  • ストレスや不安の軽減、予防に役立つ(R
  • 自尊心やポジティブ思考を強化して精神的なウェルビーイングを高める(R)
  • 免疫機能の改善にも寄与する(R

といったところがわかってたりしますね。こうした人間関係の重要性から、本ニュースレターでもこれまで「友達を作る方法」「人脈を広げる方法」みたいな記事を複数お届けしてきたわけですが、今回は、「人生のステージによって求められる人間関係の在り方は異なるんだぞ!」という点に着目しようかと。

(参考:最近だとこんな記事を書きましたね)



特に、(本ニュースレターの読者さんに多い)20代と30代では、人間関係においてフォーカスすべき戦略に大きな違いがあるんですよね。つまり、20代と30代では付き合う人、付き合い方によって長期的な成功、幸福度が変わってきたりするわけです。

まあ考えてみれば、この年齢層では「学生➡社会人」「独身➡結婚・子供」「就職➡安定/転職」「世話を見られる➡世話を見る」「体力の低下」、、みたいにいろんな要素に変化がみられる時期ですからねぇ。求められる人間関係に違いが生じるのもうなずけるでしょう。しかし実際には年齢に関係なく「とにかく人脈を広げるぞ!」って側面ばかり重視して名刺コレクターになってしまっている人も多かったりとか、「今の自分に必要な人間関係はなにか?」を深く認識している人は少ないのが現状なんですよね。そんなわけで以下では、「20歳と30歳ではこんな人間関係を構築していた人が将来(50歳になったとき)にいい人間関係と幸福な精神状態をキープできていたぞ!」というデータを取り上げてみます。

いつも通り、すべての人にばっちり当てはまるってわけではないでしょうが、「こういうデータもあるんだなぁ」ってところを軽く頭に入れたうえで、今後の人間関係の構築(および破壊)を考えていただけるとよろしいのではないかと思います。

*なお、今回はいつものようなテーマ回ではなく、試験的に一つの論文を中心に深ぼり、分量も少なめにしてみました。ご意見ご感想などあればコメント等に残していただければ幸いです。





ってことで今回メインで扱うのは、ロチェスター大学などの研究。この研究では20歳、30歳時点での人間関係を調べて、その人たちが50歳になったときの諸要素に影響を与えるポイントってなんなの?ってのを分析してます。具体的な研究手法を簡単にまとめておくと、


  • 参加者は、1974年から1980年の間にロチェスター大学の学部生であった222人(当時18~22歳)。参加者は、20歳時と30歳時の2つの時点で、ロチェスター交互作用記録(RIR)と呼ばれるイベント条件付きの経験サンプリング日記を記入した(下図)。RIRでは、参加者は10分以上続いた社会的交流(要するに誰かとかかわりを持ったら)について、その直後(または可能な限り直後)に記入を行うよう求められた


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  • 20歳時と30歳時の測定では、1日あたりの社会的交流の時間と社会的交流の回数が測定された。また、社会的交流の質を表す指標として、それぞれの交流の「親密さ」と「不快さ」を7段階で評価してもらった
  • 同じ人たちが50歳になったときに再度集まってもらい、現状の社会的なつながりの要素(友情の質など)と心理的要素(孤独、抑うつ、心理的ウェルビーイング)を評価した。友情の質は、社会的、感情的、レクリエーション的、知的な親密さの観点から測定された


みたいな感じです。人間関係の量と質が最大30年後の人間関係及びメンタルに及ぼす影響を調べたというわけですね。さらに経験サンプリングを用いることで日常生活の自然なシチュエーションにおける人間関係の効果を調べられているのが特徴の前向き研究と言えるんじゃないかと。



で、結果的にどんなことが分かったかといえば、


  • 20歳時点での社会的交流の量(質ではない)と、30歳時点での社会的交流の質(量ではない)が、50歳時点での心理社会的転帰を予測した!


