🤝『Give & Take』のその先へ:与える人が勝つ時代【2025年版】
私が10年近く前に読んで以来、長らく座右の書みたいになっている本がありまして。それすなわち組織心理学者のアダム・グラント先生の『Give & Take』。
本ニュースレターをお読みの皆様なら、読んだことある人も多いんじゃないかと思っていますが、まさに名著中の名著。「成功」と聞くと、才能とか努力とか、個人の能力ばっかりに目が行きがちだけど、グラント先生は「いやいや、本当に大事なのは他人とどう関わるか、その『スタイル』なんだぜ!」って喝破したわけです。
一応復習しておくと、本書では、世の中の人を大きく3つのタイプに分類しています。
- ギバー(Giver): まず人に与えることから始める、「与える人」。
- テイカー(Taker): 自分の利益を最優先する「奪う人」。
- マッチャー(Matcher): 与えられたら与え返す、損得の「バランスを取る人」。
多くの人はマッチャーで、ギバーとテイカーは少数派。で、面白いのが、一般的に「いい人=ギバーは競争社会で損しそう」って思われがちなのに、グラント先生は豊富なデータと事例で「長期的に見ると、最も成功するのも、最も失敗するのもギバーだ」という、なんとも興味深い事実を突きつけたわけです。成功するギバーは、ただのお人好しじゃなくて、自分の利益もちゃんと考える「賢いギバー(Strategic Giver / Otherish Giver)」である、と。
本書は、あまりに示唆に富んでるんで、私自身も日々の行動選択において、「自分は今、賢いギバーとして振る舞えているか?」ってのを常に意識するようになってます。まさに人生の澪標になってくれる一冊なんですよね。
ただ、やはり出版から10年以上経つと、科学の世界は日進月歩。Give & Takeまわりの研究の知見も、どんどんアップデートされてるわけです。グラント先生が示してくれた大きな方向性は今でも輝きを失っていませんが、「じゃあ、具体的にどういう状況でギバーは成功しやすくて、どういう時に失敗しやすいの?」とか、「ギバー、テイカー、マッチャー以外にもっと考慮すべきことはないの?」とか、さらに解像度を上げておきたいところ。
そこで、今回のニュースレターでは、『Give & Take』のその先へ、というテーマで、ここ数年に発表された最新の学術論文をベースに、私たちがより賢く、より効果的に「与え、受け取る」ための「現代版・澪標」を探っていきたいと思います。
時にはグラント先生の理論を補強するような研究を、時には「それは原著とは逆の結果じゃない?」と現状の認識がひっくり返るような意外な研究を、時には「ギブにもダークサイドが…」といったちょっと耳の痛い研究まで、5つほど厳選して取り上げてます。
今回のニュースレターが、皆さんの日々の人間関係や仕事における「与え方」「受け取り方」を見つめ直し、より豊かで、より生産的な関係性を築くための一助となれば幸いです。
| 🤡覚悟した者は『幸福』であるッ! |
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本ニュースレターでは、徹底的に調べあげたエビデンスをベースに「より信頼でき、真に価値ある情報」をレポートし、ゴミがあふれるネット上においてキラリと光る質の高いコンテンツをお届けすることを目指しています。あなたの人生を彩るヒントとしてご活用いただければ幸いです。
目次
- 「誰の」ギブが最強か
- ギバーの上司で活力上昇
- ギバーのダークサイド
- ギブしすぎると本人のパフォーマンスも低下する説
- 知識のGiveで自信もモチベも爆上がり
- おわりに
「誰の」ギブが最強か
職場や身の回りを見渡してみると、ギバー的な人、テイカー的な人、マッチャー的な人、いろいろいますな。しかし、テイカーだからと言って必ずしも同レベルの被害をもたらしてくるわけにあらず。ギバーがもたらすベネフィットについても、一様とは言えないでしょう。となると気になるのは、「誰の」Give & Takeスタイルが、自身の満足度ややる気に一番影響するのか?ってことでしょう。
この素朴だけど超重要な疑問に、イタリアのScuola Superiore Sant'Annaっていう研究機関が、がっつり調査を行ってくれておりました。調査対象はイタリアの公衆衛生分野で働く専門職総勢16,461人で、規模はかなりでかめ。 オンラインでの実験とはいえ、これだけのリアルな公務員を対象に、複数の凝った実験(離散選択実験とか要因計画実験とか)をやってるんで 、なかなか信頼できるデータと言っていいんじゃないでしょうか。
さて、この大規模調査で何がわかったのか?主な発見は大きく3つ。
発見1:やっぱ「ギバー上司」は最高!でもそれだけじゃない
まず、部下の職務満足度について。これは予想通りですが、やはり上司がギバー(他者の利益>自分のコストなら助ける人)だと、部下の満足度は一番高くなったそう。また、テイカー(自分の利益>自分のコストなら助ける人)な上司の下より、マッチャー(損得のバランスを取る人)な上司の方がマシで、ギバーな上司が一番良かった、とのこと 。
