「やりたいことが多すぎて、お互いに足を引っ張り合ってる！」みたいな感覚がある人は少なくないのではないでしょうか。

私もまさにそれで、研究やらVCの仕事やら、読書、ジム、サイクリング、天体観測…と手を出すと、あっという間に時間が蒸発していくわけです。多くの人は「時間の使い方かなぁ」なんて反省しがちですが、実はこれは、「ゴールコンフリクト（目標間の葛藤）」 っていう名前で、心理学の世界ではガッツリ研究されてるテーマだったりします。

皆様ご経験のある通り、こいつがかなり厄介でして、ニューヨーク市立大学ブルックリン校のレビューによると、ゴールコンフリクトを抱えてる人ほど幸福感が低くて、不安やうつになりやすいっていう、かなり厳しいデータが出ちゃってたりします。

つまり、「頑張ってるはずなのに、なぜか前に進まないし、メンタルは削られる…」という感覚は、気のせいじゃなかったってことですな。ってことで、今回のニュースレターでは、このゴールコンフリクトの正体をひも解いたうえで、私たちのような「あれもこれも全部やりたい」人間のための具体的な対処法まで踏み込んでいければなと。

目次

1. そもそも「ゴールコンフリクト」とは何者か
2. なんで目標同士はケンカするのか？：2つのメカニズム
3. ゴールコンフリクトがもたらす「静かなるダメージ」
4. ゴールコンフリクトの特定ワーク
5. なぜ、あなたの目標は渋滞するのか？：5つの原因
6. 自分の「目標コンフリクト」を可視化する4つの手法
7. 1. 手法1：関係性マトリクス法 (SIM)
   2. 手法2：質問紙法 (IRQ)
   3. 手法3：日誌法 (ESM)
   4. 手法4：価値観・動機の整合性評価
7. ゴールコンフリクトの解消法
8. 1. 戦略1：一石二鳥でブッ倒す「統合戦略」
   2. 戦略2：賢く「やめる」を決める「優先順位戦略」
   3. 戦略3：土俵を仕切る「リソース調整戦略」
   4. 戦略4：社会的支援の活用
8. おわりに

そもそも「ゴールコンフリクト」とは何者か

まずは定義からいきましょう。ゴールコンフリクトってのは、個人が同時に複数の目標を追いかける時、一つの目標の追求が、別の目標の達成を邪魔しちゃう心理的な状態と定義されます。シンプルですね。

いくつか似た概念と区別しておくと、

• 内的コンフリクトとの違い：ゴールコンフリクトはあくまで自分の中で起きる葛藤の話。チーム内の意見対立とか、上司がムカつく、みたいな話とは別
• 「目標の両価性」との違い：「起業したいけど、失敗も怖い…」みたいに、一つの目標にプラスとマイナスの感情が同居する状態は「両価性（ambivalence）」と言う。ゴールコンフリクトは、あくまで「目標A vs 目標B」っていう、複数の目標間でのバトルを指す

なんで目標同士はケンカするのか？：2つのメカニズム

じゃあ、なんで私たちの大事な目標たちは、お互いに殴り合いを始めちゃうんでしょうか。これには大きく分けて２つのメカニズムがあると考えられております。

1. 資源ベースの葛藤 (Resource-Based Conflict)
   これは分かりやすくて、私たちの時間、金、エネルギーといった資源は有限なんで、どうしても奪い合いになるって話です。「副業で月10万稼ぐ！」って目標と、「週４でジムに通ってヘンリー・カヴィルみたいな体になる！」って目標は時間と体力を食い合いますよね。これが資源ベースの葛藤です。
2. 本質的な葛藤 (Inherent Conflict)
   こっちのほうが少し根が深くて、ある目標を達成するためのやり方そのものが、別の目標の達成を不可能にしちゃうケースです。たとえば、「組織の透明性を高めて、みんなが何でも言える文化を作る」って目標と、「競合を出し抜くための極秘プロジェクトを進める」って目標は、戦略レベルで両立が難しいわけです（もちろんやりようはいろいろあるでしょうが）

