今回は前々回のアンケートで票の多かった「子育て研究」のまとめです!
子育てとは、人生最大のプロジェクトと言っても過言ではない。赤ちゃんの笑顔に癒されたかと思えば、夜泣きで眠れない日々。喜びと苦労が入り混じる、まさにジェットコースターのような体験だ。
でも、このジェットコースター、一度乗り出したら途中で降りるわけにはいかない。子育ては後戻りできない、一方通行の道なのだ。だからこそ、できるだけ信頼できる情報を元に、賢明な選択をしていきたい。
でも、世の中には子育て情報があふれすぎていて、何を信じていいかわからない...
そんなお悩みをお持ちの方が多くおられるのだろうと勝手に想像しております。私自身子育ての経験は全くありませんが、今回は最新の論文を共有することで、子育ての領域における「科学の眼鏡」を皆様に授けることができればと思っております。
本ニュースレターでは、徹底的に調べあげたエビデンスをベースに「より信頼でき、真に価値ある情報」をレポートし、ゴミがあふれるネット上においてキラリと光る質の高いコンテンツをお届けすることを目指しています。あなたの人生を彩るヒントとしてご活用いただければ幸いです。
「頭のいい子を育てるには?」という問いに、「大気汚染に気をつけろ」って答えはあまり聞かないでしょう。最近の研究では下手な教育よりも「大気の質」の方が将来の子供の頭脳を予測するのでは?ということが示されていたりするんですな。
例えば、コロラド大学ボルダー校の研究では、生後6ヶ月までの大気汚染への暴露が赤ちゃんの腸内細菌叢に影響を与えることを発見しています。「お腹の中の菌が頭の良さと何の関連があんねん!」と思われるかもしれませんが、腸内細菌叢は単に消化を助けるだけでなく、脳の発達にも影響を与えることがわかってるんですな。
研究では、交通、山火事、工場などから出る微粒子状物質(PM2.5やPM10)や二酸化窒素(NO2)への暴露が、赤ちゃんの腸内細菌のバランスを変えることを確認してます。例えば、PM2.5への暴露が多い赤ちゃんは、炎症を抑え、脳の発達を助ける「ファスコラルクトバクテリウム」という善玉菌が60%も少なかった、みたいな感じっすね。
本研究の結果を受けてタニヤ・アルデレテ先生は、頭のいい子供にしてあげたいならこんなことを意識してみては?とアドバイスしておられます。
1. 交通量の多い場所での散歩は避ける
2.家の中、特に子どもが長時間過ごす部屋には空気清浄機を置く
3.料理をするときは窓を開ける
4.できるだけ長く母乳育児を続ける
一見、母乳育児は無関係に見えますが、健康な腸内細菌叢の発達を助け、環境からの悪影響を相殺する可能性があるんだそうな。まーもちろん、大気汚染を避けるだけで天才児が生まれるわけではないでしょう。といっても汚れた空気によって徐々に可能性がつぶされていると考えると。。。
次は別の観点から。「赤ちゃん言葉(infant-directed speech/child-directed speech)が子どもの頭の良さと関係してるかもよ!」って研究もあったりします。赤ちゃんに話しかけるとき、つい声が高くなったり、言葉をゆっくり話す、みたいなやつっすね。
例えば中国の研究チームが、15〜20ヶ月の幼児を対象に行った面白い実験があります。親が赤ちゃん言葉と普通の話し方で新しい言葉を教える様子を観察。その結果、なんと赤ちゃん言葉を聞いたときの方が、幼児の注意がより惹きつけられていて、脳の特定の部分(左背外側前頭前皮質)が活発に反応したんだとか。さらに、脳のこの部分が活発に反応した子どもほど、新しい言葉をよく覚えていたんだそう。
なんでそんな違いが出るの?って点について研究チームは、
赤ちゃん言葉が直接言語ネットワークを刺激するわけではないけれど、右脳の感情処理システムを通じて言葉の学習を助けているんじゃないか?