まぁ、この点については、部下のことを考えてサポートしてくれる上司の下で働きたいのは当然でしょう。面白いのは、この効果は、上司のリーダーシップのタイプ(例えば、ビジョンを示して引っ張るタイプか、部下に奉仕するタイプか)とか、コミュニケーションの焦点(「なぜ」を説明するか、「何を」を指示するか)とかの影響とは、別個独立に見られたって点 。つまり、いくらリーダーシップスキルが高くて話し方がうまくても、根っこにある「与える姿勢(ギバー的かどうか)」が、部下の満足度にしっかり影響してるってわけっすね。深い。。
発見2:「上司 < 同僚」? モチベーションへの影響力
次にチームの「モチベーション」に目を向けると、またまた面白い事実が判明してます。
従業員のモチベーションも、やっぱり上司や同僚がギバーだと高くなる傾向があったんですが 、驚くべきことに、同僚がギバーであることのポジティブな影響力の方が、上司がギバーであることの影響力よりも、統計的に有意に大きかったらしい。
つまり、自分のやる気を一番左右するのは、偉い上司のおありがたいお言葉やサポートよりも、むしろ身近な同僚がどれだけギバー的かどうかってことなんですな。 日々一緒に仕事して、困った時に「大丈夫?」って声をかけてくれたり、ちょっとした情報共有をしてくれたり、そういう同僚からのGiveの積み重ねが、上司からのGiveよりも、私たちのモチベーションを強く支えてる可能性がある、と。これは現場感覚としても、めちゃくちゃわかりますねぇ。
発見3:「テイカー」の破壊力と「ギバー」の価値
さらにダメ押しで、チームに新しいメンバーが入ってきたり、逆に出て行ったりする時の影響も調べてるんですが、これがまたリアルな結果になってます。
結果は明確で、
- ギバーがチームに新しく加入する時、既存メンバーのモチベーションはグンと上がる
- 逆に、テイカーがチームに入ってくるとなると、メンバーのモチベーションはガクンと低下する
って感じだったそう。
Source: Public Administration Review. 2024;84(4):748-763.; 横軸が人の動き(Out:去る、In:来る)、縦軸が期待されるモチベーション(0-100点)。ギバー(実線)が「In(来る)」するとモチベーションは最高の約75点まで跳ね上がるのに対して、テイカー(点線)が「In(来る)」すると約38点まで急降下。
この落差はなかなかでかいっすねぇ。 ちなみに、ギバーが去る(Out)のも悲しい(約53点)けど、テイカーが去る(Out)方がまだマシ(約59点)っていうのも、なんかリアルな印象を受けましたね。
以上、この研究をまとめると、
- 職場における「ギバー」の存在価値はマジで高い
- 特に、上司からの影響もさることながら、「同僚のギバー度」が我々のやる気にめちゃくちゃ影響してる
- そして、チームに「テイカー」が一人紛れ込むだけで、全体のモチベーションを著しく下げかねない(まさに『組織の疫病神』)
ってところでしょう。
この研究をみると、私たちが普段の仕事で意識すべきことも見えてくるはず。
まずは、自分自身が周りの同僚に対して、どれだけギバー的に振る舞えているか? という自問自答の重要性。上司にだけ良い顔するんじゃなくて、一緒に働く仲間をちゃんとサポートできてるか。見返りを求めすぎず、できる範囲でGiveできてるか。そういう個々人の小さな行動変容が、チーム全体の活性化につながる可能性は十分あるでしょう。
もう一つは、チームに「テイカー」を入れない、増やさない努力。採用の場面で相手の互恵性スタイルを見抜くのは至難の業かもしれないですが、少なくともチーム内に明らかにテイカー的な行動(自分の利益優先、他人の手柄を横取り、責任逃れなど)が見られたら、見て見ぬふりをしない、っていう姿勢は大事かもしれないっすね。場合によっては、ちゃんとフィードバックするとか、チームとしてそういう行動は許容しないっていう文化を作っていく必要がありそうです。テイカー一人の破壊力は舐めちゃいけませんからねぇ。
ギバーの上司で活力上昇
上司のギバー的行動についてもう一つの論文をチェックしてみましょう。最近の研究では、上司の部下に対するギブが部下の成長や活力(いわゆる「Thriving(スライビング:いきいきと成長している状態)」)にがっつり影響することもわかってきているんですよね。
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Frontiers in Psychologyに掲載された論文では、中国国内の様々な業種の社員51名を対象に、5日間×51名=延べ205日分のデータを解析。各参加者の直属上司の行動傾向を測定し、リーダーの援助行動(その日、上司が部下をどれだけ助けてくれたかの知覚)、部下本人の発言行動(Voice behavior、その日の職場で改善提案や意見具申を行ったか)、仕事における活力と成長実感(Thriving at work)を日報で評価してもらったらしい。
結論、
- 「今日、上司に助けてもらったな」と感じた日は、従業員のThriving度合いも高い、というポジティブな関係が見られた!