ここで一つ、面白い視点を提供してくれる研究をチェックしてみましょう。

こちらはドイツのマックス・プランク人間発達研究所の研究で、

• 目標間の「干渉（interference）」と「促進（facilitation）」は、コインの裏表じゃなくて、それぞれ独立した別のパラメータだ！

と説明しています。

これがどういうことかというと、ある二つの目標は、時間や体力を奪い合うっていう側面で「干渉」しつつも、片方で得たスキルがもう片方で役立つっていう側面で「促進」し合う可能性がある、ってこと。たとえばわかりやすい例でいえば、「英語をマスターする」と「海外のクライアントを取る」って目標。勉強時間は干渉するでしょうが、英語ができればクライアント獲得に役立つのは当然ですよね。

この視点はめちゃくちゃ大事。つまり、ゴールコンフリクトをなんとかするってのは、単にケンカを仲裁するだけじゃなく、いかにこの「促進」の関係を見つけ出して、育てていくかってゲームでもある、ということですな（詳しくは後述）。

ゴールコンフリクトがもたらす「静かなるダメージ」

対策の詳細については後述しますが、ゴールコンフリクトをナメてると、マジで静かにパフォーマンスを蝕まれるんで、その怖さをあらかじめ知っておきましょう。

テキサス大学が行った5週間の追跡研究では、目標間のコンフリクトを強く感じている人ほど、自分で立てた目標の達成率が有意に低かった、という結果が報告されております。

この研究で特にゾッとするのが、「達成に失敗した目標」が、必ずしも「コンフリクトしていた目標」と一致するわけじゃなかったって点。つまり、副業とジムのコンフリクトが原因で、全然関係ない「毎日読書する」って目標まで失敗しちゃう、みたいなことが起きるわけです。コンフリクトそのものが、私たちの全体的なやる気やコミットメントをじわじわと削り取っていくってことなんですよ。いやー、恐ろしい。

ゴールコンフリクトの特定ワーク

ゴールコンフリクトの概要を抑えたところで、続いては「じゃあ、自分の中では一体どの目標とどの目標が、どういう理由でケンカしてるんだ？」を特定してみましょう。原因がわからなきゃ、対策の立てようもないですからね。

なぜ、あなたの目標は渋滞するのか？：5つの原因

ワークに入る前に、もう一度「なぜ目標同士がコンフリクトするのか？」の原因を、少し深掘りしておきましょう（以下のワークでの解像度が高まりやすくなるので）。なんとなくで構わないので、自分の状況がどれに当てはまるか考えながら読んでみてください。

1. 有限リソースの奪い合い
   時間、エネルギー、お金といった有限な資源を、複数の目標が食い合うパターン。多くの人が最初に思い浮かべる原因のはず
2. やり方（戦略）の不一致
   ある目標を達成するための行動が、別の目標の成功を邪魔するパターン。たとえば、「仕事で成果を出すために、同僚にも率直に意見を言う」という戦略は、「チーム内の人間関係を円滑にしたい」という目標とはバッティングする可能性がある
3. 価値観・動機の不整合
   「心の底からやりたいこと（内発的動機）」と「〜すべきだ、〜した方が得だ（外発的動機・圧力）」という目標がぶつかるケース。たとえば、「安定した大企業で昇進する」という目標と、「いつかは自分の好きなことで独立したい」という目標。根っこにある価値観が違うため、葛藤を生みやすい
4. 社会的役割の衝突
   「良き親」「頼れるマネージャー」「地域の一員」のように、人間は通常複数の社会的役割を生きている。それぞれの役割が要求してくることがぶつかるのがこれ。いわゆる「ワーク・ファミリー・コンフリクト」が典型例
5. そもそも目標が多すぎる
   身も蓋もないが、目標の数が増えれば増えるほど、それらが干渉し合う確率は指数関数的に増えていく。特に、仕事、家庭、趣味、健康…と、多くの領域にまたがる目標を同時に追いかけると、コンフリクトのリスクは当然高まる

