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📖 【やる気が出ない自分】の取扱説明書|「やる気出しのやる気知らず」にならない為の科学的アプローチ大全
なぜかダルい、続かない、楽しめない…。その「なんとなくの不調」を乗り越え、無理なく「やる気」を引き出す技術。
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おくさん
2025/06/11
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ジメジメとして陰鬱な梅雨の季節。毎年この時期になると、「どうにもやる気が出ない」「気分が落ち込む」なんて方も多いんじゃないでしょうか。

こういう「なんとなくの不調」って、かなり厄介ですよね。明確な病気じゃないからこそ、周りからは「気の持ちようだ」なんて言われたり、自分でも「気合が足りないだけかも…」と精神論で片付けてしまいがち。でも、果たして本当にそうでしょうか?

実は、この「正体不明のだるさ」の集合体に対しても、科学的な知見を活かして具体的な対策を打つことが可能。そこで今回のニュースレターでは、このしんどい季節を乗り切るために、私が実際に普段から試し、その効果を実感しているいくつかの科学的アプローチを、最新のエビデンスをベースに紹介してみます。

ちなみに、本エントリのインスパイア元は、生成AI界隈で有名な梶谷さんによるこちらの記事。 今日は何のネタでニュースレター書くべぇ、とか思いつつネットをさまよっていたらこの記事があったので、こうして筆を執っている次第です。タイムリーなネタを思い起こさせてくれるのは、本当にありがたい限りです。



本ニュースレターでは、徹底的に調べあげたエビデンスをベースに「より信頼でき、真に価値ある情報」をレポートし、ゴミがあふれるネット上においてキラリと光る質の高いコンテンツをお届けすることを目指しています。あなたの人生を彩るヒントとしてご活用いただければ幸いです。


賟読中


目次

  1. 人間の3つの根本的な心理欲求からのアプローチ
  2. マインドフルネス
  3. 「やる気」を殺さない目標設定
  4. とりあえず筋トレ
  5. 睡眠をハックする「CBT-I」入門
  6. ジャーナリング
  7. 感謝日記
  8. 他人への親切
  9. 「つまらない」を「面白い」に変えるゲーミフィケーション入門
  10. おわりに

人間の3つの根本的な心理欲求からのアプローチ

どんな対策を打つにしても、まずはSDTをベースにしたアプローチは大事にするようにしています。

カーティン大学のメタ分析では、世界中で行われた73もの実験研究を統合して、総勢3万人以上のデータを分析しています。分析のテーマは「自己決定理論(SDT)に基づいた介入をしたら、人の行動や健康は変わるの?」ってポイント。

「自己決定理論」ってのは、人間のやる気の源泉を3つの基本的な心理的欲求に分解する考え方で、

  • 自律性: ă€ŒčŞ°ă‹ăŤă‚„ă‚‰ă•ă‚ŒăŚă‚‹ă€ă‚“ă˜ă‚ƒăŞăă€ă€Œč‡Şĺˆ†ă§ćąşă‚ăŚă‚„ăŁăŚă‚‹ďźă€ăŁăŚć„ŸčŚšă€‚
  • 有能感: ă€Œč‡Şĺˆ†ăŞă‚‰ă§ăă‚‹ďźă€ă€Œă†ăžăă‚„ă‚ŒăŚă‚‹ďźă€ăŁăŚć„Ÿčښ
  • 関連性: ă€ŒčŞ°ă‹ă¨çš‹ăŒăŁăŚă‚‹ă€ă€Œĺ—ă‘ĺ…Ľă‚Œă‚‰ă‚ŒăŚă‚‹ă€ăŁăŚć„ŸčŚš

この3つが満たされると、人は「やらされている感」から、心から「やりたい!」と思える“自律的動機づけ”へとシフトしていくわけですな。

で、このメタ分析の結果、何がわかったかというと、

  • SDTに基づいた介入(つまり、上記3つの欲求をサポートするような活動)を行うと、自律的動機づけが高まった(効果量 g = 0.30)
  • その結果、実際に健康的な行動(運動をしたり、禁煙したり)が増え、その効果は介入が終わった後も続いていた(介入直後 g = 0.45、追跡期間 g = 0.28) 
  • ついでに、心理的な健康(生活の質など)も改善していた(g = 0.29)

要するに、精神論で自分を追い込むんじゃなくて、自分の「自律性」「有能感」「関連性」が満たされるような環境や仕掛けをデザインしてやれば、人は自然と良い方向に行動し始め、しかもそれが長続きするってことっすね。

この知見は、私も普段からよく活用しておりまして、例えば連休明けで仕事のやる気が出ない時は、まず「自律性」をハックします。「やらなきゃいけないタスクリスト」を、どういう順番で、どういうやり方で“攻略”するか、全部自分でゲームのルールを決めます。これだけで「やらされ感」が「自分で選んだ感」に変わる。

