userホモエビデンス:科学が読み解く人生の法則search
不謹慎で真面目な科学|最新下半身系データ2024年2月版
科学は一歩一歩着実に進歩する。それは「性」の分野も例外に非ず。世界中の研究者が発見した10の最新データを概観し、ベッドの上の生活をより豊かにする法を考える。
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おくさん
2024/02/19

本ニュースレターにご関心をもっていただきありがとうございます!本ニュースレターでは、中国清華大学大学院に留学中でありサイエンスライターなどの業務をこなす筆者が、科学的知見をベースにあなたの人生の道しるべを提案します。

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私は極度の面倒くさがりであり隙さえあれば「もっと楽に生きられないものか」と考えてしまうきらいがありまして、無駄な寄り道をしなくない!という気持ちを原動力に、普段より「人生で近道をするために」学術文献を読み漁っています(去年は大体2000本くらい読んだ)。当然人生は多面的でありますから、私自身の専門は免疫、環境、公衆衛生のあたりであるものの、心理学、恋愛、性科学、栄養学、運動科学などの論文にも積極的に手を伸ばしています(Xでも毎日一報くらい投稿していますのでご興味があれば)。そこで本ニュースレターでは、私が個人的に気になって、徹底的に調べあげたエビデンスベースの情報をあなたにも共有していく予定。しばらくは試行錯誤しながらの配信になるかと思いますが、少しでも興味があれば温かく見守っていただければ幸いです。


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というわけで今回は前回に引き続き「真面目なエロ」のお話。前回はセックスのメリットを複数の角度からチェックしてみましたが、今回は「最新の」シモ系データをチェックしてみようではないかと。



前回もお伝えした通り、立派な大学を出て「超優秀」と評価される研究者たちが人生をかけて追究して発見したデータを参照することで、人生で大きなウエイトを占める恋愛、性の時間をより充実したものにできるかもしれないんじゃないかなーというお話ですね。当然唯一の答えではないだろうし、最新データゆえ今後ひっくり返る可能性も十分あるでしょうが、少なくともサンプル数「イチ」の「個人の感想」よりかは信頼できる内容なのではないかと思っております。


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目次
1. 「性の不一致で別れました」
2. 避妊薬のストレス、炎症反応への影響
3. エロ動画中毒を改善する方法
4. マインドフルネスで性欲と興奮、「濡れ」とオルガスムも改善
5. 「恋人ができない!」人の共通点
6. ポールダンスで性的な自己効力感向上
7. セクスティングが問題になるかはその動機にあり
8. 「最後のセックスから何日経ったか」よりも「最後のセックスからどのくらい経ったと感じるか」
9. 顔射
10. 精液マイクロバイオーム
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「性の不一致で別れました」


「性の不一致が別れのトリガーになりやすいのは女性の方では?」という主張の論文が出ておりました。一般的には男性の方が「性生活の質を2人の関係の質と強く結び付けがち」と考えられてるけど、それって実は逆なのでは?みたいなちょいと意外なデータっすね。


これはマサリク大学の研究で、ヨーロッパ7か国のパネル調査のデータを使用してて、合計サンプルは19,446人分(18~79歳)。2004年から2009年の間に収集された第1波のデータと2007年から2013年にかけて収集された第2波のデータを比較し、「性の不一致」のスコアとその後カップルが分かれる確率を比較したらしい。ちなみにここでいう「性の不一致」ってのは「過去1年間にセックスについて口論した頻度」で測定してまして、「一度もない」から「非常に頻繁にある」までの尺度で評価したんだそうな。


では、その結果をまとめると、こんな感じになります。


  • 「性の不一致」のスコアが高い人ほど、「関係を終わらせる」ことを考える可能性が有意に高かった。さらにこの関連は特に女性で顕著であった(13.1ポイント vs 5ポイント)
  • 性の不一致のどのレベルにおいても、女性の方が男性よりも別れを考える傾向が強く、この差は、不一致度が高いカップルの間で最も顕著だった
  • この傾向は、年齢、学歴、パートナーシップのタイプ、居住国などの要因だけでなく、人間関係における他のタイプの不一致についてコントロールしても維持された


ってことで、「もっとしたいのにしてくれない/もっと少なくていいんだけど。。」みたいな感情を抱いた時、その気持ちが「別れ」につながる確率は男性より女性の方が2倍以上高いのではないか、と。