いくつか思い当たるフシがあったんじゃないでしょうか。私自身も耳が痛いですが、特に時間の奪い合いと「そもそも目標が多すぎ」ってのはがっつり当てはまりまくってるんだろうなーとか感じましたね。

では、以下ではあなた自身の中で衝突している目標を特定するための具体的な手法を見ていきましょう。いずれもアカデミックの領域で提案されているもので、結構パワフルなので（その分若干面倒だったりはしますが）、ぜひ気になったものを試してみてください。

自分の「目標コンフリクト」を可視化する4つの手法

手法1：関係性マトリクス法 (SIM)

これは、イリノイ大学の心理学者エモンズ先生が提唱した「Striving Instrumentality Matrix」という手法を簡略化したもので、目標同士がどう影響し合っているかを一枚の絵にするワークです。

やり方はシンプルで、

1. まず、自分が今追いかけている目標を5〜10個、リストアップする
2. 次に、それらの目標を縦と横に並べたマトリクス（表）を作る
3. 各マスに、横軸の目標が縦軸の目標達成にどう影響するかを「+2（すごく助けになる）」「+1（少し助けになる）」「0（影響なし）」「-1（少し邪魔になる）」「-2（すごく邪魔になる）」の5段階で評価して記入していく

【例：WIF（仕事と家庭の衝突）の場合】

こんな感じで表を埋めていくと、「ああ、やっぱり仕事の目標と家庭の目標が、お互いに足を引っ張り合ってるな…」というのが一目瞭然になるわけです。逆に、プラスの数字が入る組み合わせ（促進関係）も見えてくるケースも少なくないはずです。

手法2：質問紙法 (IRQ)

これもシンプルかつ強力な方法。前章で紹介したマックス・プランク研究所のRiedigerとFreundが開発した「Intergoal Relations Questionnaire」をベースにしたものです。

「関係性マトリクス」が目標全体のマップを描く感じだとしたら、こちらは特定の目標ペアの関係を深く掘り下げるイメージ。やり方は、自分の目標リストの中から気になるペアを抜き出して、以下の2つの問いに答えていきます。

• 干渉の問い 「目標Aを追求すると、目標Bの達成はどのくらい難しくなりますか？」（全然難しくならない～とても難しくなる）
• 促進の問い 「目標Aを追求すると、目標Bの達成はどのくらい簡単になりますか？」（全然簡単にならない～とても簡単になる）

これだけだとピンとこないと思うんで、具体例でやってみましょう。たとえば、あなたが今こんな目標を抱えているとします。

【目標リストの例】
A. 副業のWebデザインで月10万円稼ぐ
B. 週3回ジムに通って体脂肪率を5%落とす
C. 英語のオンラインコースを3ヶ月で修了する
D. パートナーと週に1回は外食デートに行く

ここから、例として、特に気になる「A. 副業」と「B. ジム」のペアについて考えてみます。

• 干渉の問い 「副業で月10万円稼ぐことを追求すると、週3回ジムに通うのはどのくらい難しくなりますか？」
• • → 答えは一意には定まらないでしょうが「まあまあ難しくなる」としましょう。夜にクライアントの急な修正依頼が入れば、予定していたジムの時間は吹き飛びます。これは典型的な資源（時間・エネルギー）のコンフリクトになるかもしれません（この問いに向き合うことで、この2つが思っている以上に天秤にかけられていることがハッキリする）
• 促進の問い 「副業で月10万円稼ぐことを追求すると、週3回ジムに通うのはどのくらい簡単になりますか？」
• • → でも、もしかしたら「副業で稼いだお金で、良いパーソナルトレーナーを雇えるから、むしろ効率は上がるかも？」なんていう、意外な促進関係が見つかるかもしれません