次に「有能感」。いきなりデカい目標は立てません。「今日はこの資料の構成案だけ作る」みたいに、絶対にクリアできるレベルまでハードルを下げる。研究でも「成功できると信じさせる」アプローチが有効だったと示唆されてますからね。小さな成功体験を積み重ねて「お、俺やれてんじゃん」って感覚を自分で作ってやるのがミソ。

最後に「関連性」。自身の仕事が誰の役に立っているのか、この仕事がなければだれのどんな「負」が残り続けるのか、をじっくり時間をとって徹底的に想像する。これにより、自分が社会とつながっている感覚を取り戻す。

この3つを意識してみるだけでも、かなりモチベーションが変わってきますので、ぜひお試しあれー。

マインドフルネス

上記のSDTの効果をさらにブーストしてくれると感じているのが、マインドフルネス。マインドフルになる時間を設けることによって、自分の内なる声に一層耳を傾けられるようになり、「やらされている感」から脱却、自律性等がより満たされるように感じるので、梅雨や5月病明けのモチベーションがわかない時期にはマインドフルネスの時間を長めに確保するようにしています。

Noteのほうでもたびたびマインドフルネスについては取り上げていますが、改めて「そもそもマインドフルネスとは」を確認しておくと、超シンプルに言えば「意図的に、今この瞬間に、良い悪いのジャッジをせず、ただただ注意を払うこと」。過去の後悔や未来の不安から意識を切り離し、「今、ここ」の体験に集中する心の状態って感じですね。



で、具体的に私が何をしているのか。別に毎日座禅を組む必要はなくて、日常のあらゆる場面で実践してます(モチベーションがわかないときには瞑想をする気力さえわかないので手軽にできる方法を手札として備えてます)。例えば、こんな方法。

  • マインドフルネス瞑想: ć•°ĺˆ†é–“ă€ăŸă č‡Şĺˆ†ăŽĺ‘źĺ¸ăŤć„č­˜ă‚’ĺ‘ă‘ă€çŠşć°—ăŒéźťă‚’ĺ‡şĺ…Ľă‚Šă™ă‚‹ć„ŸčŚšă‚’čŚłĺŻŸă™ă‚‹
  • ボディスキャン: ć¨ŞăŤăŞăŁăŸçŠść…‹ă§ă€čśłĺ…ˆă‹ă‚‰é ­ăŽăŚăŁăşă‚“ăžă§ă€ä˝“ăŽĺ„éƒ¨ä˝ăŤé †ç•ŞăŤć„č­˜ă‚’ĺ‘ă‘ă€ăă“ăŤă‚ă‚‹ć„ŸčŚšďźˆć¸Šă‹ă„ă€ĺ†ˇăŸă„ă€ăƒ”ăƒŞăƒ”ăƒŞă™ă‚‹ăŞăŠďź‰ă‚’ăŸă ć„Ÿă˜ă‚‹ 
  • マインドフル・イーティング: ăƒŠăƒłăƒăŽćœ€ĺˆăŽă˛ă¨ĺŁă ă‘ă§ă‚‚ă€éŁŸăšç‰ŠăŽčŚ‹ăŸç›Žă€éŚ™ă‚Šă€éŁŸć„Ÿă€ăă—ăŚĺ‘łă‚’ă˜ăŁăă‚Šă¨ă€ĺˆă‚ăŚéŁŸăšă‚‹ă‹ăŽă‚ˆă†ăŤĺ‘łă‚ăŁăŚăżă‚‹



  • ラビングカインドネス瞑想(慈悲の瞑想): ă€Œç§ăŒĺš¸ă›ă§ă‚ă‚Šăžă™ă‚ˆă†ăŤă€ă€Œç§ăŽĺ‘¨ă‚ŠăŽäşşăŒĺš¸ă›ă§ă‚ă‚Šăžă™ă‚ˆă†ăŤă€ă¨ă€č‡Şĺˆ†ă‚„äť–č€…ă¸ăŽć…ˆă—ăżăŽč¨€č‘‰ă‚’ĺżƒăŽä¸­ă§çš°ă‚Ščż”ă™ 
  • 五感マインドフル:「触覚」→「味覚」→「嗅覚」→「聴覚」→「視覚」の順に対象を一つずつ見つけてそれぞれを1分ずつ徹底的に味わってみる
  • 隙間マインドフルネス瞑想:友人のトイレ待ちのようなほんの1,2分の待ち時間の際、スマホ等を触るのではなく、目を薄めにして呼吸に全力で注意を向けてみる。または周囲の音に全集中する

こんな風に、やり方は無数にありますが、大事なのは、完璧にやることじゃなく、「あ、今、意識が逸れたな」ってことに気づいて、またそっと「今」に戻してあげる練習をすること。この点は意識しておくのがよいかと思います。

