本ニュースレターにご関心をもっていただきありがとうございます!本ニュースレターでは、中国清華大学大学院に留学中でありサイエンスライターなどの業務をこなす筆者が、科学的知見をベースにあなたの人生の道しるべを提案します。
私は極度の面倒くさがりであり隙さえあれば「もっと楽に生きられないものか」と考えてしまうきらいがありまして、無駄な寄り道をしなくない!という気持ちを原動力に、普段より「人生で近道をするために」学術文献を読み漁っています(去年は大体2000本くらい読んだ)。当然人生は多面的でありますから、私自身の専門は免疫、環境、公衆衛生のあたりであるものの、心理学、恋愛、性科学、栄養学、運動科学などの論文にも積極的に手を伸ばしています(Xでも毎日一報くらい投稿していますのでご興味があれば)。そこで本ニュースレターでは、私が個人的に気になって、徹底的に調べあげたエビデンスベースの情報をあなたにも共有していく予定。しばらくは試行錯誤しながらの配信になるかと思いますが、少しでも興味があれば温かく見守っていただければ幸いです。
----------------------------------------------------------------------------------
というわけで今回は前回に引き続き「真面目なエロ」のお話。前回はセックスのメリットを複数の角度からチェックしてみましたが、今回は「最新の」シモ系データをチェックしてみようではないかと。
「気持ちいい」「子作り」だけじゃない、セックスのメリットを真面目に考えてみた |
|
||
|
前回もお伝えした通り、立派な大学を出て「超優秀」と評価される研究者たちが人生をかけて追究して発見したデータを参照することで、人生で大きなウエイトを占める恋愛、性の時間をより充実したものにできるかもしれないんじゃないかなーというお話ですね。当然唯一の答えではないだろうし、最新データゆえ今後ひっくり返る可能性も十分あるでしょうが、少なくともサンプル数「イチ」の「個人の感想」よりかは信頼できる内容なのではないかと思っております。
----------------------------------------------------------------------------------
目次
1. 「性の不一致で別れました」
2. 避妊薬のストレス、炎症反応への影響
3. エロ動画中毒を改善する方法
4. マインドフルネスで性欲と興奮、「濡れ」とオルガスムも改善
5. 「恋人ができない!」人の共通点
6. ポールダンスで性的な自己効力感向上
7. セクスティングが問題になるかはその動機にあり
8. 「最後のセックスから何日経ったか」よりも「最後のセックスからどのくらい経ったと感じるか」
9. 顔射
10. 精液マイクロバイオーム
「性の不一致が別れのトリガーになりやすいのは女性の方では?」という主張の論文が出ておりました。一般的には男性の方が「性生活の質を2人の関係の質と強く結び付けがち」と考えられてるけど、それって実は逆なのでは?みたいなちょいと意外なデータっすね。
これはマサリク大学の研究で、ヨーロッパ7か国のパネル調査のデータを使用してて、合計サンプルは19,446人分(18~79歳)。2004年から2009年の間に収集された第1波のデータと2007年から2013年にかけて収集された第2波のデータを比較し、「性の不一致」のスコアとその後カップルが分かれる確率を比較したらしい。ちなみにここでいう「性の不一致」ってのは「過去1年間にセックスについて口論した頻度」で測定してまして、「一度もない」から「非常に頻繁にある」までの尺度で評価したんだそうな。
では、その結果をまとめると、こんな感じになります。
ってことで、「もっとしたいのにしてくれない/もっと少なくていいんだけど。。」みたいな感情を抱いた時、その気持ちが「別れ」につながる確率は男性より女性の方が2倍以上高いのではないか、と。
こう見ると長く付き合いたいなら女性よりも男性側の方が「性の不一致」について真剣に考えておく必要があるのかもなーって気もしてきますね。お金、家族関係、子育てなどの分野では不一致がなくても、性の不一致それだけでも別れの重要な要因になりうるってのはぜひとも頭に入れておくべきところかと。