みたいに推測しておられます。つまり、赤ちゃん言葉→感情的な反応→注意力アップ→言葉の学習ブースト!みたいなフローが想定されるわけですね。
とはいえこの研究に参加した子どもたちは全員広東語を話す家庭の子どもたちで、サンプル数も少ないし、一般化可能性はまだ謎。といっても、恥ずかしがらずに、少し大げさに、優しく、ゆっくり話してみると、子どもの脳の発達の一助にはなっているのかもしれないですねー。
もうちょい年齢の上の子供たちをイメージして「頭のいい子を育てるには?」のヒントも考えてみましょう。手っ取り早くて比較的効果が出やすい「一言」が最近の研究で報告されてたりしますね。。
ここではオランダの研究チームが9〜13歳の子どもたち212人を対象に、実験を実施。子どもたちに数学のテストを受けてもらい、テストの途中で3つのグループに分けてます。
その結果、なんと、「がんばる!」グループの子どもたち、特に数学に自信がないと答えた子どもたちの成績が向上したんだそうな。一方で、「できる!」グループや何も唱えなかったグループには、特に変化が見られなかったらしい。
「えっ、そんな簡単なことで成績上がんの?」と思われるかもしれませんね。ただ、研究チームによると、「がんばる!」という言葉には、子どもたちの「心理的な壁」を取り除く効果があるんだ、と。難しい問題に直面すると(特に自信がない子どもたちは、)「自分には能力がない」と思いがちだけど、「がんばる!」と唱えることで、「能力」ではなく「努力」に注目できるようになるんだ、という話っすね。
では、親や先生はどうすればいいのでしょうか?ってことで、以下のようなところを意識してみるのがおすすめ。
もう一つ親が気になるのは「経済状況と子供の頭脳の関係」でしょう。英語圏では「お金で頭は買えない」なんて言葉はあるけど実際どうなの?みたいなところですね。
この点については、アメリカの国立アルコール乱用・依存症研究所の研究なんかが参考になります。ここでは研究チームが、9〜11歳の子ども約8,700人を対象に、家庭の収入と子どもの脳の「つながり」(専門的には機能的結合性)との関係を調査してます。
その結果、低所得家庭の子どもたちは、脳の特定の部分、特に「デフォルトモードネットワーク(DMN)」と呼ばれる領域のつながりが弱くなっていることがわかったらしい。DMNってのは、空想したり、記憶を思い出したり、自分自身について考えたりするときに活躍する脳の部分っすね。
「えっ、じゃあ低所得の家庭の子は頭が悪いってこと?」なんて思われるかもしれませんが、そんな単純な話には非ず。確かに、高所得家庭の子どもたちの方が認知テストの平均点は高かったものの、これは収入の差が直接脳に影響を与えているわけではなく、むしろ環境の違いが関係しているんじゃない?と考察されてます。
例えば、高所得家庭の子どもたちは、
こういった経験が、脳の発達や認知能力の向上につながっているんじゃないか?と。であれば、低所得世帯でも上記の活動の条件を満たす環境に子供を置くことができればよいのでは?ということで、
といったことが提案されてます。まあそれがなかなか難しいんでしょうがねぇー。色々媒介因子はあるもののやっぱり子供の「頭の良さ」って点ではある程度収入は高い方がいい、というのが現実なんですかねー。きれいごとだけどすべての子供に平等なチャンスが与えられたいいなーとか思う今日この頃です。
日本語以外も話せる子にしてあげたい!という思っている方は少なくないはず。この点についてもいくつか最近の研究を共有してみましょう。
「わが子、バイリンガルへの道」その第一歩はもうお腹の中から始まっているんだぞ!ってのは意識しておいた方がよいでしょう。この点については昔から研究は行われておりますが、最近の研究によると、「お母さんのおしゃべり」が赤ちゃんのマルチリンガルに関わる脳の発達に大きな影響を与えているぞ!ってことを報告されてたりします。
ここではスペインのバルセロナ大学の研究チームが、生後1〜3日の赤ちゃん131人を対象に実験を実施。妊娠中に1つの言語だけを話していたお母さんの赤ちゃんと、2つ以上の言語を話していたお母さんの赤ちゃんの脳の反応を比較したんだそう。
その結果、なんと生まれたばかりの赤ちゃんでも、お母さんが妊娠中に話していた言語環境によって、音の聞き取り方に違いがあることがわかったらしい。具体的には、
って感じだったらしい。つまり、マルチリンガル環境の赤ちゃんは、より柔軟に様々な音を受け入れる準備ができているんだ、ってわけで、この赤ちゃんたちは将来的に複数の言語を習得するのに有利なんじゃね?と考えられてます。もちろん赤ちゃんの言語習得期間は生後も続くんで、生まれる前と後のどっちが大事か?ってのははっきりわかっていないものの、生まれる前から意識できることはあるってことで。
では、具体的に何をできるのか?を考えてみると、
って感じでしょうか。マルチリンガルにしてあげたいなら準備はお早めに。
「英語は早く始めた方がいいのか?」って議論はよく聞きますな。科学の見解では「長い目で見れば、基本的には早く始めたほうが吉」って報告が多いですが、最近の研究をチェックしてみましょう。
