userホモエビデンス:科学が読み解く人生の法則search
【後で読もう】先延ばし癖とおさらばするための15の戦略
(受動的な)先延ばしをしてると、体は老化するし心は病むし給料は下がるし成績は下がるし人生はつまらなくなるしでいいことなし。とはいっても気合があれば乗り越えられる!って問題でもないので、「先延ばし癖を改善する」ための建設的なヒントをまとめました!
like
user
おくさん
2024/01/22

本ニュースレターにご関心をもっていただきありがとうございます!本ニュースレターでは、中国清華大学大学院に留学中でありサイエンスライターなどの業務をこなす筆者が、科学的知見をベースにあなたの人生の道しるべを提案します。

購読中


私は極度の面倒くさがりでありとにかく「もっと楽に生きられないものか」と考えておりまして、無駄な寄り道をしなくない!という思いから、普段より学術文献を読み漁っています(去年は大体2000本くらい読んだ)。私自身の専門は免疫、環境、公衆衛生のあたりですが、心理学、恋愛、性科学、栄養学、運動科学などの研究も紹介しています(Xでも毎日一報くらい投稿しています)。本ニュースレターでは、私が気になって徹底的に調べあげたエビデンスベースの情報をあなたにも共有していく予定。しばらくは試行錯誤しながらの配信になるかと思いますが、少しでも興味があれば温かく見守っていただければ幸いです。

https://twitter.com/i/web/status/


https://twitter.com/i/web/status/1414532488442097668


----------------------------------------------------------------------------------


初回となる今回は「先延ばし」のお話。先延ばしが人生の様々な側面に大きな影響を及ぼすのは想像に難くないわけですけど、衝動に打ち勝って「すぐやる」人間になるにはどうすればいいんでしょうねー?ってとこですね。


歴史を振り返っても人間が先延ばしによってチャンスを失い(かけ)続けてるのは間違いところで、チャールズ・ダーウィンがフジツボの研究に没頭して自然淘汰理論の実現を20年以上遅らせたとか、レオナルド・ダ・ヴィンチが絵画の完成を7ヶ月から25年に引き延ばし死に際「多くのことをやり残した」と悔いた、といった逸話は有名でしょう。しかも、研究によれば先延ばしは「人間独自の行動」というわけでもないようで、実際ハトやサルなどの動物までも先延ばしをする傾向が確認されていたりするんだとか。「先延ばし」っていう行動にはより深遠な、おそらく進化的な側面があることが示唆されているわけですな。


とはいえ、人間の先延ばし傾向は近年急速に悪化してきておりまして、「人間、いや生物の性だから仕方ない」と片付けてはおけない状況。例えばピアーズ・スティールの調査によると、「慢性的な先延ばし」と判定される成人は、1978年の5%から2007年には26%に上昇し、「現代社会における憂慮すべき傾向だ」とまとめられていたりします。この割合は近年さらに増えていると想定されてまして、実際そのほかのデータも参照してみても、

  • Biomedical and Biotechnology Research Journal(BBRJ)の調査によると、約38.8%の学生が試験勉強を先延ばしにしていた。別の研究では、大学生の80%から95%が先延ばしをしていると報告した
  • カルガリー大学の最近の調査では、15%~20%の人が定期的に先延ばしをしていると回答している。サイモン・フレーザー大学の別の調査では、約51%の人がオンラインで時間を過ごすことで先延ばししていると答えている(「サイバースラッキング」と呼ばれている)
  • 2,000人の成人を対象とした調査では、18~24歳の若年層は、55~64歳の2倍、集中すべき時間にToDoリストにあるタスク以外のことに手を出す傾向があった(41% vs 81%)。Z世代の5人に1人は自分の先延ばし癖を恥ずかしいと感じており、79%はどうにかやめたいと思っている

みたいな調査・研究があって、数字にばらつきはあれど現代の多くの人(特に若者)に強力な先延ばし「癖」があり、そんな「悪癖」をどうにかしたいと思っているって現状は明らかでしょう。


で、重要なのは単に「タスクの完了が遅れる」「自分が嫌になる」みたいな影響だけでなく、「先延ばし」には様々な悪影響が複数の研究で確認されている点。

例えば、2013年に行われた研究によると、先延ばしは、

  • 収入の減少
  • 失業率の上昇
  • 雇用期間の短縮

につながるって結果が出てたりします。同様に、22,000人以上の従業員を対象とした米国の研究では、先延ばしの傾向が強い人は年収が低く、解雇される確率が高く、結果的に、先延ばしのスコアが高まるごとに、給与の大幅な減少と相関していたとか。具体的には、慢性的な先延ばしの度合いが1ポイント上がるごとに、給与は15,000米ドル減少したらしく、先延ばしの影響がいかにデカいかがお判りいただけるでしょう。


また、ご想像の通り先延ばしが最も発生しやすい領域の一つが「学問領域」。学生時代に「テスト前だってわかっているのに片づけを始めてしまった!」なんて経験はきっとあなたにもあるでしょう。


実際、2015年の研究では、学校の課題を先延ばしにしたり、勉強を後回しにしたりする習慣は、

  • 最終成績の低下
  • 課題の成績低下
  • ストレスレベルの向上

と関連することが示されていて、「リスキリング」「学びなおし」などが重要視されている現代においては、この結果は決して学生だけが注目すべきではないよなぁとか思うわけです。さらにドイツの学生3,000人以上を対象とした6ヶ月間にわたる研究では、学業を先延ばしにしがちだと答えた学生は、カンニングや盗作といった不正行為に手を染める可能性も高かったそうで、人生の成功に重要な役割を果たす「誠実さ」を維持する上でもこれはなかなか痛いデータだなーとか感じますな。


