以下では具体的に「幸福になるにはどうすればいいの？」みたいな方法をご紹介していくわけですが、これらの介入は単に「より大きな幸せを感じるようになる！」ってだけでなく、

• 人生の逆境に対処しやすくするレジリエンスを高めることもできる
• （少なくとも主観的な）肉体的健康レベルも向上する

ってなこともわかってるんで、一石何鳥にもなるはず。ただ、この手の話をすると必ず、健康と幸福の関係は単なる相関に過ぎない！みたいな反論をしてくる人もいるので、一応因果関係を示したデータもあるよーってのをあらかじめ紹介しておきます。

一例を挙げれば、Psychological Science誌に掲載された研究が有名で、ここでは155人の成人グループに12週間のポジティブ心理学の介入が行われてます（具体的には、マインドフルネス瞑想、感謝、より良い社会的関係の構築などのテクニックが教えられた）。で、幸福度のほかに肉体的な健康レベルも併せて測定したところ、

• 介入を受けた人々の幸福度は大幅に上昇した
• さらに病気の経験も少なく、プログラムが進むにつれて、週ごとに幸福度が上がるのと同時に、健康感が増していった

って結果が認められたそう。まあ客観的な指標（BMIや血圧とか）には大きな影響はなかったんだけど、少なくとも主観的な健康の認知は大きく改善したぞ！ってわけですな。「自分がどのくらい健康と思うか？」てのは日常の中でどのくらい活動的に動くか？何を食べるか？などの判断にも影響してくるところですから、より長期的にみれば統計的にも有意な違いが確認される可能性は十分ありましょう（実際、相関関係レベルでは「幸福な人の方ががん、心血管疾患含む病気にかかりにくい」というデータもたくさんある）。

また、先週のスーパーエイジャーとの関連でも「幸福」は重要なファクターとなってデータは複数あって、例えば最近の長期研究では「幸福は認知機能の低下を遅らせる機能があるのでは？」みたいな結論になってたりするんですよね。これはミシガン大学の研究で、中国の約9,500人を対象に2002年から2014年の間に5回のインタビューを実施。その結果、心理的な幸福度が高い人ほど、認知症などの認知機能障害を発症する確率が明らかに低かったんだそうな。スーパーエイジャーを目指す我々としては、先週のアプローチに加えて、「いかに幸福を保っていくか？」も注意しておきたいところっすね。

で、そうなると気になるのが、「どうやったら幸せになれるんや！」ってところでしょう。ネットで調べればいくらでもその方法は出てきますが、エビデンスベースドの情報が少ないのはなんでなんでしょうねぇ。てことで、今回はいつも通り「科学が認めた幸福になる方法」的なところをまとめていくことにします。

このトピックをすれば「結局カネだろ！」ってな主張もよく聞きますが、お金と幸福の話も扱えればと思っております。まー少なくとも宝くじによって多額のお金を手にしてもそれで幸せにはならないのでこの点はご注意を。ハーバード・メディカル・スクールのサンジブ・チョプラ教授のTedを見たことがある方もおられるかもしれませんが、いわゆる「快楽適応」によって1年後にはほぼ同程度の幸福度に戻っちゃう、ってなことがわかっておりますんで。

てことで、以下では、いつも通りダダーっと方法をまとめておきますので、すべてやらずとも今足りてないなーってところから手を付けていっていただければと。

ちなみに、チョプラ先生は、「宝くじよりよっぽど幸せになれる3原則」として、以下を挙げておられます。どれも研究で示されているところですんで、まずはこの3つを意識するだけでも十分効果はあるんじゃないかと。

①自分のダルマ（人生の意味、目的）を見つけること
②Giverとなり、人に手を貸すこと
③感謝の気持ちを持つ（おまけで１０年長生きできる）

本ニュースレターでは、徹底的に調べあげたエビデンスをベースに「より信頼でき、真に価値ある情報」をレポートし、ゴミがあふれるネット上においてキラリと光る質の高いコンテンツを目指しています。あなたの人生を彩るヒントとしてご活用いただければ幸いです。

目次

1. 0. Science of Happiness
2. 1. 幸福になれる金の使い方
3. 2. 幸福になれる金の使い方②
4. 2-1. 収入より資産
5. 2-2. 金を使って時間を自由にする
6. 2-3. お金を使って健康的な習慣を身につける
7. 2-4. 他人のために使う
8. 3. 結婚とか子供とか
9. 4. アレをデスクに置くと幸福になれる
10. 5. 内向・外向人間が幸せになるための人間関係