今でこそ多くの人に受け入れられているマインドフルネスですが、科学的な根拠もいくつかピックしておきましょう。

まず紹介したいのが、超一流学術誌『Nature Mental Health』に掲載された、ケンブリッジ大学の研究チームによるメタ分析。この研究がスゴいのは、研究手法が「個別参加者データ(IPD)メタ分析」だという点。これは、世界中の質の高い13のRCTから2,371人分の“生”のデータを集めて再解析するという、メタ分析の王様とも言えるかなり信頼性の高い手法ですね。結果として何が分かったかといえば、マインドフルネス・プログラムは、何もしないグループと比べて、心理的苦痛(ストレス、不安、抑うつ感など)を有意に減らす効果が確認されたそう。しかも、この効果は年齢、性別、学歴などに左右されず、誰にでも普遍的に見られる可能性が高いというんですな。

要するに、マインドフルネスは、特定の誰かじゃなく、私たち一般人が抱える漠然とした不調を改善する、再現性の高いスキルだ、と。

さらに、ウェイファン医科大学などによるメタ分析では、マインドフルネスとモチベーションの関係が調べられています。すると、マインドフルネスは、給料や評価といった「外発的動機づけ」にはあまり影響しない一方で、自分の内側から湧き出る「内発的動機づけ」と明確に相関していることがわかったんだそうな。

これはつまり、マインドフルネスが、自分の「本当にやりたいこと」や「純粋な興味」に気づかせ、そこに向かうエネルギーを高めてくれる可能性を示唆しているわけですね。

私の場合は、上述の通り、いろいろできるように手札は装備していますが、とりあえず、やる気がわかない時期には朝のコーヒーを飲む最初のひと口だけ、五感をフルに使ってマインドフルに味わう、くらいは頑張ってやるように「ルール」を決めています。いわゆる「実行意図」というやつで、何があっても自分が自動的に行う行動とセットにすることで、「やる」確率が圧倒的に高まるので、「一日の中のどこかでやる」という漠然としたものよりも取り組むタイミングを「ルール」として定めてしまうのがおすすめです。


「やる気」を殺さない目標設定

多くの人が、この時期のだるさを吹き飛ばそうと「よし、新しいことを始めるぞ!」と高い目標を掲げがちですが、ここに大きな落とし穴があります。



ビジネス書などでは「高く、具体的に(SMARTな)目標を立てろ!」なんてよく言われますが、これが時として、私たちのやる気を根こそぎ奪っていく「諸刃の剣」になりかねないんですよね。この「目標設定のダークサイド」を暴き出してくれたのが、ダルムシュタット工科大学のHöpfner先生による研究です。

この研究では、実験参加者に目標を達成できたか、あるいは失敗したかというフィードバックを与え、その後の心理状態を観察しました。その結果が驚きで、高く具体的な目標に失敗した人たちは、目標を達成した人たちに比べて、気分が落ち込み、自己肯定感が低下し、次の課題へのモチベーションまで著しく下がってしまったんだそう。それどころか、失敗を経験した参加者は、次に挑戦する際、より簡単な課題を選ぶ傾向、つまり挑戦そのものを避けるようになってしまったんだそうな。

要するに、高すぎる目標は、失敗した時の精神的ダメージがデカすぎて、私たちの心をポッキリ折ってしまうリスクをはらんでいる、ということ。特に、ただでさえ気分が落ち込みがちなこの季節に、自分をさらに追い込むような目標設定は、まさに悪手と言えるでしょう。

では、どうすればいいのか? ここで登場するのが「プランニング(計画)」の考え方です。私は、ただ目標を立てて満足するのではなく、「どうやって実行するか」を具体的に設計することが、成功の鍵を握ると思っています。

実際、マレーシア科学大学のPeng先生たちが行ったメタ分析では、41のRCTを統合し、計画介入の効果を検証しています。この研究で特に注目されたのが、以下の二つの計画手法です。

  • 行動計画(Action Planning): ă€Œă„ă¤ă€ăŠă“ă§ă€ăŠă†ă‚„ăŁăŚă€čĄŒĺ‹•ă™ă‚‹ă‹ă‚’ă€ă‚ă‚‰ă‹ă˜ă‚ĺ…ˇä˝“çš„ăŤćąşă‚ăŚăŠăă€‚äž‹ăˆă°ă€Œé‹ĺ‹•ă™ă‚‹ă€ă§ăŻăŞăă€ă€ŒçŤć›œăŽ19時に、4番のバスに乗ってジムへ行き、30分ランニングマシンを使う」といった具合
  • 対処計画(Coping Planning): ç›Žć¨™é”ćˆă‚’é‚Şé­”ă—ăă†ăŞéšœĺŽłă‚’äşˆć¸Źă—ă€ă€Œă‚‚ă—ă€‡ă€‡ăŒčľˇăăŸă‚‰ă€ăăŽă¨ăăŻâ–łâ–łă™ă‚‹ă€ă¨ă„ă†â€œif-thenルール”を作っておく。例えば、「もし仕事で残業になったら、そのときは一駅手前で降りて歩いて帰る」みたいな感じ

分析の結果、こうした具体的な計画を立てることが、実際に行動量を増やす上で非常に効果的であることが示されています。計画を立てることで、頭の中の漠然とした「やりたい」という気持ちと、実際の「行動」との間の深い溝を埋めることができるわけですね。