こう見ると長く付き合いたいなら女性よりも男性側の方が「性の不一致」について真剣に考えておく必要があるのかもなーって気もしてきますね。お金、家族関係、子育てなどの分野では不一致がなくても、性の不一致それだけでも別れの重要な要因になりうるってのはぜひとも頭に入れておくべきところかと。


ちなみに、性に限らず何のトピックにしても2人の人間の「不一致」について話をするのはなかなか難しいんで、「夫婦・カップルのためのアサーション」などを一読、ちょっとトレーニングしてから本番に臨むのが激しくおすすめです。


避妊薬のストレス、炎症反応への影響

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「避妊薬を使用している女性とそうでない女性とでストレスや炎症に対する反応が大きく異なるぞ!」という研究結果が出ておりました。


これはホルモン避妊薬を使用していない女性75人と使用している女性78人を対象にしたUCLAの研究で、参加者には人前でのスピーチや暗算課題のようなストレスのかかるに取り組んでもらい、前後のストレス、炎症レベルを測定したんだそうな。もちろん参加者は慎重に選ばれていて、月経周期なども一致されております。


その結果、2つのグループ間では大きな違いが確認されまして、


  • ホルモン避妊薬を使用している女性は、主観的なストレスレベルが高いと報告した。 生物学的にも、ストレスに反応してコルチゾール値がより顕著に上昇する傾向が見られた
  • さらに、避妊薬を使用している女性では、コルチゾールの増加はストレス要因後のネガティブな気分とより顕著に関連していた
  • さらに、ホルモン避妊薬を使用している女性は、ストレス後に特定の炎症マーカー(IL-1βなど)の減少を示したが、このパターンはホルモン避妊薬を使用していない女性では観察されなかった。面白いことに、もう一つの炎症マーカーであるIL-6には、どちらのグループでもストレスに対する有意な変化は見られなかった
  • ホルモン避妊薬を使用している女性はまた、TNF-αも高いレベルを示した


ということで、ホルモン避妊薬を使用しているか否かによって、主観的・客観的なストレス反応や炎症反応において全く異なるパターンが確認されたということですな。


研究チーム曰く、

女性にとって、自分で生殖能力をコントロールできることは画期的なことであり、ほとんどの女性にとって、ホルモン避妊薬の使用によって起こりうる予期せぬ結果は、少なくとも人生のある期間においては、これらの利点に見合うものである可能性が高い。

しかし、ホルモン避妊薬の種類によっては、HPA軸の反応性を変化させ、気分障害の発症リスクを高める女性もいる。この研究は、ストレスに対するコルチゾール反応に影響を与えるだけでなく、ホルモン避妊薬の使用がストレスに対する炎症反応にも影響を与えるという最初の証拠を提供するものである。


とのこと。HPA軸ってのは、視床下部、下垂体、副腎の間の相互作用のことで、ストレスホルモンであるコルチゾールの放出をコントロールするのはご存じの通り。


これまでも避妊薬によってうつリスクが高まる!みたいなデータはありましたけど、単純なストレス反応だけでなく、炎症プロセスにも想定以上の悪影響を及ぼす可能性があるってことで、「ホルモン避妊薬による健康への副作用」というトピックについてもうちょい広い視野を持つべきなのかもなーとか思いましたね。まあこの研究では使用されたホルモン避妊薬は限定されてるし、避妊薬の種類や用量によっても影響が異なってくる可能性はでかいんでしょうが、リスクベネフィットを考えるときには気を付けておきたいなーと。


エロ動画中毒を改善する方法


ポルノについては私も過去にいくつかの研究を取り上げておりまして、基本的に「ファンタジーだと認識したうえで楽しむ分には全く問題ないんじゃねー?」という立場をとっております。


しかし当然行き過ぎるとメンタルの問題などいろいろ不都合が生じますんで、その場合はポルノ視聴を減らすのが吉。とはいっても言うは易しでなかなかやめられないのが現実でしょう。そんなところで最近Sexual Health & Compulsivity誌に掲載された研究では、「マインドフルネス瞑想のトレーニングによって問題のあるポルノの利用を減らせるかもよ!」というありがたい結論になっておりました。