0. Science of Happiness

まずは英国のブリストル大学などで行われている「幸福の科学」ってプログラムを紹介してみましょう。こちらは2018年から学生の幸福度を高めることを目的として行われているプログラムで、（単位をもらえるというのもあるけど）かなり人気のある授業なんですよね。もちろん内容は専門家でなくても全く問題ないように構成されていて、理論的な背景と実践的なアドバイスが含まれてます。

ここでは理論的なところはすっ飛ばして、「じゃあ何すればいいの？」っていう7点を紹介しておきます。これらを順守していればかなり幸福度の向上は期待できるでしょう。

1. 親切な行いをする
2. 初対面の人と会話を始めるなど、社会とのつながりを増やす
3. 自分の目の前の体験を存分に楽しむ
4. 一日のポジティブな出来事や側面に意図的に注意を向ける
5. 感謝の気持ちを持つ練習をし、今まで十分にお礼を言えなかった人たちにお礼を言うように努力する
6. 体を動かす
7. マインドフルネスやその他の瞑想法をやってみる

かなりシンプルだし、本ニュースレターでもこれまでにご紹介した内容が多いのがお判りいただけるかと。実際これらを実践することによる同様の効果は複数の研究で認められていて、

• コース受講者は、コース初週から最終週まで、精神的幸福感が有意に増加し、孤独感と不安も減少した
• また、コース終了から6週間後も同様の効果が持続していた
• 228人の学部生を対象にした調査では、受講直後の幸福度は10％から15％向上していた
• 長期にわたって上記の「ハピネス・ハック」を継続していた人は、幸福感のスコアがプログラム修了後も明らかに高かった

といったあたりが認められていたりします。冷静に考えて、10％幸福になれるってのはかなり大きな成果じゃないでしょうか。

本プログラムを開発・担当している先生によると、

これらの介入によって、自己中心的で、人生における自分の問題や立場に集中し、反芻するものから、他者や世界全体とつながり、相互に関連するネットワークの一部である自己中心的なものへと、自己の感覚を変化させるのです。

このシフトをすることで、私たちの問題に圧倒されることが少なくなり、他者とのつながりやサポートがもたらす恩恵を享受できるようになる。

とのこと。要するに、これらを実践することでバイアスが緩和される結果、今目の前にある幸福の種から得られる幸福を存分に味わえるようになる、ってな話っすねー。

ちなみに、幸福の理論的な説明はいろいろあるんですけど、個人的には、以下の3つのタイプがある、って説明がしっくり来てます。

1. wanting, approaching, and pleasure
2. avoiding, departing, and relief
3. non-wanting, staying, and satisfaction

詳しく知りたいマニアな方はこちらなどをご参照くださいませ。

1. 幸福になれる金の使い方

上記のプログラムに従ってればそれなりに幸せになれるはずなんですが、それ以上の幸福を目指すよくばりな方はこの章以降のポイントも抑えてみて下さい（もう十分だよ！って方は最終章だけは読んでいただけると嬉しいです）。

まずはお金の話。

詳しい方なら「10万ドルを超えたあたりからは収入と幸福の関係は消失する！」「軸が対数軸なんだけど？」みたいなお話を聞いたことがある方もおられるかもしれませんね。ただ、個人的には「収入」「資産」よりも「何にお金を使うか？」の選択の方が圧倒的に大事なんじゃないの？と思ってたりします。ウォリック大学の研究を見てみましょう。

ここでは、消費や所得と幸福度の関係を分析するために、米国の世帯を対象とした大規模な調査である所得動態パネル調査（PSID）に注目してます。所得上位1％と下位1％の世帯を最終的なデータサンプルから除外した5,660人のサンプルを分析した結果、

• 幸福度の変化と関係があったのは収入ではなく消費であった。特に、衣服、休暇、趣味への支出が最も強く影響していた
• また、物質的な商品（家具、衣服、家電製品など）を購入するよりも、バカンスや観劇といった体験的な買い物をしていた人の方が幸福度が高まっていた

だったそう。同様の結果は、ケンブリッジ大学の2016年の研究なんかでも明らかになってまして、特に、自分の性格特性に合った（体験的な）買い物にお金を使う人は自分の人生への満足感・幸福度が高かった、この効果は総支出や収入よりも強かった、みたいなことを報告してるんですよ。そのほかにも、物を手に入れたときほうが幸せになれると答えたのが34％だったのに対して、経験にお金を使ったときのほうが幸せになれると回答したのは57％だった、みたいなデータもありますね。要するに、