これらの知見から、私がモチベーションダダ下がりの時期に実践しているのは「失敗しようがないくらいアホみたいに低い目標」を「超具体的に計画する」という方法。

具体的にはまず、Höpfner先生たちの教えに従い、絶対に自己肯定感を下げないように、「1日にスクワットを1回だけやる」とか「本を1行だけ読む」といった、鼻で笑うレベルの目標を立てます。

次に、Peng先生たちの研究を応用し、それを具体的な行動計画に落とし込みます。「夜、歯を磨いた直後に、歯ブラシをホルダーに戻した後、洗面所でそのままスクワットを1回やる」と。これをスマホのリマインダーにセットし、完了したらチェックを入れられるようにします。

ちなみに、Pengらの研究では、行動計画(AP)単独の方が、対処計画(CP)まで組み合わせるより効果が高かったという面白い結果も出ています。なので、私の場合は対処計画を「完璧主義を捨てるためのお守り」として使ってます。「もしスクワットを忘れて寝てしまったら、その時は『人間だもの』と呟いて、さっさと寝る」と決めておく。これで、失敗が本当の失敗にならず、次の日も気楽に続けられるわけです(少なくとも私はそう感じています)。

やる気が出ない時こそ、大きな目標で自分を鼓舞するのではなく、小さな達成可能な目標を賢く計画し、行動へのハードルを極限まで下げる。これが、最も賢明で持続可能な一歩の踏み出し方なんじゃないかなーと思っております。


とりあえず筋トレ

「気分が落ち込んでる時に運動なんてできるわけないだろ!」という声には心の底から同意。しかし、残念ながら(?)、運動にはその重い腰を上げるだけの価値があることを示す、残酷なまでに強力なエビデンスがあるんですよね。

まず紹介したいのが、トップジャーナルの一つ『The BMJ』に掲載された、クイーンズランド大学のネットワークメタ分析。これは、218ものRCTを統合し、14,170人ものデータを解析していて、「運動とメンタル」研究の決定版なんて言われたりしている論文です。この研究の凄いところは、様々な運動や治療法(心理療法、抗うつ薬など)を網羅的に比較し、「結局、何が一番効くの?」という問いに答えを出そうとした点にあります。

で、その結果的に何が分かったかといえば、

  • ウォーキングやジョギング、ヨガ、筋力トレーニングといった多様な運動が、うつ症状に対して中程度の改善効果を示した。
  • 特に、ウォーキングやジョギング (効果量 g = -0.62)、ヨガ (効果量 g = -0.55)、筋力トレーニング (効果量 g = -0.49) は、何もしない(アクティブコントロール)よりもうつを大幅に改善した
  • これらの運動の効果は、心理療法(認知行動療法)や抗うつ薬(SSRI)に匹敵する可能性まで示唆された
  • また、効果は運動の強度に比例する傾向があり、より強度の高い運動の方がより大きな効果をもたらした

要するに、気分が沈んだときは、どんな種類の運動でもいいからとにかく体を動かすことが、薬やカウンセリングにも劣らない強力な処方箋になりうる、ってことっすね。これはもはや、いくら気分が落ち込んでいるとはいえ、やらない理由を探す方が難しいレベルの話じゃないでしょうか。

さらに、この効果は単に気分を晴らすだけにとどまりません。うつや季節性の不調は、仕事のパフォーマンスにも直結しますよね。しかし2020年のコクランレビューによると、

  • (監視付きの)筋力トレーニングを行うことが、リラクゼーションを行うよりも休職日数を大幅に減らす上で特に効果的だった(効果量 SMD = -1.11) 
  • ただし同レビュー内の別の研究では、有酸素運動は休職日数に対して明確な効果を示さなかったとも報告されている

もちろん、これは研究デザインの違いなども影響しますが、「仕事のパフォーマンス回復」という観点では、「筋トレ」が隠れたキープレイヤーになる可能性を秘めているわけです。

これらの知見を踏まえて、私が実践しているのは、超低ハードルな有酸素運動と、自宅でできる「なんちゃって筋トレ」の組み合わせ。

気分が乗らない日は、上述の歯磨き後のスクワットのほか、お気に入りに登録しているYouTubeの筋トレ動画を流しながら腕立て伏せを数回だけやる。動画のインストラクターが「頑張って!」と声をかけてくれるのが、いい意味での「監視」になってポジティブに働いているような気がしています。

ちなみに、運動のモチベーションがわかないときには、「運動が終わった後の自分の気分はどうだと思うか?」と自問するだけでも運動のモチベーションが向上する、という報告もあったりするので、こちらも日常的に使ってます。



睡眠をハックする「CBT-I」入門

「寝不足だと頭がボーッとする」なんてのは当たり前の話。ですが、睡眠不足の本当の恐ろしさは、もっと根深いところにあります。デューク大学のレビュー論文によると、睡眠不足は私たちの脳に以下のような影響を与えることがまとめられています。