ちなみに、性に限らず何のトピックにしても2人の人間の「不一致」について話をするのはなかなか難しいんで、「夫婦・カップルのためのアサーション」などを一読、ちょっとトレーニングしてから本番に臨むのが激しくおすすめです。
「避妊薬を使用している女性とそうでない女性とでストレスや炎症に対する反応が大きく異なるぞ!」という研究結果が出ておりました。
これはホルモン避妊薬を使用していない女性75人と使用している女性78人を対象にしたUCLAの研究で、参加者には人前でのスピーチや暗算課題のようなストレスのかかるに取り組んでもらい、前後のストレス、炎症レベルを測定したんだそうな。もちろん参加者は慎重に選ばれていて、月経周期なども一致されております。
その結果、2つのグループ間では大きな違いが確認されまして、
ということで、ホルモン避妊薬を使用しているか否かによって、主観的・客観的なストレス反応や炎症反応において全く異なるパターンが確認されたということですな。
研究チーム曰く、
女性にとって、自分で生殖能力をコントロールできることは画期的なことであり、ほとんどの女性にとって、ホルモン避妊薬の使用によって起こりうる予期せぬ結果は、少なくとも人生のある期間においては、これらの利点に見合うものである可能性が高い。
しかし、ホルモン避妊薬の種類によっては、HPA軸の反応性を変化させ、気分障害の発症リスクを高める女性もいる。この研究は、ストレスに対するコルチゾール反応に影響を与えるだけでなく、ホルモン避妊薬の使用がストレスに対する炎症反応にも影響を与えるという最初の証拠を提供するものである。
とのこと。HPA軸ってのは、視床下部、下垂体、副腎の間の相互作用のことで、ストレスホルモンであるコルチゾールの放出をコントロールするのはご存じの通り。
これまでも避妊薬によってうつリスクが高まる!みたいなデータはありましたけど、単純なストレス反応だけでなく、炎症プロセスにも想定以上の悪影響を及ぼす可能性があるってことで、「ホルモン避妊薬による健康への副作用」というトピックについてもうちょい広い視野を持つべきなのかもなーとか思いましたね。まあこの研究では使用されたホルモン避妊薬は限定されてるし、避妊薬の種類や用量によっても影響が異なってくる可能性はでかいんでしょうが、リスクベネフィットを考えるときには気を付けておきたいなーと。
ポルノについては私も過去にいくつかの研究を取り上げておりまして、基本的に「ファンタジーだと認識したうえで楽しむ分には全く問題ないんじゃねー?」という立場をとっております。
しかし当然行き過ぎるとメンタルの問題などいろいろ不都合が生じますんで、その場合はポルノ視聴を減らすのが吉。とはいっても言うは易しでなかなかやめられないのが現実でしょう。そんなところで最近Sexual Health & Compulsivity誌に掲載された研究では、「マインドフルネス瞑想のトレーニングによって問題のあるポルノの利用を減らせるかもよ!」というありがたい結論になっておりました。
こちらはマインドフルネスや瞑想を日常的には行っていない14人を対象に行われた研究でして、
って感じで介入を行ったところ、こんな傾向が見られたそうな。
というわけで、マインドフルネスを実践することで日常生活におけるポルノの重要性を低下し、ポルノによって気分が大きく変化することが少なくなり、禁断症状が有意に減少し、感情調節が改善し、全体的な生活の質すら高まることが分かったわけですな。しかもそれがたった2週間以内という短いスパンで効果が確認されたってのもデカいでしょう。
まあ予備的なデータではあるし、特に症状がきつい場合では他の行動療法と組み合わせるべきじゃないかなーとは思いますけど、一種の強力な「盾」にはなってくれる可能性は結構大きいのではないかと。心当たりのある方はお試しあれ―。
もう一つマインドフルネスに関するデータをチェックしてみましょう。こちらは「マインドフルネス療法によって女性の性機能がブーストするぞ!」って内容っすね。
これはSexual Medicine誌に掲載された研究で、20歳から45歳の女性93人が対象。うち53人は「性機能障害(性欲減退、オーガズム達成の困難さ、性交時の痛みなど)」を抱えていたらしい。参加者には1回2.5時間のマインドフルネストレーニングを週1回、合計4回実践してもらい、前後で性機能、マインドフルネス、性関連のQOL("自分の性的関係のポジティブな側面とネガティブな側面に対する主観的評価、およびこの評価に対するその後の感情的反応 "と定義)を測定したんだとか。