もう一つ、「A. 副業」と「C. 英語学習」のペアも見てみましょう。

• 干渉の問い 「副業のWebデザインを追求すると、英語コースを修了するのはどのくらい難しくなりますか？」
• • → 「難しくなる」。勉強時間が奪われるのは明らか。
• 促進の問い 「副業のWebデザインを追求すると、英語コースを修了するのはどのくらい簡単になりますか？」
• • → 「もし副業で海外のクライアントを獲得できたら、英語の必要性が爆上がりして、学習モチベーションも上がるかも？」とか、「最新のデザイン知識を得るために、海外のチュートリアル動画を英語のまま見るようにすれば、リスニングの勉強にもなるのでは？」みたいに、思わぬシナジー効果が眠っているかもしれない

こんな感じで、一見するとただ邪魔し合っているように見える目標同士でも、問いの角度を変えることで、「あれ、この2つ、実は協力関係にできるんじゃない？」という、コンフリクト解消の突破口が見つかることがあるんですな。これがこのワークの面白いところです。

手法3：日誌法 (ESM)

マトリクスや質問紙が「静的」な分析だとしたら、こちらは「動的」な分析。日々の生活の中で、リアルタイムに葛藤が起きている瞬間をキャッチするための手法です。

1. 1日数回、アラームをセットする（例：10時、14時、19時、22時）。
2. アラームが鳴った瞬間に、やっていたこと、考えていたこと、感じていた気分を数行のメモで記録する
3. その際、「今やっていたことは、自分のどの目標につながっているか？」「他の目標の邪魔になっている感覚はあるか？」という点も書き添えておく

これを1週間も続けると、「あ、いつもこの作業をしてる時に、別の目標のことが頭にチラついて集中できてないな」とか、「夕食後にこの目標に取り組もうとすると、決まって疲労感で断念してるな」といった、具体的なコンフリクトの発生パターンが見えてくるはずです。

手法4：価値観・動機の整合性評価

最後は、コンフリクトの最も根深い原因である「価値観」に切り込むワーク。ロチェスター大学のシェルドンらが提唱する「自己一致（self-concordance）」という概念がベースになっています。

やり方は、自分の目標リストの一つひとつについて、目標の重要性のスコアリングと「なぜ、自分はこの目標を達成したいのだろうか？」と問いかけ、その理由を正直に書き出してみること。おすすめは、外発的動機・内発的動機によって区別することです。

• 外的理由 「親に言われたから」「みんながやっているから」「やらないと恥ずかしいから」
• 内発的理由 「ただ楽しいから」「自分の価値観に合っているから」「それをやっている自分が好きだから」

もし、リストアップした目標の動機が「外的理由」に偏っていたり、あるいはマイナス評価（「-2」）をつけた目標の動機が「やらされ感」に満ちていたりしたら、要注意。それはあなたの価値観と衝突している、根深いコンフリクトのサインかもしれないんで。

以上、4つの手法を紹介しました。気になるものから取り組んでみていただければと思いますが、個人的には4つすべてに取り組んでみるのがおすすめです。順番としては、まず手法1「関係性マトリクス」で、自分の目標全体の相関図をざっくりと把握するのがよろしいかと。そこで特にマイナス評価が集中した目標ペアについて、手法2「質問紙法」で深掘りし、手法4「価値観の評価」で動機のレベルまで探ってみる。そして、それらの葛藤が日々の生活にどう影響しているかを手法3「日誌法」で定点観測する、という流れが一番しっくりくるんじゃないでしょうか。

ゴールコンフリクトの解消法

さて、前章のワークで、あなたの中でバチバチにやり合ってる目標たちの顔ぶれと、その原因がだいたい見えてきたんじゃないでしょうか。

原因がわかれば、あとは対策あるのみ。ってことで、この章では、特定したゴールコンフリクトを解消するための、具体的な4つの戦略をまとめていきます。イメージしやすそうな例を出しながら進めていくんで、自分の状況に置き換えながら読んでみてください。

戦略1：一石二鳥でブッ倒す「統合戦略」

まず紹介したいのが、個人的に一番エレガントだなーと思ってる＆一番よく使っている「統合戦略」。心理学者のアリー・クルグランスキーらが「多目的的（multifinal）」と呼んだりもしているアプローチでして、要するに「一つの行動で、複数の目標を同時に達成しちゃおうぜ！」っていう、クレバーなやり方です。