  • 「努力のコスト」が爆上がりする: çĄçœ ä¸čśłăŽçŠść…‹ă ă¨ă€č„łăŻĺŒă˜ă‚żă‚šă‚Żă‚’ă“ăŞă™ăŤă‚‚ă€Œă‚ˆă‚Šĺ¤šăăŽĺŠŞĺŠ›ăŒĺż…čŚă ă€ă¨ĺˆ¤ć–­ă—ăŚă—ăžă†ă€‚çľćžœă€ă‚ă‚‰ă‚†ă‚‹ç‰Šäş‹ăŒć™ŽćŽľă‚ˆă‚Šé˘ĺ€’ăŤć„Ÿă˜ă‚‹
  • 「やる気」そのものが削がれる: çĄçœ ä¸čśłăŻă€čŞçŸĽčƒ˝ĺŠ›ă‚’ä˝Žä¸‹ă•ă›ă‚‹ă ă‘ă§ăŞăă€ă‚żă‚šă‚ŻăŤĺ–ă‚Šçľ„ă‚‚ă†ă¨ă™ă‚‹ă€Œĺ†…çš„ăŞăƒ˘ăƒăƒ™ăƒźă‚ˇăƒ§ăƒłă€ă‚’ă‚‚ç›´ćŽĽçš„ăŤĺ‰Šă„ă§ă—ăžă†
  • 楽な方へ流される: ĺŠŞĺŠ›ăŽă‚łă‚šăƒˆăŒä¸ŠăŒăŁăŸçľćžœă€ç§ăŸăĄăŻç„Ąć„č­˜ăŽă†ăĄăŤă€ă‚ˆă‚ŠĺŠŞĺŠ›ă‚’ĺż…čŚă¨ă—ăŞă„ă€ă‚ˆă‚Šç°Ąĺ˜ăŞé¸ćŠžč‚˘ă¸ă¨ćľă•ă‚ŒăŚă„ăĺ‚žĺ‘ăŒĺźˇăžă‚‹

要するに、寝不足というのは、私たちの能力(ハードウェア)のスペックを下げるだけでなく、「やる気」というOS自体をダウングレードさせてしまう最悪のコンディションなわけです。これでは、日中のパフォーマンスが上がるはずがないでしょう。

では、どうすれば「質の高い睡眠」を手に入れられるのか? 「気合で寝る」なんてのは不可能なので、ここでも私は科学的なアプローチを参考にしています。その中でも最も強力だと思っている手法が「不眠症のための認知行動療法(CBT-I)」です。

例えば、東京大学の古川先生たちが行った最新のメタ分析では、19ものRCTを統合し、CBT-Iの効果を検証しています。その結果、うつと不眠を抱える人たちに対して、CBT-Iは不眠症状だけでなく、うつ症状そのものも明確に改善する効果が確認されたんですな(うつ改善のオッズ比 2.28)

CBT-Iについては、専門家の指導のもとで行うのがベストですが、そのエッセンスは個人でも取り入れることが可能。私が特に意識しているのは、以下の2つ。

  • 刺激統制法: ă“ă‚ŒăŻă€Œăƒ™ăƒƒăƒ‰ďźĺŻă‚‹ĺ ´ć‰€ă€ă¨ă„ă†ă€Œĺ…Źĺźă€ă‚’č„łăŤĺžšĺş•çš„ăŤĺŠăčžźă‚€ăƒˆăƒŹăƒźăƒ‹ăƒłă‚°ă€‚ăƒ™ăƒƒăƒ‰ăŽä¸Šă§ă‚šăƒžăƒ›ă‚’ă„ă˜ăŁăŸă‚Šă€äť•äş‹ă‚’ă—ăŸă‚Šă€č€ƒăˆäş‹ă‚’ă—ăŸă‚Šă™ă‚‹ăŽăŻçľśĺŻžNG。眠くなってから初めてベッドに入る。もし20分経っても眠れなかったら、一度ベッドから出て、リラックスできることをして、また眠くなったら戻る。これを繰り返す。
  • 睡眠制限法: ă‚ăˆăŚăƒ™ăƒƒăƒ‰ăŤă„ă‚‹ć™‚é–“ă‚’çŸ­ăă—ăŚă€çĄçœ ăŽĺŻ†ĺşŚă‚’éŤ˜ă‚ă‚‹ć–šćł•ă€‚äž‹ăˆă°ă€ć™ŽćŽľ8時間ベッドにいて実質6時間しか眠れていないなら、ベッドにいる時間を意図的に6時間半などに制限する。最初は辛いが、これにより睡眠圧が高まり、結果的に深く眠れるようになる。

私の場合、普段から「ベッドにスマホを持ち込まない」という刺激統制法の基本ルールは徹底していますね。そのうえで、睡眠に支障が出そうな兆候を感じたら睡眠制限法も取り入れる感じ。あとは、過去にNoteのほうでも紹介していましたが、45分程度の長めの昼寝をとる。睡眠慣性の心配はあるものの、気分や抑うつ、活力の回復にはかなり有効なんで。