こちらはマインドフルネスや瞑想を日常的には行っていない14人を対象に行われた研究でして、


  1. ヴィパッサナー瞑想の一種のトレーニングに取り組んでもらう。簡単に言えばゆったりと座って呼吸に集中するよう指示し、呼吸をコントロールしたり、変化させようとせずに、呼吸を観察するようにしてもらう、といった感じ
  2. また、判断や反応をせずに、どんな感覚や衝動にも気を払ってみるように指示
  3. 各セッションは約20分間で、その後5分間のリラクゼーション音楽が流された。 このルーチンを2週間毎日続けた


って感じで介入を行ったところ、こんな傾向が見られたそうな。


  • 参加者の問題あるポルノグラフィーの使用に関する平均スコアは、介入期間中に有意に減少した。当初、平均スコアは84.75点であったが、介入中期には72.38点まで低下し、さらに終了時には63.37点まで低下した
  • この低下は、全体的なスコアだけでなく、参加者の生活におけるポルノの重要性、気分を変化させる効果、耐性や禁断症状などの症状など、問題あるポルノグラフィーの使用尺度のすべての個別要素にわたって観察された


というわけで、マインドフルネスを実践することで日常生活におけるポルノの重要性を低下し、ポルノによって気分が大きく変化することが少なくなり、禁断症状が有意に減少し、感情調節が改善し、全体的な生活の質すら高まることが分かったわけですな。しかもそれがたった2週間以内という短いスパンで効果が確認されたってのもデカいでしょう。


まあ予備的なデータではあるし、特に症状がきつい場合では他の行動療法と組み合わせるべきじゃないかなーとは思いますけど、一種の強力な「盾」にはなってくれる可能性は結構大きいのではないかと。心当たりのある方はお試しあれ―。


マインドフルネスで性欲と興奮、「濡れ」とオルガスムも改善

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もう一つマインドフルネスに関するデータをチェックしてみましょう。こちらは「マインドフルネス療法によって女性の性機能がブーストするぞ!」って内容っすね。


これはSexual Medicine誌に掲載された研究で、20歳から45歳の女性93人が対象。うち53人は「性機能障害(性欲減退、オーガズム達成の困難さ、性交時の痛みなど)」を抱えていたらしい。参加者には1回2.5時間のマインドフルネストレーニングを週1回、合計4回実践してもらい、前後で性機能、マインドフルネス、性関連のQOL("自分の性的関係のポジティブな側面とネガティブな側面に対する主観的評価、およびこの評価に対するその後の感情的反応 "と定義)を測定したんだとか。


結果、


  • 研究開始時、性機能障害群では91%、非機能障害群では33%の女性が臨床レベルの性機能障害症状を示していた。しかし介入後には、この数値は性機能障害群で47%、非機能障害群で7%に減少した
  • 欲求と興奮のレベルはすべての女性で改善し、潤滑とオーガズムの質と頻度が機能障害群で改善した
  • また、両群とも介入後、性関連のQOLが向上した


みたいな感じです。まあ対照群が用意されてないんで、時間経過による自然な改善なのでは?みたいな批判もありましょうが、女性の性欲やオーガスム等がストレス、感情状態、自尊心などに大きく左右されることを勘案すれば、マインドフルネスによって多少なりとも改善されるってはリーズナブルでしょう(実際、他の研究でもマインドフルネスで性欲が向上する、といったデータは複数ある)。


もちろんマインドフルネス単独で十分なのか?とかは考えなきゃいけませんけど、自身やカップルで採用できる一つの戦略としてはなかなか使えるんじゃないかなーって印象ですね。


「恋人ができない!」人の共通点


お次はEvolutionary Psychological Science誌に掲載された研究で、


  • 「不本意なシングル」に共通する要素ってなに?