だったらしい。要するに、20歳の時点で他人とのかかわりが多いと報告した人は、50歳時点ではより質の高い友人関係、より良いメンタルの状態をキープできている傾向があった(孤独感や抑うつが少なく、幸福感が高かった)んだけど、30歳時点ではいくら他人といっぱい関わろうと50歳時点での人間関係やメンタルは改善しなかったのだ、と(むしろ若干ネガティブに働いてる)。逆に、「質」の観点では、20歳と30歳で逆転していて、20歳時点よりも30歳の時点で質の高い関係性を構築していた人は中年になったときに人間関係やメンタルがより良好だったみたい。「若い時にどんな人間関係を築けているか」が20年後および30年後の自分が親密な人間関係と有意義な人生を送れているかを決める、って考えるとなかなかすごい話ですなぁ。

まあとは言っても20歳のときは人間関係の質は重要じゃない!ってわけではなくて、詳細な分析によると、20歳時点での質の高い社会的交流は、30歳時点での質の高い社会的交流を予測し(β = 0.29、p < 0.01)、結果的に、50歳時点での友情の質の向上と関連していたみたい(β = 0.38、p < 0.01)。つまり20歳の時点で質の高い人間関係をそこまで重視する必要はないけれど、多くの人と関わる中で30歳になるくらいまでに質の高い関係性を構築する「スキル」を磨くことができれば、将来、いい仲間やメンタルを維持できるのではないか?ってわけですね。ただ、この研究では20歳の時点でどれだけ社会的な交流を頻繁に行っていても30歳時点での社会的交流の質は有意に予測しなかったぞーって結果も出ていて、ただむやみに量を「こな」しても十分じゃなさそうだなーとか感じましたね。ちゃんと毎回の交流に真剣に取り組む過程で「質」の高い関係性を築くスキルを磨いていかなきゃいけないのかもしれないですな。

ちなみに、この研究でちょっと意外な結果のひとつとして、以上の結果について性差は認められたかったそうな。


以上の結果について、研究チームは以下のように考察しておられました。

「社会的情報探索」が主要な目標であると考えられる20歳では、社会的交流の量は中年期の結果を予測したが、質は予測しなかった。しかし、30歳になると、交流の量はもはや中年期の心理社会的適応を予測しなくなった。「感情的親密さ」が主たる目標に代わると、社会的交流の量が多いことはあまり役に立たなくなるようである。30歳になってからの頻繁な社会的交流は、むしろ感情的親密さの目標の達成を妨げる可能性さえある。

特に30歳の成人にとって多くの人に対して社交的であることは、親しい人との質の高い経験を築ける機会を逃し、親密さの発達を阻害する可能性がある。我々の所見はこの可能性を示唆している。我々のデータは、この特定のライフステージでは、少数の親密な他者との情緒的な親密さを高め、維持する機会を最適化する一方で、明らかに小さい社会的ネットワークの中である程度の多様性を維持することの間でバランスを取らなければならないことを示唆している。


20歳と30歳では人間関係や生活、人生に対する動機づけが異なるのだから、人間関係に求める要素も違うのは当然だろう、というわけですね。ザックリ言えば20歳は「とりあえずいっぱい学んで目標を『選択』する準備をする」段階、30歳は「自身に集積された情報を整理して特定の目標を『掘り下げる』」段階、みたいな感じっすね。実際、この考え方は、成功する適応の特徴として知られるSDC(selective optimization with compensation)って理論とも合致していて、20歳は「選択」、30歳は「最適化」の年齢って覚えておくとよいかもしれません。

一方で、「とにかく人脈を広げろ!」論者の人が(意識してるか知らないけど)根拠にしている「社会情動選択性理論(Socioemotional Selectivity theory:SST、多種多様な他者と関わることで、自己、他者、社会について学習し、社会的スキルを発達できるって考え)」は基本的に20代くらいまでに当てはまるんだろうなーって気がしましたね。むしろ30歳以降は社会的な役割もはっきりしてきて「アイデンティティを特定したい!」って欲求が減り、少ない人間と親密な関係を築くのが主目的に代わり、より長期の視点で見てもそれが個人的な幸せと良好な人間関係の構築に寄与するんじゃないかなーと。「自分」と「他者」の両面から「『人』を知りたい」って気持ちがだんだん落ち着いてくるってわけっすね。実際、20代から30代にかけてネットワークサイズが縮小していくことは古くから確認されている点ですしねー。


ってことで全体をざっくりまとめると、

  • 20代はいろんな人と積極的に関わって「自分自身や他者についての理解」を深めると吉
  • 30代は基本的に人間関係を「絞っていく」段階。増やすよりも親密でいたい人を「選ぶ」勇気も大事
  • ただし20代でも「質」を軽視してよいというわけではないので注意(実際、20歳時点で親密レベルが高い人は30歳になっても50代になっても親密な人間関係を築けているという研究はほかにもある

といった感じでしょうか。参考になれば幸いです。ではまたー。


さいごに

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