そのほか、睡眠に関するハックの知見は過去にいろいろ紹介してますので、ご興味あればぜひご覧くださいませー。




ジャーナリング

「ジャーナリング」や「日記」と聞くと、単なる出来事の記録をイメージするかもしれません。しかし、ここで紹介するのは、心理学者のジェームズ・ペネベーカー博士が開発した「エクスプレッシブ・ライティング(筆記開示)」という、心理療法の一種。

この手法の面白いところは、多くの人が期待するような「書いたら即スッキリ!」という即効性がない点。むしろ、その真価はもっと後になってから現れることが、最新の研究で明らかになっているんですよね。

例えば、シラキュース大学のメタ分析では、31のRCT、総勢4,000人以上のデータを統合して、エクスプレッシブ・ライティングの効果を徹底的に検証しています。その結果、

  • エクスプレッシブ・ライティングは、抑うつ、不安、ストレスの症状を軽減する上で、小さいながらも統計的に有意な効果がある (効果量 Hedges' g = -0.12)
  • そして、この効果は書いた直後ではなく、数週間から数ヶ月後の追跡調査の時点で現れる「遅延効果」だった
  • さらに、一度現れた効果は、その後も続く「持続性」のあるものだった

要するに、エクスプレッシブ・ライティングは、即効性の鎮痛剤ではなく、じっくりと体質を改善していく漢方薬のようなもの。書いた直後に気分が晴れなくても、「効果なしか…」とがっかりする必要はまったくない、ということですね。

では、どうすればその効果を最大限に引き出せるのか? 上記の論文では、効果を高める「書き方」のコツも示唆されています。それらを踏まえて、私がアレンジ・実践している「エクスプレッシブ・ライティングの5つの作法」が以下です。

  1. タイマーを15分にセットする。 ă“ă‚ŒăŻăƒšăƒăƒ™ăƒźă‚ŤăƒźĺšĺŁŤăŽă‚ŞăƒŞă‚¸ăƒŠăƒŤăŤĺ€ŁăŁăŸăƒŤăƒźăƒŤă€‚ć™‚é–“ă‚’ĺŒşĺˆ‡ă‚‹ă“ă¨ă§ă€é›†ä¸­ă—ăŚč‡Şĺˆ†ăŽĺ†…é˘ă¨ĺ‘ăĺˆăˆă‚‹
  2. とにかく手を止めずに書き続ける。 ć–‡ćł•ă‚„čŞ¤ĺ­—č„ąĺ­—ă€čĄ¨çžăŽä¸Šć‰‹ă„ä¸‹ć‰‹ăŻä¸€ĺˆ‡ć°—ăŤă—ăŞă„ă€‚é ­ăŤćľŽă‹ă‚“ă ć€č€ƒă‚„ć„Ÿćƒ…ă‚’ă€ăƒ•ă‚ŁăƒŤă‚żăƒźă‚’ă‹ă‘ăšăŤăăŽăžăžç´™ďźˆă‚­ăƒźăƒœăƒźăƒ‰ăžăŸăŻéŸłĺŁ°ăŽć™‚ă‚‚ă‚ă‚‹ďź‰ăŤĺăĺ‡şă™ć„ŸčŚšă€‚
  3. 「事実→感情→意味づけ」の三段階を意識する。 ăŸă ăƒ˘ăƒ¤ăƒ˘ăƒ¤ă‚’ć›¸ăă ă‘ă§ăŞăă€â‘ ăăŽć™‚ä˝•ăŒčľˇăăŸă‹ďźˆäş‹ĺŽŸďź‰ă€â‘ĄăăŽć™‚ăŠă†ć„Ÿă˜ăŸă‹ďźˆć„Ÿćƒ…ďź‰ă€ăă—ăŚâ‘˘ă€Œă“ăŽçľŒé¨“ăŻă€äťŠăŽč‡Şĺˆ†ă€ăă—ăŚćœŞćĽăŽč‡Şĺˆ†ăŤă¨ăŁăŚăŠă‚“ăŞć„ĺ‘łăŒă‚ă‚‹ă ă‚ă†ďźŸă€ă¨ă€éŽĺŽťăƒťçžĺœ¨ăƒťćœŞćĽă‚’çš‹ă’ă‚‹ĺ•ă„ă‚’çŤ‹ăŚăŚăżă‚‹ďźˆć„ĺ‘łăĽă‘ďź‰ 。この「意味づけ」が、単なる感情の吐露を、治癒的なプロセスに変える鍵
  4. 「3日坊主」でOK。ただし、間隔は詰める。 ç ”çŠśăŤă‚ˆă‚‹ă¨ă€ă‚¨ă‚Żă‚šăƒ—ăƒŹăƒƒă‚ˇăƒ–ăƒŠă‚¤ăƒ†ă‚Łăƒłă‚°ăŽĺŠšćžœăŒćœ€ă‚‚éŤ˜ă‹ăŁăŸăŽăŻă€ć›¸ăă‚ťăƒƒă‚ˇăƒ§ăƒłăŽé–“éš”ă‚’ă€Œ1日~3日」と短くした場合だったそう。週に一度ダラダラ書くよりも、「この3日間だけ集中してやる」と決めて取り組む方が、効果を実感しやすいはず
  5. 書いたものは、すぐに見返さない。 ć›¸ăă¨ă„ă†čĄŒç‚şăăŽă‚‚ăŽăŤć„ĺ‘łăŒă‚ă‚‹ă€‚ć›¸ă„ăŸç›´ĺžŒăŤčŞ­ăżčż”ă—ăŚă€ŒăŞă‚“ăŚé…ˇă„ć–‡çŤ ă â€Śă€ăŞă‚“ăŚč‡Şĺˇąć‰šĺˆ¤ă™ă‚‹ăŽăŻćœŹćœŤčť˘ĺ€’ă€‚ć•°é€ąé–“ĺžŒă€ĺż˜ă‚ŒăŸé ƒăŤčŞ­ăżčż”ă—ăŚăżă‚‹ă¨ă€éŠšăăťăŠĺŽ˘čŚłçš„ăŤč‡Şĺˆ†ă‚’čŚ‹ă¤ă‚ç›´ă›ă‚‹