ってことが分かったらしい。まぁ、これは直感的にも理解しやすい話で、困っている時に上司が手を差し伸べてくれれば、仕事も進むし、新しい知識や視点が得られて「学んだ!」と感じられる(学習)。そして、単純に気にかけてもらえたことで元気が出たり、仕事への意欲が湧いたりする(活力)。上司のヘルプが、部下の「学習」と「活力」の両方を刺激して、Thrivingにつながる、というのは納得の結果でしょう。
さらに面白いのが、なぜ上司のギブがThrivingにつながるのか、そのメカニズムの一端を「社会学習理論」の観点から説明している点。社会学習理論ってのは、ざっくり言うと「人は他者(特に影響力のあるモデル)の行動を見て、その行動や背景にあるルールを学習し、模倣する」っていう考え方ですね。
この理論に基づくと、今回の結果は以下のように説明できます。
- 見て学ぶ: 部下は、上司が自分や他の人を助ける姿を見て、「なるほど、うちの組織では、こういう風に周りを助ける行動(Affiliative Behavior)が奨励されてるんだな、価値があるんだな」と学習する
- 模倣して発言する: その学習に基づいて、部下も組織に貢献しようと、自ら「発言行動(Voice Behavior)」、つまり、現状をより良くするための建設的な意見や提案をするようになる。これは、リーダーの「助ける」という行動を、自分なりに「組織をより良くする」という形で模倣しているととらえられる。
- 発言がThrivingを促す: そして、この「発言行動」自体が、新しいアイデアを考えたり、それを表現したりするプロセスを通じて、部下の学習感覚や有能感を高め、結果的にThriving(成長と活力)につながる
つまり、「上司のギブを見る → 学習して模倣(発言行動) → Thriving!」 という流れがある、と。上司の行動が、部下の主体的な行動を引き出し、それが成長実感につながる…美しい連鎖ですねぇ。
しかしこの研究のハイライトは別にあって、 研究チームはさらに、「じゃあ、この『上司のヘルプ → 部下の発言 → Thriving』っていうポジティブな流れは、どんな時に特に強まるんだろう?」という疑問を探求してます。
そこで注目したのが、「部下が、自分の上司のことをどれだけ忙しそうだと認識しているか(Perceived Leader's Role Overload)」という視点。
普通に考えたら、「上司が忙しそうだったら、助けてもらっても恐縮しちゃうし、効果も薄れるんじゃないの?」って気もしますが、結果は逆で、
- 部下が「うちの上司、めっちゃ忙しそう…」と感じている時ほど、上司のギバー的行動が部下の発言行動を促す効果(そして、発言を通じたThrivingへの間接効果)が、より一層強まることが分かった
だったそう。このメカニズムについても、研究チームは、社会学習理論で説明してます。つまり、部下は、「うわっ、リーダーあんなに自分の仕事で手一杯なのに、わざわざ私のために時間を割いて助けてくれたぞ…! ということは、この『助ける』っていう行動は、リーダーにとって、そしてこの組織にとって、めちゃくちゃ優先度が高くて、価値のあることなんだ!」って心理になるんじゃないか、と。
つまり、忙しい状況下でのヘルプは、その行動の「価値」や「重要性」を際立たせる強力なシグナルになるわけですな。だからこそ、部下はその「価値ある行動」をより強くインプットし、「自分もやらねば!」と学習・模倣する動機が高まる(=発言行動がより促進される)、と。おもしろいっすねえ。
Source: Front. Psychol. 11:553512.; 横軸が上司のヘルプ行動、縦軸が部下の発言行動。点線が「上司は忙しい」と部下が認識している場合、実線が「上司は忙しくない」と部下が認識している場合を示す
上図を見ても、上司が忙しいと認識されている場合(点線)の方が、上司のヘルプが増えた時の部下の発言行動の伸びが大きいのが分かるんじゃないかと。
まとめると、
- 上司のギブは部下の成長と活力を促す上で重要
- その効果は、部下が「忙しいのに、自分のために…!」と感じた時に、最大限に発揮される可能性がある
ってところで、「忙しい上司」に対する見方がちょっと変わるような内容じゃないでしょうか。