①収入より消費

②自分の性格にあった消費

③物質的な消費より体験的な消費

といった要素が幸福に大きなインパクトをもたらすというわけですな。

ただし、③体験的な消費については若干のニュアンスがある点には注意すべき。例えば2018年の研究では、裕福な人ほど物質的な消費よりも経験を買う方が確かに幸福度が高いが、所得の低い人ほど経験的な買い物よりも物質的な買い物の方が同じくらい、あるいはそれ以上に幸福度の向上に寄与するってことがわかってたりするんですよ。なんで、すべての人が「コト」消費によって幸福になれる！とは断言できないものの、生活に多少の余裕が出てきたら、「何を体験できるのか？」を基準にお金の使い道を検討してみてはよろしいのではないかと。

2. 幸福になれる金の使い方②

お金と幸福の関係についてはそのほかにもいろいろデータがあるんで、それらもざっとまとめておきます。

2-1. 収入より資産

英国の研究では、銀行に預けているお金の総額は、収入の多寡よりも幸福度と強く結びついていることがわかっていたりします。これは高い年齢層の人に限定された話ではなく、実際この研究では18歳から75歳までの500人以上を対象にテストが行われています。

2-2. 金を使って時間を自由にする

あなたが一番面倒だなーと思う作業は何でしょう？家の掃除、食料品の購入、犬の入浴？研究によると、これらの嫌な仕事を誰かに払ってやってもらうことで、より幸せな生活を送ることができることがわかってます。例えば、ある実験では、参加者に40ドルを渡して、時間を自由に使えるようにしてもらうか40ドルを使って好きな物を買ってもらったところ、その結果は明らかで、時間を有効に使える買い物は、幅広い所得レベルにおいて、幸福度を高めることにつながったことが報告されています。

2-3. お金を使って健康的な習慣を身につける

健康と幸福の関係性は色んな分野で確認されていて、たとえば健康的な睡眠パターンを持つ人は幸福度が高い、フィットネスと栄養も幸福度に関係しているといったデータがあります。マットレスや枕を買い替えるとか、ジムやトレーニング機器を導入するとか、食材宅配サービスを利用するとか、健康に投資することで幸福度も上がるはず。

2-4. 他人のために使う

聖書にも「受けるよりは与える方が幸いである」なんて教えがありますがこの考え方は複数の研究で証明されているところだったりします。ある研究では、参加者に少額のお金を渡し、自分と他の人のために使うことを割り当てていて、そのお金を他人のために使った参加者の方が圧倒的に高い幸福感を感じていたとか。

3. 結婚とか子供とか

続いて、「大きなライフイベント」のお話もチェックしてみましょう。「結婚したら/子供ができたら幸福度が爆上がりするぞ！」みたいな話ですね。

この点について難しいのは「複数のライフイベント間の相互関連性」の問題。要するに、結婚して、同棲して、子供ができて、、、ってのはある程度短いスパンで、前のイベントを前提に発生するせいで独立の影響を図るのが難しいんですよね。ただ、最近の研究ではその辺もうまく考慮してくれているんで、一緒にチェックしてみましょう。

例えば、European Journal of Personality誌に発表された研究では、ドイツ社会経済パネル（SOEP）のデータを分析しています。本研究のサンプルには40,121人が含まれ、41,402件の様々なライフイベントを確認。このデータセットから、結婚、出産、失業、パートナーや子供の死など、幅広いライフイベントが幸福に及ぼす影響を調査しています。

結果的にどんなことが分かったかといえば、

• 新しい恋愛関係を形成し、同棲や結婚を通じてそれを進展させることが、幸福にプラスの影響を与えていた。この増加は、もうすぐ付き合えそう！って感覚の前後にピークを迎え、その後の数年間は維持
• 出産もまた、幸福の有意な上昇と関連しており、その効果は女性、特に第一子の出産前後により顕著であった。
• 半面、失恋、失業、死別に起因する幸福へのマイナスの影響も明らかになった。パートナーとの別れは、幸福の顕著な低下につながることが示され、その傾向は、初めて経験する別れの時に顕著だった。失業によるダメージは女性の方が男性よりも低下が急であった。パートナーや子供の死は、幸福を最も大きく低下させた
• 離婚、初仕事の開始、退職、子どもの世帯離脱、親の死などの出来事については、良くも悪くも影響しなかった