結果、
みたいな感じです。まあ対照群が用意されてないんで、時間経過による自然な改善なのでは?みたいな批判もありましょうが、女性の性欲やオーガスム等がストレス、感情状態、自尊心などに大きく左右されることを勘案すれば、マインドフルネスによって多少なりとも改善されるってはリーズナブルでしょう(実際、他の研究でもマインドフルネスで性欲が向上する、といったデータは複数ある)。
もちろんマインドフルネス単独で十分なのか?とかは考えなきゃいけませんけど、自身やカップルで採用できる一つの戦略としてはなかなか使えるんじゃないかなーって印象ですね。
お次はEvolutionary Psychological Science誌に掲載された研究で、
みたいなところを調べた研究になっております。要するに、近年では恋人をあえて作らないって人も多いけど、内心では恋人がほしいと思ってるのに恋人を作れていない、という人に共通してる点ってないのだろうか?ってところですね。
研究はキプロスで行われ、女性646人、男性542人の計1,188人が対象。参加者には交際ステータス(「交際中」「既婚」「恋人がほしいけどシングル」「シングルを好む」など)を尋ねたうえで、年齢、身長、体重、子供の有無、シングルで過ごした年数、性機能等にも答えてもらいそれぞれの関連性を調べたんだそうな。
その結果どんな傾向が見られたかといいますと、
だったそうな。BMIがシングルである可能性を予測しなかったとかは意外ですけど、やはりこの研究のハイライトは性機能との関連でしょう。まあ性機能の低下は自尊心やパートナーを見つける努力の低下を引き起こし結果的にパートナーができない、といった間接的なパスウェイも有力そうで、性機能を高めれば恋人ができる!という単純な関連ではない気もしますが。
ちなみにここで性機能はCSFQっていうテストが使用されてて、男女別14問の質問から構成されてます。そんなに長い時間がかかるものでもないんで、ご興味があれば測定してみても良いかもしれません。
ダンスがメンタルにいい!ってデータは多いですが、BMC Psychology誌に掲載されてた研究では、なかでも「ポールダンスもいいぞ!」って内容になってました。私は知りませんでしたが、最近ではポールダンスはフィットネスやレクリエーションの一種として人気を集めるようになってきているらしく、精神的にもポジティブな効果を得られるならうれしいですな。
研究では、18歳以上でポールダンス経験がない女性50人を対象に、半数の女性には8週間にわたりダンススタジオで60分間のポールダンストレーニングを行ってもらったんだそう。
その結果、
だったそう。ポールダンスが性的な文脈での自身や満足感を高め、精神的な幸福度をブーストしてくれるのではないか、と。
この研究はCovid-19期間中に行われててすべてのレッスンを対面で実施できなかったのが限界として挙げられてるんですけど、逆に言えばオンラインまたは自主トレでも同様の効果が得られるかもしれないと考えればそれもまた朗報と言えるのではないかと。スタジオを見つけるのもそう簡単じゃなさそうですしねぇ。
「セクスティング」ってのは、エッチなテキストや写真を送ったり、受け取ったりする行為のことで、最近では若年世代の2人に1人以上がセクスティングの経験があるって統計もあったりします。同時に、近年の若者の性的満足度が低下の一途をたどっているというデータもあって、両者が関連しているのでは?という考えに至るのは自然のこと。てなわけで、最近Sexual and Relationship Therapyに掲載されてた研究ではこの辺りを探ってくれていて参考になりました。
これはシェルブルック大学の研究で、以下のように2つの独立した実験を行っております。
その結果、なかなか面白い結果が得られまして、
ってことで、セクスティングのような行為が性的満足度にもたらす影響は一方向的ではなく、その背後にある動機によって真逆に左右されうるらしい。旅行や遠距離恋愛のケースではポジティブに働くかもしれないけれど、愛着回避的な原動力が背後にある場合にはちょっとコミュニケーションを見直してみたほうがいいかもですなぁ。