そもそもコンフリクトの原因が「複数の目標を同時にやろうとすること」にあるなら、答えはシンプル。一発の行動で全部の目標がちょっとでも前に進めば、そりゃコンフリクトは減りますわな。

【ケーススタディ】

• コンフリクト 「健康のために運動したい」VS「友人と会う時間も作りたい」
• 統合戦略 「友人を誘って一緒にジムに行く、あるいはフットサルをする」
• • → これだけで、「健康」と「社会的なつながり」という2つの目標が同時に達成に近づく。他にも「通勤で歩きながら英語のリスニング学習をする（自己投資＋通勤）」とか、「家族と一緒に料理をする（家庭＋スキルアップ）」みたいなのが考えられる

この戦略は想像力次第でかなり応用できますが、特に性質がまったく違う目標、たとえば「金銭的な成功」と「精神的な平穏」みたいなやつを統合するのは思っている以上に難しかったりします。下手に統合しようとすると、どっちの質も中途半端になるリスクもありますからね。「家族との運動」は楽しいけど、ガチのトレーニングにはならない、みたいなことですな。

なので、これはあくまで「一石二鳥になる組み合わせ、ないかな？」って常にアンテナを張っておく、くらいのスタンスで活用するのがよろしいのではないかと。

戦略2：賢く「やめる」を決める「優先順位戦略」

統合が難しいなら、次は「そもそも全部を同時に満たそうとしない」という、もっと現実的な選択肢を考える必要があるでしょう。これが「優先順位戦略」。具体的には、2つのやり方があります。

1. 目標の棚上げ (Goal Shelving) 「今はやらないけど、将来またやるかも」と、目標を一時的に中断する
2. 目標の断念 (Goal Disengagement) 「この目標はもう追わない！」と、完全に手放す

「目標を諦めるなんて…」と思うかもですが、心理学者のチャールズ・カーヴァー先生の研究によれば、達成不可能な目標に固執し続けるより、スパッと見切りをつけるほうが、よっぽど健全な自己調整だぞ！ってことが示されていたりしますからね。一兎をも得ずにならないようにって話しですな。

【ケーススタディ】

• コンフリクト 「管理職に昇進するため、残業してでも成果を出したい」VS「子どもの寝る前には帰宅して、絵本を読んであげたい」
• 棚上げ戦略 「昇進がかかってるこの半年だけは仕事にコミットさせてもらう。その代わり、昇進が決まったら必ず定時で帰る生活に切り替える」と期間を区切って優先順位を決める
• 断念戦略 「自分にとって本当に大事なのは家族との時間だ。今の会社での昇進は諦めて、ワークライフバランスを保てる範囲で今の職務を全うしよう」と決断する

優先順位戦略については、チューリッヒ大学の2022年の研究が面白くて、目標の「棚上げ」と「断念」を比較したところ、どっちも葛藤を解消する効果はあったんですが、その後の後悔の念は「棚上げ」グループのほうが有意に低かったんだそうな。つまり、「完全に諦める」より「いつかまたやれるかも」と思うほうが、心は楽だし後悔しないぞ！ってことですな。

なので、まずは「棚上げ」から試すのが心理的コストは低いと言えるでしょう。ただ、棚上げした目標が永遠に再開されない「永遠の棚上げ」になるリスクもあるんで、定期的に「本当にこれ、またやる気あるんだっけ？」と見直す必要はあるんでしょうが。

戦略3：土俵を仕切る「リソース調整戦略」

ゴールコンフリクトの多くが、結局は時間とエネルギーの奪い合いから来ています。であるならば、その配分を計画的に管理し、役割の境界線をハッキリさせることで、物理的な衝突を減らしてやろう、というのがこの戦略です。

【ケーススタディ】

• コンフリクト 「フリーランスとしてクライアントワークをこなしたい」VS「オンラインコースを受講してスキルアップもしたい」
• 時間管理戦略 タイムブロッキングを活用し、「毎週火曜と木曜の夜7時〜9時は、何があってもオンラインコースの時間」とカレンダーに予約してしまう
• 境界設定戦略 「クライアントからの連絡は、平日の夕方6時までしか返信しない」というルールを自分に課し、それをクライアントにも伝えておく