みたいなところを調べた研究になっております。要するに、近年では恋人をあえて作らないって人も多いけど、内心では恋人がほしいと思ってるのに恋人を作れていない、という人に共通してる点ってないのだろうか?ってところですね。


研究はキプロスで行われ、女性646人、男性542人の計1,188人が対象。参加者には交際ステータス(「交際中」「既婚」「恋人がほしいけどシングル」「シングルを好む」など)を尋ねたうえで、年齢、身長、体重、子供の有無、シングルで過ごした年数、性機能等にも答えてもらいそれぞれの関連性を調べたんだそうな。


その結果どんな傾向が見られたかといいますと、


  • 男女ともに、性機能が高いほど、「不本意なシングル」ではなく、交際している可能性が高かった。性機能のスコアが1ポイント上昇した男性は、「不本意なシングル」よりも交際している可能性が9%高かった。女性では、性機能の中でも "快楽"、"欲望/頻度"、"欲望/興味 "のスコアが高いほど、パートナーがいる可能性が高かった
  • 男女ともにBMIと交際ステータスの間に有意な関係は認められなかった。しかし、女性の場合、BMIが高いほど独身でいる期間が長くなる傾向があった(つまり、BMIは交際ステータスには直接影響しないものの、パートナーを見つけるのに時間がかかる可能性を示唆した)
  • 男性の場合、以前のパートナーとの子どもがいることは、パートナーがいる可能性の上昇と関連した(シングルファーザーが自分ひとりで子どもを育てることの難しさに直面し、それを援助してくれるパートナーを見つける努力を増やす動機になるからかも?と考察)


だったそうな。BMIがシングルである可能性を予測しなかったとかは意外ですけど、やはりこの研究のハイライトは性機能との関連でしょう。まあ性機能の低下は自尊心やパートナーを見つける努力の低下を引き起こし結果的にパートナーができない、といった間接的なパスウェイも有力そうで、性機能を高めれば恋人ができる!という単純な関連ではない気もしますが。


ちなみにここで性機能はCSFQっていうテストが使用されてて、男女別14問の質問から構成されてます。そんなに長い時間がかかるものでもないんで、ご興味があれば測定してみても良いかもしれません。


ポールダンスで性的な自己効力感向上

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ダンスがメンタルにいい!ってデータは多いですが、BMC Psychology誌に掲載されてた研究では、なかでも「ポールダンスもいいぞ!」って内容になってました。私は知りませんでしたが、最近ではポールダンスはフィットネスやレクリエーションの一種として人気を集めるようになってきているらしく、精神的にもポジティブな効果を得られるならうれしいですな。


研究では、18歳以上でポールダンス経験がない女性50人を対象に、半数の女性には8週間にわたりダンススタジオで60分間のポールダンストレーニングを行ってもらったんだそう。


その結果、


  • ポールダンスグループは、対照群に比べて精神的ウェルビーイングが有意に向上し、「考えが明確になった」や 「将来について楽観的になった」といった記述に同意する確率が高かった
  • また、性的アイデンティティ(自分の性的な感情、行動、認知に対する考え方)や性的自己効力感に関しても、ポールダンス・グループは大幅な改善を示した。つまり、性的な文脈においてより有能で自信があると感じられるようになっていた。さらに、性的不安が顕著に減少し、性的自尊心と身体への感謝の感情が増加していた
  • ただし、この効果は、全体的な自尊心、性的モチベーション等の分野では確認されず、ポールダンスの効果は特定の心理的側面に特異的っぽい


だったそう。ポールダンスが性的な文脈での自身や満足感を高め、精神的な幸福度をブーストしてくれるのではないか、と。


この研究はCovid-19期間中に行われててすべてのレッスンを対面で実施できなかったのが限界として挙げられてるんですけど、逆に言えばオンラインまたは自主トレでも同様の効果が得られるかもしれないと考えればそれもまた朗報と言えるのではないかと。スタジオを見つけるのもそう簡単じゃなさそうですしねぇ。


セクスティングが問題になるかはその動機にあり

「セクスティング」ってのは、エッチなテキストや写真を送ったり、受け取ったりする行為のことで、最近では若年世代の2人に1人以上がセクスティングの経験があるって統計もあったりします。同時に、近年の若者の性的満足度が低下の一途をたどっているというデータもあって、両者が関連しているのでは?という考えに至るのは自然のこと。てなわけで、最近Sexual and Relationship Therapyに掲載されてた研究ではこの辺りを探ってくれていて参考になりました。


これはシェルブルック大学の研究で、以下のように2つの独立した実験を行っております。


  1. 18歳から29歳の若者422人を対象に愛着スタイル、性的満足度、デジタル性行動(セクスティング、サイバーセックス)の頻度、動機の関連を測定
  2. 142組の男女カップルを対象に、各パートナーの愛着スタイルとデジタル性行動が、自分だけでなくパートナーの性的満足にもどのような影響を与えるかを測定