客観的には同じだけの時間が経過していても、主観的には「まるで昨日のことのように思い出せる」みたいな経験は誰にでもございましょう。
恋愛科学の分野ではこれまでに「ポジティブな出来事が時間的に近く、ネガティブな出来事が遠く”感じられる”ほど、関係の満足度が高ま」ることが示されておりますが、最近の研究ではこのような現象は性的な体験でも確認できるのでは?という仮定が検証されておりました。
これはヨーク大学の研究で、一連の3つの別々の実験が行われております。それぞれの実験内容とその結果を確認してみましょう。
みたいな感じです。最後のセックスからの経過時間と満足度の関連は「主観的な」認識の方に強く依存しているというわけですね。さらに実験3が示唆している通り、経時的に相互に関連してくるってのも面白いとこっすね。
研究チーム曰く、
どれくらいの時間が経ったかという主観的な感覚は、実際にどれくらいの時間が経ったかということよりも強い予測因子であるため、パートナーは性的頻度に関するお互いの主観的な感覚を理解するために、どれくらいの頻度でセックスをすることに興味があるのかという期待について話し合う必要があるだろう
とのこと。客観的には5日前に致していたとしても、一方はまるで昨日のように感じているのに対して、もう一方は1か月前のように感じる、みたいな乖離が生じることがあるってのは、上述の「性の不一致」の話とも通じてきそうっすね。カップルと言えど他人は他人なんで、やっぱりちゃんと自分の考えてることは口に出して共有しないとなーと改めて実感しましたね。
以前noteで「世界で人気のあるポルノカテゴリー」みたいなデータを取り上げたことがありましたが、最近Sexes誌に掲載された研究では、「どこに射精する描写が人気があるか?」にフォーカスして、世界中の人々の嗜好を調査してて面白かったです。
これはマギル大学の研究で、オンラインプラットフォームで募集された55か国の18歳以上の男女が対象。参加者には、「ポルノで男性の射精を描写すべきか?」「射精はどこに行われているのを見るのが好きか?」といった質問に回答してもらったんだそう。なかなかHENTAIな研究ですなぁ。
で、調査の結果こんなことがわかりました。
ってことで、一般的に想定されてるよりも「顔射」は男性にも女性にも好まれてないってわけですね。また、研究チーム曰く、
興味深い発見の一つは、男性の射精描写を見る男性と女性の嗜好の違いが比較的小さかったことだ。今回の研究結果は、多くのフェミニスト学者の仮定とは一致しないだろう。
とのこと。実際、2022年の研究によれば、女性演者の快感の表情が伴うことで、射精を見た際の興奮が高まる、なんて結果も得られているようで、別に女性を卑下に扱う(またはそのような描写を見る)ことが快感につながるって男性は思ってるより少ないんじゃないのー?と。
本noteでも以前にカップルで一緒にポルノをみるのもいいかもねーなんて提案をしたこともありましたけど、どのシーンを見るか?などの選択に役立ちそうな研究でしたね。
「精液には独自のマイクロバイオームが存在し、細菌のバランスが精子の数や質に影響を及ぼす可能性があるぞ!」という研究がScientific Reportsに出ておりました。近年世界的に男性の精子数が減少してる!なんてデータが取りざたされてますけど、マイクロバイオームの変化が大きな一因になってるかもなーなんて感じさせられますな。
これは精液のマイクロバイオームを調査した初めての研究で、生殖に問題があったりパイプカットの治療を受けたりしている73人の精液サンプルを分析。そこでどんなことが分かったかといいますと、
って感じだったそうです。これらの細菌は膣炎や感染症を発症させる可能性があるようで、これらのコントロールが不妊治療の成功率向上に影響する可能性もあるらしい。やっぱり微生物との共生のお話はおもろいっすねぇ(「あなたの体は細菌が9割」なども一読を激しくオススメ)。
ちなみに、解剖学的には精液マイクロバイオームと腸内マイクロバイオームはそこまで関連してないだろうって推測されてるんですが、過去の研究では、
等が精子の運動性の高さと関連することがわかっているようで、その点では腸内マイクロバイオームの改善のための戦略とやるべきことはほとんど一緒っぽいですね。腸などの領域と比べれば精液マイクロバイオームの探究はまだまだこれからですけど、今後積極的にフォローしてみよーと思っております。