って感じ。これらはイベントの連続性も考慮されておりまして、要するに結婚と子供の誕生は独立に幸福に影響する、みたいな事っすね。まー、正直ほかのデータを見てると「結婚する方が幸せか？」ってのは「人による」ってのが大きそうで、一概には言えないと思ってるんですが、少なくとも結婚に付随するそれぞれのイベントが独自に幸福に影響してくるってことで。

4. アレをデスクに置くと幸福になれる

幸福になるために結婚しよう！子供を作ろう！とか思ってもそんな頻繁にできるものじゃないし、実際には快楽適応で意外とすぐ元の幸福レベルに戻ってしまうもの。ってことで、もっと手軽にできることも紹介しておきましょう。その一つとしておすすめなのが「職場に観葉植物を置く」って方法。

これはエクセター大学の研究などで証明されておりまして、研究チームはオランダのコールセンターやロンドンの大手監査法人などの職場を訪れ、観葉植物を設置してもらったんだそう（1平方メートルにつき1本）。で、18か月のプロジェクトの結果何が分かったかといえば、

• 従業員の生産性が15％向上した
• 記憶保持やその他の基本テストの成績が大幅に向上した
• 心理的な影響として、幸福感が向上した

だったそう。研究チーム曰く、

科学的な裏付けがないリーンオフィスの慣習を葬り去ることを期待している。

とのこと。生産性も上がるし、幸せにもなるし、やるっきゃないでしょ！無機質なオフィスなんてナンセンス！と。別の研究ではフェイクの植物でも同様の効果があったぞ！とか、動画や写真でも一定の効果が認められたぞ！みたいな報告もあるんで、可能な限りで緑と触れ合う時間を増やしていただければと。もちろん、森林公園の散歩などで幸福度が上がることも複数の研究で示されているのでお勧めです。

5. 内向・外向人間が幸せになるための人間関係

「結局幸せになるために大事なのは人間関係である！」みたいな話はどこかで聞いたことがあるでしょう。ただ、「自分は内向型だからあんま関係ないんよねぇ」みたいな認識をしている人も結構多いんですよね。が、実際には内向型人間にとっても良好な人間関係は幸福にとって必要不可欠なんで、この点も確認しておきましょう。

この点について言えば、カナダにおけるCovid-19パンデミック中に収集された研究が特徴的でしょう。ここでは、性格特性を調べた949人の参加者を対象に、パンデミックの最中でも幸せな人ってどんな人なんだろう？ってところを徹底的に調べたんだそうな。その結果、

• 幸福感が高いほど、友人、家族、大切な人からの社会的支援が高いことと関連していた
• さらに、幸福感が高いほど、感情的孤独感（例：「周りに人がいないと寂しい」）や社会的孤独感（例：「親しいと感じる人は十分にいる」）が低く、また、親しい友人が1-2人、3-4人、5人以上いる確率が高い傾向にあった
• これらの結果は内向型の人にも外向型の人にも同様に当てはまった

ってことが分かったらしい。要するに、内向型だろうと外向型だろうと周りからの支援を受けられてる！って感覚を抱けていること、孤独感が低いことが幸せに大きく関連しているぞ！と。まわりからの支援に関しては外向型人間よりも内向型人間の方が効果がデカい！ってことも示されてますんで、外向・内向型に関わらず良好な人間関係が大事ってのは認識していおいていただくとよろしいのではないかと。

具体的な人間関係の深め方についてはこちらの記事などで解説しておりますのでご参考までに。

【失われた友情】断絶した世界でつながりを再発見する13の手法｜恋愛にも応用可
おくさん 2024-03-20

6. クリエイティブな活動に時間を割くべし

「音楽がいいぞ！」みたいな話は前回もしましたが、音楽を含むクリエイティブな活動は幸福に対しても大きな可能性があると考えられてます。いくつか例を挙げてみましょう。

• 音楽：APA（米国心理学会）の調査では、楽しいと感じる音楽を聴くことで、脳の扁桃体、つまり感情をコントロールする部分のバランスをとることができると報告されている。脳のこの部分は、心地よい、あるいは楽しいと感じられる音楽に敏感に反応する。モンゴル大学院大学による2022年の研究では、ポップス、メタル、ロック、西洋クラシック音楽、中国の伝統音楽を聴く習慣が、幸福感と正の相関関係があることがわかった。また、ヒップホップやラップを聴くことで、文化的アイデンティティが促進され、リスナーが他者とつながり、地域社会に変化をもたらすことがわかった。
  