リーダーにとっては、自分のリソース管理と部下への影響という難しいバランス取りが求められますが、少なくとも「忙しいから助けられない」と単純に考えるのではなく、「忙しい中でも助けること」が持つ特別な意味を認識しておく価値はありそうですね。もちろん、忙しさからくるネガティブな行動(イライラをぶつけるとか)は、それもまた強く学習されてしまうリスクがあるので要注意でしょうが。
あと、個人的には、サーバント・リーダーシップ(奉仕型リーダー)の効用とも通じるものがあるなーとか思いましたね。
ギバーのダークサイド
原著でも、「ボトムギバーは損するだけ!」「ギブすればするほど良いわけじゃないぞ!」的なことは触れられてますが、最近の研究でもギバーのダークサイドは見つかってたりします。ここではその一例として、2023年にInternational Journal of Environmental Research and Public Healthに掲載された中国の研究を紹介してみます。
この研究では、「人助け行動(Helping Behavior)」が、めぐりめぐって助けた本人の「キャリア満足度(Career Satisfaction)」、つまり自分の仕事人生に対する満足感を下げてしまうかもしれない、っていう可能性を指摘してます 。具体的には、研究チームは、中国の建設会社で働く203人の従業員に協力してもらって、2回にわたる調査を実施 。そこで明らかになったのが、人助けがキャリア満足度を蝕む「負の連鎖」。
- 人助けでタスクが圧迫される!
- まず、同僚を助けるために時間や労力を使うと、当然ながら自分の本来の仕事に使えるリソースは減少 。その結果、「自分の仕事、全然終わらないじゃん…」「めっちゃ忙しい!」といった「認識されたタスク要求(Perceived Task Demands)」が高まる。
- タスク圧迫が精神的負担に
- この「タスク要求が高い!」っていう感覚が続くと、精神的なプレッシャー、つまり「ジョブストレーン(Job Strain)」が増大し、常に時間に追われて、心に余裕がなくなってくる感覚が発生する
- 精神的負担がキャリア満足度を低下させる
- ジョブストレーンが慢性化すると、「この仕事、なんかキツいな…」「このまま続けてて、幸せになれるのかな…」のように感じてしまい、長期的な「キャリア満足度」が低下する
要するに、「人助け → タスク圧迫感UP → 精神的負担UP → キャリア満足度DOWN」っていう、負の連鎖が起こりうるってことっすね 。「良いことしてるはずなのに、なんで自分がこんなに辛いんだ…?」ってなりがちな「お助け疲れ」の正体を見事に言語化してくれてる気がしますな。
とはいえ、この研究はここで終わらず、ちゃんと救いも用意してくれているのがありがたいところ。この「お助け疲れ」のワナは、実は誰にでも当てはまるわけじゃないってことも分かったんですな。
ここで鍵を握るのは、「強みの活用(Strengths Use)」というポイント。
つまり、自分の「強み」を自覚して、それを仕事でバリバリ活かせている人は、たとえ人助けでタスク要求が高まったとしても、精神的な負担(ジョブストレーン)を感じにくいってことが明らかになったんだそう。
Source: Int. J. Environ. Res. Public Health 2023, 20, 161.; 横軸が認識されたタスク要求、縦軸がジョブストレーン。実線が強みの活用が低い人、点線が強みの活用が高い人を示す。
上図では、横軸が「タスク要求の高さ」、縦軸が「精神的負担(ジョブストレーン)」を表してるんですが、「Low Strengths Use」(強みを活かせてない人、実線)は、タスク要求が高くなるにつれて精神的負担が急上昇しているのに対して、「High Strengths Use」(強みを活かせてる人、点線)は、タスク要求が高くなっても精神的負担はほとんど変化なしだったみたい。おもしろいっすね。
なんで「強みの活用」がこんなに効くのか? 研究チームは、自分の強みを活かせる人は、仕事の効率が良いし 、困難な状況でも創造的な解決策を見つけやすい 。それに、自分の得意なことをやっていると、仕事自体が楽しく感じられたり(ポジティブ感情)、自信を持って取り組めたり(自己効力感) するから、タスクが増えても精神的に消耗しにくいんだろう、と考察しています。まさに、困難を乗り越えるための「最強の武器」を自分で持ってる状態、ってわけですな。