この手の戦略が有効なのは、ミネソタ大学の大規模なフィールド実験でも示されています。この研究では、企業の従業員に勤務スケジュールの裁量権を与え、上司からのサポートを厚くする、という介入を実施。その結果、介入されたグループは、生産性を落とすことなく、ワーク・ファミリー・コンフリクトが有意に低下したんだそう。つまり、「やり方」を変えるだけで、コンフリクトは減らせるってわけですな。

ただし、この戦略はガチガチにやりすぎると、予期せぬ事態（子どもの急な発熱とか）に対応できなくなって、逆にストレスが溜まることもある点は注意。計画にはある程度のバッファを持たせたり、周囲の人々（家族や同僚）に自分のルールを共有して、協力を仰ぐことが成功のカギになります。

戦略4：社会的支援の活用

最後の戦略は、「自分一人で抱え込むな！」という話。ゴールコンフリクトは個人の問題と捉えられがちですが、周囲のサポートをうまく引き出すことで、劇的に楽になることが実際の研究でも示されていたりするんですよね。例えば、Journal of Managementに掲載されたメタアナリシスでは、上司からの具体的な支援（業務調整など）と、組織全体の支援的な風土の両方が、ワーク・ファミリー・コンフリクトを有意に減少させることが示されています。

重要なのは、「どうせ無理だろう」と決めつけずに、まずは自分の状況を正直に周りに話してみること。もちろん、伝え方や頼み方の工夫は必要でしょうが、「助けてほしい」というシグナルを出さない限り、誰も手を差し伸べることはできないですからね。

【ケーススタディ】

• コンフリクト 「今のプロジェクトを成功させたい」VS「資格試験の勉強時間も確保したい」
• 職場での支援活用 上司に「資格取得が今後の業務にどうプラスになるか」を説明し、一時的に業務量を調整してもらえないか相談する。あるいは、同僚に一部のタスクの協力を仰ぐ
• 家庭での支援活用 パートナーに「試験前の1ヶ月だけ、週末の家事の分担を少し減らしてほしい」とお願いする

おわりに

以上、今回は「ゴールコンフリクト」をテーマに、その正体から、自分の中の葛藤を特定する方法、そして具体的な解消戦略まで、掘り下げてきましたが、いかがでしたでしょうか。

「やりたいことが多すぎる！」というのは、知的好奇心が旺盛で、エネルギッシュな証拠。本来はポジティブなはずなのに、それが原因で前に進めなくなったり、メンタルをすり減らしたりするのは、あまりにもったいない話です。

今回紹介した研究やワークは、そんな悩みを抱える私たちが「気合と根性」という不毛な戦いから抜け出し、もっと賢く、戦略的に自分の目標と付き合っていくためのヒントになるはずです。

目標同士のケンカを仲裁し、時には協力させ、どうしてもダメなら一時的に距離を置いてもらう（まるで人間関係のマネジメントみたいですな）。あなたという経営者が、社内（あなたのなか）にいる「目標」という名の才能あふれる社員たちを、どうやってマネジメントしていくか。この記事が、そのための実践的なガイドブックになれば、これ以上嬉しいことはありません。

やりたいことが多いのは才能であって、罰じゃない。だからこそ、目標とは力ずくで戦うんじゃなくて、賢く手なずけてやりましょうー。

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参考になれば幸いです。ではまたー！

▼ 参考

🤫目標達成の科学：今年こそ夢を叶えるために知っておきたい12のコツ
おくさん 2025-01-02

• どうせ達成できないなら幸福になる目標を設定してみるのはいかが？（note)
• 「皆の来年の抱負」「難しい目標の注意点」「ウェルビーイングを高める目標」【科学的に正しい新年の抱負の立て方#2】（note)
• 科学的に正しい【新年の抱負】の立て方（note)