さらに「先延ばし」は仕事や学業にとどまらず、心身の健康も大きく蝕むことも分かってきております。これまでに研究によって示されてるところをざっと列挙してみると、

  • 約3500人の学生を9ヶ月にわたって追跡した研究では、先延ばし癖のある学生は数か月後、以下の指標が悪化している確率が高かった:
    • うつ
    • 不安
    • ストレス
    • 腕の痛み
    • 睡眠の質の低下
    • 運動不足
    • 孤独感
    • 経済的困難
  • 2016年にドイツのコミュニティで行われた研究によると、先延ばしは一貫して、より高いストレス、疲労、生活満足度の低下(特に仕事や収入に関するもの)、そしてうつ病や不安の症状と関連していることが示唆された
  • 2021年の研究では、就寝時間の先延ばしとうつ病の関連性を報告している
  • 700人以上を対象にした2015年の研究では、物事を先延ばしにする人は健康的な食事や定期的な運動といった健康的な行動を実践する可能性が低く、ストレスに対処するために自己破壊的な対処法を用いることが多かった。結果的に、先延ばしにしがちな人は、他の性格特性や人口統計を考慮しても、心臓の健康状態が悪くなるリスクが63%も高かっ
  • 2022年の研究では、慢性的に先延ばしする人はストレスレベルが高く、不眠症、消化器系の問題、筋肉の緊張と痛みといった急性的な健康障害を経験する可能性が高かった
  • 定期的に先延ばしにしている人は、頭痛、インフルエンザ、風邪、消化器系の問題など、より多くの健康問題を報告する傾向があり、また、ストレスのレベルが高く、睡眠の質も悪かったという研究もある
  • 2007年の研究によると、先延ばしにする傾向が強い人ほど、重要な健康診断や歯科検診の受診率が低く、先延ばし癖が間接的に健康上の問題を引き起こしている可能性も示唆されている
  • 先延ばしにする人は、うつや不安の症状が強くなる可能性があることは多くの研究で示されているが、2012年の研究によると、先延ばしする人は、セルフ・コンパッションが上手く発揮されていないことが報告されている
  • その他、先延ばしは以下のような心理傾向と関連することも確認されている
    • 批評や評価への恐れ
    • 課題に対する嫌悪感
    • 努力の短さ
    • 課題適性の低さ
    • 失敗への恐れ
    • 依存
    • 学習性無力感
    • 完璧主義
    • 不合理な思考
    • 持続性の欠如
    • 否定的な自己評価

ってな感じで、何故先延ばしが「人生を蝕む」と言われているかがよくお判りいただけるのではないでしょうか。


まあ公平のために言っておくと、近年では「先延ばしによって仕事のパフォーマンスがアップするぞ!」みたいに先延ばしのポジティブな側面を報告したデータがあるのも事実。例えば、2020年にみんな大好きアダム・グラント先生が、Academy of Management Journal誌に「When Putting Work Off Pays Off: The Curvilinear Relationship Between Procrastination and Creativity(仕事を先延ばしにして報われるとき:先延ばしと創造性の関係)」ってタイトルで発表した研究では、積極的な先延ばしによって創造性が高まる傾向が確認されたとか。『スタンフォード教授の心が軽くなる先延ばし思考』なんて本もそのような趣旨ですね。


というと、「結局先延ばしは味方なの?敵なの?」って気持ちになるかもしれませんが、大事なのは「先延ばしには少なくとも2種類ある」ことを認識すること。別にこれは私個人の意見ではなく古くから心理学の分野で主張されている理論でして、基本的に先延ばしは以下の2つに分けられます。

  • 能動的な先延ばし:プレッシャーの中で最大の成果を残すために、意図的に行動を遅らせること
  • 受動的な先延ばし:多くの人が思い浮かべるタイプの先延ばしで、やらなきゃいけないのに手が付けられない!ってタイプの先延ばし

ご想像の通り、上述の様々な健康、仕事上のトラブルと強く関連するのは「受動的な先延ばし」。


てなわけで、今回のエントリは、

  • 先延ばしを意図的に、目的を持って行うことで、メリットが得られる可能性があるのは事実だけど、そうじゃないネガティブだらけの先延ばしをどうにかしようねーの回

となりまして、以下では具体的な戦略を15個ほどご紹介してみようと思います。殊現代社会では、本人が気づいていようといまいと先延ばし癖を備えている人がほとんどなんで、意識的に改善すれば頭一つ抜け出せるんじゃないかと思う次第です。


ちなみに、先延ばしの対処法と聞くと「やっぱ〆切の設定でしょ!」みたいなアイデアが一般的ですが、オタゴ大学の研究では、締め切りがないとき、人々は最も効率的に行動する傾向があったぞ!って結果が出てたりして、課題によっては「締め切り」はむしろ逆効果になってしまう可能性もあったりします。以下ではこんな感じで意外な「先延ばし撲滅戦略」も含まれているのではないかと。


そろそろ新年の「フレッシュスタート効果」も切れかかっている頃でしょうから、「今年こそは!」って方にはぜひ参考にしていただければと思います。


先延ばしのメカニズム

具体的な戦略に移る前に、まずは「そもそも先延ばしって何で発生するの?」ってところをチェックしてみましょう。「先延ばし」というと、単なる「怠け癖」や「時間管理不足」として片付けられることが多いですけど、実際には複雑な心理現象でして、最近の研究では、先延ばしの原因となる認知的、感情的、神経学的要因の複雑な絡み合いが解明され始めているんですよね。