• パズル：インドのAnanta Institute of Medical Sciences & Research Centreによる2021年の研究によると、クロスワードパズルは語彙を増やし、思考を刺激し、自信を高め、学習能力を早める可能性が報告された。ニューイングランド・ジャーナル・オブ・メディシン誌に発表された2022年の研究では、パズルを解くことが62歳から80歳の軽度認知障害のある成人の脳の構造・機能の低下を遅らせ、幸福感の増加、不安・うつ・ストレスの低下をもたらしていると報告した
  
• 描く、彫る：いわゆる「アートセラピー」は、うつや不安の症状を和らげるだけでなく、ネガティブ感情を低減し、幸福感を増加させる効果があると報告されている。これは絵が苦手と思っている人でも同様の効果が認められている。
  
• クリエイティブ・ライティング：詩的に文章、詩、日記、自伝的な文章を書くことでネガティブ感情が低下し、幸福感が低下することがAPAなどによって報告されている。

7. 「休日のように」過ごす

「ブルーマンデ―」なんて言葉もありますが、毎週訪れる「月曜日」をいかに幸せに過ごすか？みたいな話もしてみましょう。この点については、最近Social Psychological and Personality Science誌に掲載された研究が面白くて、「土日をまるで休暇のように過ごす」と指示しただけで月曜日に幸せな気分で仕事に励むことができたんだそうな。

具体的な研究内容はこんな感じ。

1. 441人のフルタイム労働者が対象
2. 金曜日に幸福度を測定し、その後2つのグループに分けた。1つのグループには「この週末を休暇のように過ごす」ように、もう1つのグループには「この週末を通常の週末のように過ごす」ように指示。
3. 月曜日に職場に戻り、労働者の幸福度を再測定した。また、2日間の休みの間に「今この瞬間」にどれだけ集中できたか、7つの調査項目に回答してもらった。

要するに、いつもと変わらぬ土日なんだけど、「バカンス」みたいな気分で過ごしてみてね！と意識させるだけでより良い休みをとれるようになるんじゃないのか？を調べたわけですね。

その結果、

• 週末を休暇のように過ごすよう指示された労働者は、普段通りに過ごすよう指示された労働者に比べ、月曜日に職場に戻ったとき、ポジティブな感情が大きく、ネガティブな感情が小さく、幸福度が高かった
• また、彼らは週末に「今この瞬間」に集中したことも報告され、この「今この瞬間」への集中が、月曜日の幸福感を高めた一因となっていた
• 同様のデザインで行われた2つ目の研究では、週末を休暇のように過ごしている人は、家事などに費やす時間が短く、週末をより楽しんでおり、やはり「今この瞬間」に意識を向けていることがわかった
• ただ、全体的に被験者の時間の使い方の違いは、月曜日に報告された幸福度の違いを説明することはできなかった。一方、「今この瞬間」に注意を向けることは、その違いを説明することができた。

だったそう。要するに、別に海外旅行に行くぜ！みたいなことをせず、普段と同じような活動に時間を使っていたとしても、「休暇のように過ごす」と意識するだけで今の時間を存分に楽しもうって気持ちになり、その結果として月曜日以降の幸福度も上がったぞ！ってわけっすね。

しかも別に被験者は必ずしもマインドフルネスをトレーニングをした人たちではなかったみたいなんで、本当に手軽に試せる方法であるってのはうれしいっすな。

まーこの効果は何週間続くのか？とかは謎ですけど、最近月曜日がマジで憂鬱なんだよなーって感じた際などには土日に入る前に「この土日は休暇のように過ごしてやるぞ！」ってのを意識してみていただくとよろしいのではないかと。

8. 心の惑いも大事

「幸福にはマインドフルネスが大事なのね！」みたいな話をした直後ですが、いわゆる「マインドワンダリング」も幸福には重要。要するに、「ぼーっとする時間」が幸福感の増大につながるぞ！ってとこも意識していただくとよろしいのではないかと。特にいつでも手を伸ばせば娯楽・暇つぶしにリーチできる現代においては意識的にこのための時間を設けていただくのが大事っすね。