感謝日記

いわば心に溜まった「負の遺産」を整理・清算するためにエクスプレッシブライティングを実践しながら、気力がわかないときには感謝日記も積極的につけていたりします。これまた「なんだかスピリチュアルな…」と思われがちですが、科学的に見ても、感謝日記は特に「無気力(アモチベーション)」に対する最強のカウンターパンチになりうる、という面白いデータが出ているんですな。



この点を検証してくれたのが、情報通信研究機構(NICT)脳情報通信融合研究センターのNawa先生たちによる研究。これは、大学生84名を対象に、感謝日記を書くグループと、そうでないコントロールグループにランダムに割り付け、2週間にわたって介入を行うRCT。

具体的に何をやったかというと、

  • 感謝日記グループは、2週間のうち週6日、1日1回オンラインシステムにログインし、その日に感謝したことを5つまで書き出してもらった
  • コントロールグループは、日々の自己評価のみを記録
  • 介入前後、そして介入から1ヶ月後と3ヶ月後に、彼らの学業に対するモチベーションがどう変化したかを測定した

結果的に何が分かったかといえば、

  • 2週間の感謝日記を続けたグループは、コントロールグループと比較して、学業へのモチベーションが有意に向上した
  • そして、そのモチベーション向上の源泉を詳しく分析したところ、「内発的動機づけ(楽しいからやる!)」や「外発的動機づけ(報酬のためにやる!)」が直接的に上がったわけではなかった
  • 最も大きな変化は、「無気力(アモチベーション)」、つまり「やっても無駄だ」「どうでもいい」といった感情が、有意に減少したことによって引き起こされていた
  • さらに、この効果は長続きし、介入が終わってから3ヶ月後の追跡調査でも、モチベーションの向上は維持されていた

要するに、感謝日記は「やるぞ!」という気持ちを無理やり作り出す方法ではなく、むしろ「どうせ無理…」という「心の毒」をじわじわと中和してくれる、無気力キラーだった、ってことですな。

この効果は他の研究でも同様に確認されておりまして、例えば、フロリダ大学の乳がんサバイバーの黒人女性を対象としたパイロット研究では、8週間の感謝日記が、精神的な幸福感(spiritual well-being)を有意に向上させ、運動に対する自己効力感(自分ならできる、という感覚)も改善したと報告されています。つまり、感謝の習慣は、やる気の低下を防ぐだけでなく、より根源的な心の健やかさや、行動への自信にも繋がる可能性があるわけですね。

ってことで、モチベーションが下がりがちな時期にはエクスプレッシブライティングに合わせて感謝日記もつけておくのがおすすめ。特に漠然とした無気力感や倦怠感には有効なはず。

参考までに、私が実践している感謝日記のルールを紹介しておくとこんな感じです。

  1. 一日3つ、感謝したことを書く。 ç ”犜では5つまでだったが、5つでも面倒に感じたりするので、とりあえず3つに設定している
  2. 壮大な感謝は探さない。 ç ”çŠśă§é˘ç™˝ă‹ăŁăŸăŽăŻă€ĺ‚ĺŠ č€…ăŒć›¸ă„ăŚă„ăŸć„ŸčŹăŽä¸­čşŤă€‚ 「学問の機会をありがとう!」みたいな高尚なものではなく、「友人が助けてくれた」「母親のご飯が美味しかった」「天気が良かった」といった、ごくありふれた日常のことで十分だった。やる気が出ない対象(例えば仕事)について無理に感謝する必要は全くなく、今日のコーヒーが美味しかったことへの感謝で十分、といったイメージは忘れないようにする
  3. とにかく続ける。 ç ”çŠśăŒç¤şă—ăŚă„ă‚‹ćœ€ă‚‚é‡čŚăŞă“ă¨ăŽä¸€ă¤ăŻă€ĺŠšćžœăŒčŚ‹ă‚‰ă‚ŒăŸăŽăŻă€Œçś™çśšă—ăŚčŞ˛éĄŒăŤĺ–ă‚Šçľ„ă‚“ă ĺ‚ĺŠ č€…ă€ă ă‘ă ăŁăŸă¨ă„ă†ç‚šă€‚ ある程度継続すれば、その効果は3ヶ月以上持続するかのうせいがある。 すぐに効果が出なくても焦らず、とにかく淡々と続けるようにする