その結果、なかなか面白い結果が得られまして、


  • 愛着不安はデジタル性行動の頻度の高さと「回避」ベースの動機に関連していた。これらの「回避」ベースの動機は性的満足度の低さと関連していたが、「接近」に基づく動機は満足度の高さと相関していた。また、デジタル性行動が遠距離恋愛に対応するために用いられた場合、愛着回避が性的満足度に及ぼす負の影響は相殺された
  • デジタル性行動の頻度は男性の性的満足度にプラスの影響を与えたが、パートナーの女性の満足度にはマイナスの影響を与えた
  • 快楽やつながりを求めるようなポジティブな動機が原動力となっている場合、デジタル性行動はより高い性的満足度に関係する一方、パートナーを失う怖さの回避といったネガティブな動機に支えられている場合、満足度の低下と関連した
  • 愛着回避傾向の高い人の場合、感情的な親密さへの不快感は、デジタル性行動の頻度や、動機に有意に影響しなかった


ってことで、セクスティングのような行為が性的満足度にもたらす影響は一方向的ではなく、その背後にある動機によって真逆に左右されうるらしい。旅行や遠距離恋愛のケースではポジティブに働くかもしれないけれど、愛着回避的な原動力が背後にある場合にはちょっとコミュニケーションを見直してみたほうがいいかもですなぁ。


「最後のセックスから何日経ったか」よりも「最後のセックスからどのくらい経ったと感じるか」


客観的には同じだけの時間が経過していても、主観的には「まるで昨日のことのように思い出せる」みたいな経験は誰にでもございましょう。


恋愛科学の分野ではこれまでに「ポジティブな出来事が時間的に近く、ネガティブな出来事が遠く”感じられる”ほど、関係の満足度が高ま」ることが示されておりますが、最近の研究ではこのような現象は性的な体験でも確認できるのでは?という仮定が検証されておりました。


これはヨーク大学の研究で、一連の3つの別々の実験が行われております。それぞれの実験内容とその結果を確認してみましょう。


  • 実験1:恋愛関係にある254人の参加者を対象に、主観的な「最後の性行為からどのくらい時間がたったと感じるか("とても近いと感じる "から "とても遠いと感じる "までの間で評価)」と関係満足度、性的満足度、性的欲求の関連を比較。その結果、最後の性行為からの主観的時間が長いほど、性的満足度と関係満足度は低かった。この関連性は、最後の性行為からの実際の時間を考慮しても維持された。さらに、最後の性行為からの主観的な時間が長いほど、性的欲求が低いという相関もみられた
  • 実験2:693人の参加者に、人為的に最後の性交渉を「近い」または「遠い」と感じさせる介入を施した。その結果、実際に性交渉の時期の認識の操作には成功したが、関係満足度および性的満足度には有意な影響は及ぼなかった
  • 実験3:121組のカップル(242人の参加者)に21日間連続で毎日アンケートに回答してもらい、最後の性行為からの時間等を追跡した結果、最後の性交渉が主観的に遠のいたと感じると、その日の関係満足度と性的満足度が低くなることを確認できた。この効果は両方のパートナーで観察された。しかし、最後のセックスの時期が遠のいたという認識は、翌日の性的欲求の増加と関連しており、満足感、欲求、最後の性交渉からの主観的な時間感覚の間に複雑な相互作用があることを示唆していた


みたいな感じです。最後のセックスからの経過時間と満足度の関連は「主観的な」認識の方に強く依存しているというわけですね。さらに実験3が示唆している通り、経時的に相互に関連してくるってのも面白いとこっすね。


研究チーム曰く、

どれくらいの時間が経ったかという主観的な感覚は、実際にどれくらいの時間が経ったかということよりも強い予測因子であるため、パートナーは性的頻度に関するお互いの主観的な感覚を理解するために、どれくらいの頻度でセックスをすることに興味があるのかという期待について話し合う必要があるだろう


とのこと。客観的には5日前に致していたとしても、一方はまるで昨日のように感じているのに対して、もう一方は1か月前のように感じる、みたいな乖離が生じることがあるってのは、上述の「性の不一致」の話とも通じてきそうっすね。カップルと言えど他人は他人なんで、やっぱりちゃんと自分の考えてることは口に出して共有しないとなーと改めて実感しましたね。