結論、ギブがキャリア満足度を下げてしまうという負の連鎖は、主に「自分の強みを仕事で活かせていない」と感じている人において起こりやすい、と。
要するに、人助けも大事だけど、それと同じくらい(あるいはそれ以上に)、自分の『強み』を仕事でしっかり活かすことが、長期的なキャリア満足度のためにはめちゃくちゃ重要ってことですね。なんでもかんでも引き受けるのではなく、自分の強みを生かせる形で人に手を貸すのがいいのかも、と。これなら、相手も助かるし、自分も消耗しにくいし、一石二鳥じゃないでしょうか。
ちなみに、「NO!」とはっきり伝えるための工夫として、私はプレイトマンの「断る!技術」を参考にしてたりします。

ギブしすぎると本人のパフォーマンスも低下する説
キャリア満足度以外にも、ギブしすぎてると本人の仕事の成果(タスクパフォーマンス)そのものを下げちゃうんじゃないの?なんて結果も出てます。仮にキャリアの満足度を犠牲にしても「組織のために」と献身を見せたとしても、実際にはむしろチームにとっても損になっている可能性があるわけですな。
こちらはHeliyonに掲載された2023年の研究で、中国の建設会社で働く202組の上司と部下のペアに協力してもらって、2回にわたってデータを収集。従業員の自己評価に加えて、上司が部下のパフォーマンスをどう評価してるかまで見てるのがポイントですね。
で、結果はといえば、
- 部下が自分は「人助け行動」を多くしていると自己評価しているほど、上司からの「タスクパフォーマンス評価」は低い傾向にあった
だったそう。良かれと思って、組織のために、困ってる同僚のためにと思ってやっていた「人助け」が、巡り巡って自分の仕事の評価を下げてしまっている可能性があるわけですね。これはショックでかい…。
何故そんな悲しいことが起こってしまうのか? 研究チームは、その心理的なメカニズムも解き明かそうとしてます。鍵は、「認知的なイライラ(Cognitive Irritation)」と「感情的な消耗(Emotional Exhaustion)」という2つの心理状態。
プロセスはこんな感じ。
- 人助けで、頭の中がごちゃごちゃに…
- 同僚を助けることに時間や意識を取られると、自分の仕事がなかなか進まなくなる。そうすると、「あれも終わってない、これもやらなきゃ…」って、終わらないタスクのことで頭がいっぱいになって、イライラ、そわそわする状態(=認知的なイライラ) になりやすい 。
- イライラが、エネルギーを奪う…
- この認知的なイライラ状態が続くと、心が休まらず、精神的に疲れ果ててしまう(=感情的な消耗)
- 消耗すると、パフォーマンスは出ない…
- そして、心が疲れ切ってしまっては、良い仕事なんてできるはずもない。結果的に、仕事のパフォーマンスが低下してしまう 。
つまり、「人助け → 認知的なイライラ UP → 感情的な消耗 UP → タスクパフォーマンス DOWN」 という、負のループが示唆されたわけっすね。助けた本人は、知らず知らずのうちにこのループにはまって、パフォーマンスを落としてしまっているのかもしれない、と。これは結構キツいですねぇ。
ただ、これもまた、「じゃあ人助けなんてしない方がいいのか!」っていう単純な話に終わってないのが面白いところ。研究によれば、この負のループはチームの状況によって、その影響度が変わってくることも分かったそう。
ポイントは、「チームの共同目標追求(Team Communal Goal Striving)」というチームの雰囲気 。これは、チームメンバーが「お互いに積極的に関わり合って、助け合って、チーム全体の目標を達成していこうぜ!」って考えて、実際に行動している度合いのこと。で、この研究で何が示されているとかといえば、
- 協力的なチーム(共同目標追求が高い)の場合:
- チーム全体に「みんなで助け合おう!」っていう雰囲気が浸透していると、たとえ人助けで自分の仕事が一時的に遅れたとしても、周りのメンバーから「大丈夫?手伝おうか?」とサポートが得られやすかったり、「助けるのは当たり前」という共通認識があったりするためか、人助けをしても「認知的なイライラ」は増えにくい 。結果的に、パフォーマンス低下の負のループに陥りにくい