この点については、日本とイギリスの大学生を対象にした研究を紹介してみましょう。

研究チームは、まず最初の実験で、「他の活動を何もしないで座って考え事をする」ことにどれほどの楽しみを感じるかを被験者に尋ねてます。その後、被験者が実際にその作業をどの程度楽しめたかを再度尋ねたところ、参加者たちは、自分が思っていた以上に、考えることを大いに楽しんでいることがわかったんだそう。これは何もしない時間の長さなどにもよらず確認されてて、私たちは「何もしない楽しさ」を過小評価してるぞ！って話ですね。

さらに、「考えることを大いに楽しむ」という予測と、「ネットでニュースをチェックすることを楽しむ」という予測を比較したところ、「ネットでニュースをチェックする方が圧倒的に楽しいでしょ！」と予測したにもかかわらず、考えた場面の方が高い幸福感を報告したぞ！みたいな結果も得られたらしい。「そんなんたいしたことないっしょ」って思いがちだけど実際やってみると予想以上に楽しいし幸福感も高まるぞ！ってわけですね。

ちなみに、こういった自由に思考を発散させる「マインドワンダリング」は創造性や問題解決能力の向上なんかにも寄与することがわかってますんでぜひとも一日3分だけでも実践していただければと。私も毎日どれだけ忙しくてもやってます。別に座って落ち着いて、じゃなくても散歩中はイヤホンを外して思考を楽しむって方法も一定の効果が認められているしおすすめです。

9. 幸福になろうとしてはいけない

最後にして一番大事なのが「幸福になろうと意識しすぎてはいけない」というポイント。幸福は上記の「行動」の結果としてついてくるものであって、「幸福にならないと！」みたいな直接的な思考はむしろ不幸につながるってことがわかってきてるんですよね（いわゆる「有害ポジティブ」）。

この分野の有名な言葉として、

私はとても、とても幸せです。でも、私はとてもとてもとても幸せでいたいのです。だから、私は惨めなのです。

ってのがあったりもして、幸福度を直接的に高めようとすると結局不幸に導かれてしまうんですな。

この点について重要なのは「幸福の重視」と「ポジティブ感情の重視」という微妙な言葉のニュアンスを理解すること。実験で使われるような質問票のことばを使えば「幸福の重視」ってのは、「幸せを感じているときでも、自分の幸せが気になる」「幸せを感じないときは、何か問題があるのかもしれない」みたいな文言にどれだけ同意するかで測定されます。一方「ポジティブ感情の重視」ってのは「「自分の幸せが最大になるように一日を構成している」「自分のポジティブな感情を探し大事にしている」といった言葉で測定されます。（ニュアンスが伝わればよいのですが、、）直接幸福を高めようとするか、どんな行動や考え方をすれば幸福になれるかなーと考えるか、という違いっすね。

実際、約500人を対象に行われたJournal of Positive Psychology誌掲載の研究なんかを見ても、「幸福の重視」のスコアが高い人は実際の幸福度が低い一方、「ポジティブ感情の重視」のスコアが高い人は実際の幸福度が高かったぞ！って結果が得られてたりするんですよね。

この点について詳しい話は「幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない: マインドフルネスから生まれた心理療法ACT入門」などを読んでいただければと思いますが、どちらの考え方をとるかによって「ネガティブな体験」に対する向き合い方が変わっちゃうんですよ。

人生において、苦痛、失敗、損失、失望を経験することは避けられない。落ち込んだり、不安になったり、恐怖を感じたり、孤独を感じることもある。これは事実なわけで、大切なのは、こうした体験にどう対応するか。そのような体験に寄り添い、ありのままを受け入れるか、それとも、そこから避け、逃げようとするか、その選択が重要なわけです。その点、いつも幸せでいることを目指している人は、つらいことがあると、その目標が「邪魔」されたように感じやすいんですよね。一方、「幸福でいるには何をすべきか？」を先に考えてその行動目標を優先させている人は、この障害をどう乗り越えればいいの？って建設的・実践的な視点を持ちやすいんですよね。同時に、感情の落ち込みや不快感を受け入れ、この問題（とその解決）も長い目で見れば自分を幸せにすることにつながるんだって理解しやすいんですよ。

「苦痛は避けられない。苦しみはオプションである」なんてことばもあったりしますが、あくまで幸せは結果であって直接的に手にできるものではない、ってのは常に認識しておいていただけますと幸いです。

ではまたー。

さいごに

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