2022年の研究では、ドイツのルール大学ボーフムを中心とした国際研究チームが、約3,000人の生徒を対象に、小学校での英語教育が中学校での英語力にどう影響するかを調査してます。その結果、
「えっ、じゃあ早く始める意味ないじゃん!」なんて思いますよね。でも、ここからが重要。
だったそう。つまり、早期英語教育の効果は、すぐには現れないけれど、長い目で見ると確かに存在する、ということなんですな。
ということで、この研究も踏まえて「早期英語教育論争」に対する考え方として、以下のような視点を持ち帰っていっていただければと。
他の研究とかを見てると、「小学校と中学校の間の『移行期』が特に重要だ」って指摘があったりもします。なんで、日本でも、小学校で培った英語への親しみを、中学校でしっかり活かせるようなカリキュラムになったらいいなーとか思ったりしますね。まあとにかく英語教育はマラソンみたいなもんなんで、早めにはじめて、焦らず楽しみながら長期的な視点で学んでいくのがよろしいんじゃないかと。
標準語だけでなくて方言や外国語なまりを含む多様なアクセントに触れる方がいいよーってのは個人的によくお勧めするポイントだったりします。もちろん科学的なエビデンスはございまして、例えば、ドイツのフライブルク大学の研究チームが、7〜11歳の子ども88人を対象に実験を行ってます。
ここでは子どもたちに「スポット・イット!」(日本でいう「ドブル」のようなゲーム)のコンピューターゲーム版で遊んでもらってます。ポイントは、ゲームの中で一緒に遊ぶ仮想の友達が、標準ドイツ語、スイス訛りのドイツ語、ヘブライ語訛りのドイツ語で話すんですな。
そんで、どんな違いが確認されたかといえば、
って感じ。つまり、「きれいな標準語」だけでなく、いろんな話し方に触れることが、子どもの言語習得能力を高める可能性があるんですな。
ってことで、「アメリカ英語だけ!」じゃなくてイギリス英語、オーストラリア英語、香港英語とか、もしかしたらイタリア人の超癖の強い英語を聞かせてあげるのも、子供の言語習得能力を引き上げてくれるんじゃないか、と。と考えると「ジャパニーズイングリッシュ」も少なからず役に立ってたりするんじゃないかなぁとか思いますね。
「どこに住むかがマジ大事」って話は先日もしましたが、それは子供にとっても同じこと。むしろ子供の方が「環境」の影響を敏感に受けやすかったりしますね。
「住んでいる場所の気温」も子供の脳の発達に無視できない影響を与えるぞ!なんて研究が今年発表されてたりします。
たとえば、スペインのバルセロナ国際保健研究所を中心とした研究チームは、約2,700人の9〜12歳の子どもたちの脳をMRIで調査。そんで、胎児期から8歳までに経験した気温と、脳の発達の関係を分析した結果、
これらが、子どもの脳の白質(脳の各部位をつなぐ「配線」のような部分)の成熟に影響を与える可能性があることがわかったらしい。つまり、上記の時期に極端な寒さや暑さに曝されると、白質の成熟が遅れ、脳の各部位のコミュニケーションが非効率になる可能性がある、そしてこれが、認知機能や精神的健康に影響を与えるかもしれんぞ!って話。
特に注目すべきは、この影響が貧しい地域に住む子どもたちにより顕著に現れたこと。住宅の断熱性能の違いや、エネルギー貧困(適切な暖房や冷房を使えない状況)が関係しているのではないか?みたいに想定されてますね(やっぱり経済要因関係ありそうやん!)。
こういう話を見ていると東京ってどうなんやろなーとか言う気になってきますよねぇ。あと、成人以上だと極端な寒さに曝される健康法、みたいなのがあるけど、子供にそれを押し付けるのはまずそうだぞってのも頭に入れておきたいところですな。
ちなみに、温度って観点で言えば、気温上昇によって学生一人当たりの年間学力が4~7%低下する可能性があるぞ!みたいなEPAの報告もあって、小中高生も含め気温の管理はしっかりしてあげたいなーと。
本ニュースレターではかなりの緑推しなわけですが、子供のメンタル面でも緑のインパクトは強力。
同様の研究は複数ありますが、例えばスペインのバルセロナで行われた最近の研究によると、家や学校の周りに緑が多い子どもほど、不安症状が少ない傾向が確認されてたりしますね。ここでは、9年間にわたって622人の子どもたちを追跡調査していて、結果的に、
って感じ。色々関係してそうな条件を調整したとしても、「周りに緑がどのくらいあるか?」によってメンタルの健康状態が左右されうるのだ、と。
なんで緑には子どもの心を強くする力があるのか?って疑問に対する主要な仮説もまとめておくと、
ってのは主張されてますね。
議論の決着がついていない面はあるものの、観葉植物やバーチャルでの緑でも同様の効果があるのでは?ってデータもあるので、とりあえず何らかの手法で緑に触れる機会を増やしてあげると健全な成長を育める確率を挙げられるのではないかと。一緒に緑の中で時間を過ごせば大人にもメリットは大きいですしね。
長くなってきたので今回はこの辺で。次回の分もリサーチは既に完了しておりまして、
といったところをお伝えできればと。次回もお楽しみに。ではまたー。