- 個人主義的なチーム(共同目標追求が低い)の場合:
- 逆に、「自分の仕事は自分でやるのが基本でしょ」といった個人主義的な雰囲気のチームだと、人助けをしても、周りからのサポートは期待しにくい。むしろ「なんであの人ばっかり…」みたいに思われるかもしれない。こうした状況だと、人助けの負担がもろに本人にのしかかって、「認知的なイライラ」が増大しやすい 。そして、パフォーマンス低下の負のループがガッツリ回ってしまう可能性が高い 。
下図は、この違いを分かりやすく示していて、チームの共同目標追求が低いチーム(実線)では人助けが増えるとイライラが急上昇するけれど、高いチーム(点線)ではほとんど変化しないことがよくわかりますな。
Source: Heliyon 9 (2023) e21024; 実線がチームの共同目標追求が低い場合、点線が高い場合を示す。
まとめると、
- 人助けが自分のパフォーマンスを下げてしまうリスクは確かにある
- でも、そのリスクは、チーム全体がどれだけ協力的で、お互いをサポートし合う雰囲気かどうかに大きく左右される
- 協力的なチームにいれば、人助けのデメリットはかなり軽減される
といったところでしょう。
言い換えれば、今回の研究は、これまでのGive & Takeの話に、「チーム環境」っていうめちゃくちゃ重要な視点を加えてくれる点で重要。個人として「戦略的ギバー」を目指したり、「自分の強み」を活かしたりするのも大事だけど、それだけじゃ不十分で、自分が所属するチームの文化や雰囲気がどうなっているか、っていうのが、人助けの結果を大きく左右する、ってわけですね。
仮にあなたが「良かれと思ってギブしたのに、なぜか評価されない…」ってもやもやを抱えているとしたら、それはあなたの所属するチームが、個人プレー中心で、助け合いが推奨されていない雰囲気であることが一つの原因になっているのかもしれないですね。
だとしたら、どうすればいいか?
個人レベルでは、やはり「人助け」と「自分のパフォーマンス維持」のバランスを取ることが大事でしょう。そして、もしチームの雰囲気が協力的でないなら、一人で抱え込まずに、周りにサポートを求めたり、場合によっては「助け合いやすい雰囲気を作っていきませんか?」って働きかけてみたりすることも必要かもしれないっすね。
一方、マネジメント層にとっては、もっと大きな示唆があるはず。単に「手を貸してやれ!」と号令をかけるだけでは、かえって従業員のパフォーマンスを下げてしまうリスクがあることを認識すべき 。それよりも、従業員が安心して助け合いができるような、「共同目標追求」の高いチーム文化を醸成すること が肝要でしょう。例えば、チーム目標を明確にして協力の重要性を伝えたり、助け合いを評価する仕組みを取り入れたり、メンバー間のコミュニケーションを促進したり。そういう地道なチーム作りこそが、ギバーのポジティブな側面を引き出し、ネガティブな側面を抑える鍵になるんじゃないでしょうか。もちろん、人助けをしたメンバーへの具体的なサポート(タスク調整や他のメンバーからの支援など)も必須でしょうね。
知識のGiveで自信もモチベも爆上がり
最後は、少し視点を変えて、「与えること」の中でも特にパワフルな形態の一つといわれている、「教えること」に関するデータもチェックしておきましょう。人に何かを教えるのっては、究極のGiveの一つであり、教える側にも教わる側にも、とんでもないメリットがあるんじゃないか? と考えられているんですな。
ここで取り上げるのは、International Journal of Educational Research Openに掲載予定の2025年のメタアナリシスの結果。テーマは「ピア・チュータリング(Peer Tutoring)」。要するに、学習者同士が教え合う学習法が成績やその他のファクターに対してどれだけ有効なのかを調べ上げてくれたわけですね。
具体的には、Web of ScienceやScopusといったデータベースを駆使して、ピア・チュータリングとSTEM教育に関する研究を網羅的に検索し、最終的に24件の研究をピックアップ、合計3311人分のデータを統合して結論を導いてます。
以下結果です。