顔射


以前noteで「世界で人気のあるポルノカテゴリー」みたいなデータを取り上げたことがありましたが、最近Sexes誌に掲載された研究では、「どこに射精する描写が人気があるか?」にフォーカスして、世界中の人々の嗜好を調査してて面白かったです。


これはマギル大学の研究で、オンラインプラットフォームで募集された55か国の18歳以上の男女が対象。参加者には、「ポルノで男性の射精を描写すべきか?」「射精はどこに行われているのを見るのが好きか?」といった質問に回答してもらったんだそう。なかなかHENTAIな研究ですなぁ。


で、調査の結果こんなことがわかりました。


  • 対象者の約半数が男性の射精シーンには関心がないと回答した。特にこれは異性愛者の男性で顕著で、ほとんどが男性演者の射精のシーンをスキップまたは射精の前に視聴を中止すると回答した
  • 射精する部位の嗜好に関しては、最も人気があったのが女性演者の膣内(全体の37.8%)だった。この嗜好は特に女性で顕著で、女性参加者の約半数が膣内での射精の描写を好んだ
  • 一般のイメージと異なり、女性の顔や口への射精を好む人は全体の17%程度しかいなかった。むしろ、その描写を魅力的でない、嫌悪感さえ抱くという意見もあった
  • ただし、いわゆる「顔射」への好みは地域によって差が見られ、例えば中東では比較的高い人気があった(これは「精液を無駄にこぼすと男性が弱くなる」という通説に由来しているのでは?などと考察されてる)


ってことで、一般的に想定されてるよりも「顔射」は男性にも女性にも好まれてないってわけですね。また、研究チーム曰く、


興味深い発見の一つは、男性の射精描写を見る男性と女性の嗜好の違いが比較的小さかったことだ。今回の研究結果は、多くのフェミニスト学者の仮定とは一致しないだろう。


とのこと。実際、2022年の研究によれば、女性演者の快感の表情が伴うことで、射精を見た際の興奮が高まる、なんて結果も得られているようで、別に女性を卑下に扱う(またはそのような描写を見る)ことが快感につながるって男性は思ってるより少ないんじゃないのー?と。


本noteでも以前にカップルで一緒にポルノをみるのもいいかもねーなんて提案をしたこともありましたけど、どのシーンを見るか?などの選択に役立ちそうな研究でしたね。


精液マイクロバイオーム

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「精液には独自のマイクロバイオームが存在し、細菌のバランスが精子の数や質に影響を及ぼす可能性があるぞ!」という研究がScientific Reportsに出ておりました。近年世界的に男性の精子数が減少してる!なんてデータが取りざたされてますけど、マイクロバイオームの変化が大きな一因になってるかもなーなんて感じさせられますな。


これは精液のマイクロバイオームを調査した初めての研究で、生殖に問題があったりパイプカットの治療を受けたりしている73人の精液サンプルを分析。そこでどんなことが分かったかといいますと、


  • ラクトバチルス・イナース(L. iners)という細菌が多さが、精子の運動率の低さと関連していた。また、生殖に問題のある男性ではL.inersの量が多かった
  • 同様に、生殖に問題のある男性では、Pseudomonas stutzeriやPseudomonas fluorescensがおおいことも確認された


って感じだったそうです。これらの細菌は膣炎や感染症を発症させる可能性があるようで、これらのコントロールが不妊治療の成功率向上に影響する可能性もあるらしい。やっぱり微生物との共生のお話はおもろいっすねぇ(「あなたの体は細菌が9割」なども一読を激しくオススメ)。


ちなみに、解剖学的には精液マイクロバイオームと腸内マイクロバイオームはそこまで関連してないだろうって推測されてるんですが、過去の研究では、


  • 定期的な運動(有酸素運動と筋トレの組み合わせがより効果大)
  • ストレスの最小化
  • 加工食品を食べない
  • 食物繊維の摂取


等が精子の運動性の高さと関連することがわかっているようで、その点では腸内マイクロバイオームの改善のための戦略とやるべきことはほとんど一緒っぽいですね。腸などの領域と比べれば精液マイクロバイオームの探究はまだまだこれからですけど、今後積極的にフォローしてみよーと思っております。