まず、STEM科目における学業成績について。ピア・チュータリングを行ったグループは、行わなかったグループ(普通の授業など)と比較して、学業成績が有意に、大幅に向上していたそう。効果量(SMD)は1.23で、かなりの効果であることが分かりますな。つまり、理系科目においては、先生から一方的に教わるよりも、生徒同士で教え合った方が、成績が爆発的に伸びる可能性があるってこと。「情けは人のためならず」どころか、「教えは人のため、そして自分のためにもなりまくり」って感じでしょうかね。
さらに、この研究では成績以外の効果も見ていて、自己概念(自分をどう捉えるか)、批判的思考力、内発的動機づけ(やる気)、学習態度、実技スキル(Psychomotor skills)といった項目についても、ピア・チュータリングは小さいながらも統計的に有意なポジティブな効果を示していました。
成績が上がるだけでなく、自信がついたり、学習意欲が高まったり、物事を深く考える力がついたりと、多方面にわたって良い影響があるってことですね。すごい。。
もう少し詳しい点もメモっておくと、
- 科目による差: STEMの中でも、特に生物とテクノロジー分野で効果量が大きい傾向が見られた(実験とか実習とか、実践的な要素が強い科目ほど、教え合いの効果が出やすいのかもしれない)
- 年齢差は関係ない?: ピア・チュータリングには、同級生同士で教え合う「Same-age tutoring」と、年上の生徒が年下を教える「Cross-age tutoring」があるが、今回の分析では、この2つの形式の間で、学業成績への効果に統計的な差は見られず、どちらの形式でも、大きな効果が確認された。数字上では同年齢の方が若干効果量が大きかったが、有意差はなかった。「誰に教わるか」よりも、「質の高い教え合いが行われているか」の方が重要なのかもしれない
なぜピア・チュータリングはこれほど効果的なのか、メカニズムについても軽く触れておきましょう。
一つは、「教える側(チューター)」にとってのメリット。人に何かを分かりやすく説明しようと思ったら、自分自身がその内容をめちゃくちゃ深く理解していないとできませんよね? つまり、教える準備段階と実際に教える段階において自分が本当にわかっている点とあいまいな点が明確になり、「なんとなくわかった気がする」を回避できる確率が大きく上がるわかるわけです(「流暢性の錯誤」ってやつです)
もう一つは、「教わる側(チューティー)」にとってのメリット。先生には聞きにくいことでも、友達になら気軽に質問できたり、自分と同じ目線で、分かりやすい言葉で説明してくれたりするはず。さらに、一方的に聞いているだけでなく、質問したり、議論したりする中で、能動的に学習に参加できるのが効いていると考えられてます。
この相互作用こそが、ピア・チュータリングの肝で、教える側も教わる側も、お互いに刺激し合いながら、理解を深めていく。まさに理想的な「学びのギブアンドテイク」な気がしてきますな。
おわりに
今回は、Give & Takeの複雑な側面、時にはコストやリスクも伴う現実を最新の研究をベースに見てきました。
「情けは人のためならず」の言葉通りにはいかず、ひとえにGiveといっても、状況や文脈、個人のリソースによって、まったく違う結果を生み出してしまう。テイカーは確かに厄介だけど、ただのお人好しギバーもまた、搾取されて消耗してしまうリスクを抱えている。
結局のところ、これらの論文を通して見えてくるのは「絶対的な正解はない」という身もふたもないところでしょう。とにかく「文脈(コンテクスト)が死ぬほど重要」で、
- 誰が、誰に、何を、いつ、どうやって Give するのか?
- それをする自分自身のリソース(強み、時間、エネルギー) はどうなのか?
- そして、その行動が行われるチームや組織の環境(協力的な文化か、個人主義か) はどうなっているのか?
こうした要素を複合的に見極めながら、自分なりの「最適な与え方・受け取り方」のバランスを探っていく必要があるんでしょうな。それが、単なる「いい人」で終わらず、かといって「嫌なヤツ」にもならず、自分も周りもハッピーになれる道、つまり「賢いギバー」への道なんじゃないかと。
あなたの明日からの「Give」の在り方を考える澪標として参考になれば幸いです。ではまた次回!
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