他人への親切

自身の内面の状態を調整するためには他者という「外」の存在との関係性も重要。実際、上司からのリソースの提示、メンター制度の導入、ウェルカムな職場の風土の醸成等が従業員のストレス減少やバーンアウトの改善につながった、という報告は複数あったりします。

しかし「外からの」サポートは自分ではあまりコントロールできない要因だったりするので、ここでは「外への」サポートも十分効果的だぞ!ってのを紹介しておきます。先日書いた「Give&Take」の話しの延長ですね。



Give and Takeに関してよくある疑問が、「幸せな人だから親切なのか、それとも親切な行為が人を幸せにするのか?」という鶏と卵の問題でしょう。この因果関係に白黒つけるため、オックスフォード大学のオリバー・カリー先生たちの研究チームが、非常に信頼性の高いメタ分析を行っています。

この研究のすごいところは、単なる相関関係ではなく、因果関係を探るために「実験研究」だけを27件も集めて分析した点。つまり、「親切な行為をするグループ」と「何もしないグループ」に人々をランダムに分け、その後の幸福度がどう変化するかを比較したわけですね。

そして、その結果は実にクリアで、

  • 親切な行為は、それを行った本人の主観的な幸福度を有意に高めることが確認された
  • この効果の大きさは、小〜中程度(効果量 g = 0.28)であり、これはマインドフルネスといった他のポジティブ心理学の介入と比べても遜色のないレベル
  • さらに、この幸福度アップ効果は、年齢や性別、どんな種類の親切か(例:「ランダムな親切な行為」や「誰かのためにお金を使う」など)に関わらず、普遍的に見られることもわかった

要するに、「情けは人のためならず」は、単なる道徳的なきれいごとではなく、科学的に裏付けされた事実だった、ということですね。人を助けることは、巡り巡って自分の心をハッピーにする、極めて有効な手段なんだ、と。

では、なぜ私たちの脳は、他者を助けることで「快」を感じるようにできているのか? カリー先生たちは、進化心理学的な視点からそのメカニズムを説明しています。私たちの祖先は、家族を助け(血縁利他)、仲間と協力し(互恵的利他)、集団内での評判を高める(競争的利他)といった向社会的な行動をとる個体の方が、生き残り、子孫を残す上で有利だった。そのため、脳はこうした「他者を助ける」という生存戦略上有利な行動に対して、「幸福感」というご褒美を与えるように進化した、と考えられるわけです。

この知見を、5月病や梅雨のだるさを乗り切るためにどう活かすか。気分が落ち込み、自分のことばかり考えてしまう内向きな状態の時こそ、私は意識的に「マイクロ・ギブ」を実践するようにしています。

大げさなボランティア活動である必要は全くありません。論文でも、見知らぬ人への「ランダムな親切な行為」が効果的だと示唆されています。例えば、

  • コンビニの店員さんに、いつもより少しだけ丁寧に「ありがとうございます」と伝える
  • 電車で席を譲る
  • 職場や研究室で後輩にあったら、「何か手伝えることある?」と一声かける
  • 友人のSNSの投稿に、ポジティブなコメントを残す

重要なのは、見返りを求めず、自分の内側に向いていた意識のベクトルを、ほんの少しだけ外に向けてみること。この小さなエネルギーの転換が、不思議なほど自分の心を軽くし、停滞した気分を動かすきっかけになるはず。「情けは人のためならず、巡り巡って己がため」。この古いことわざを、今こそ科学的な処方箋として、試してみてはいかがでしょうかー。


「つまらない」を「面白い」に変えるゲーミフィケーション入門

ここまでで、マインドフルネスだの、自己決定理論だの、目標設定だの、運動だの、感謝日記だの、様々な方法論をご紹介してきました。

しかし、これら全てを実践する上で、避けては通れないのが「そもそも、どれもやる気が起きねえ…」という根本的な問題でしょう。そこで最後に紹介したいのが、この「ダルい」「面倒くさい」という感情をハックし、退屈なタスクを面白いゲームに変えてしまう「ゲーミフィケーション」という方法。

ゲーミフィケーションってのは、ゲームで使われるようなポイント、バッジ、レベル、ランキングといった要素を、勉強や仕事といったゲーム以外の領域に応用して、モチベーションを高めようぜ!っていうアプローチのこと。ゲーミフィケーションのベースにあるのは、冒頭でも触れた「自己決定理論(SDT)」。人のやる気は「自律性(自分で選びたい)」「有能感(デキると思われたい)」「関連性(誰かと繋がりたい)」の3つの欲求が満たされると爆発するって話です。ゲーミフィケーションでは、まさにこの3つの欲求をくすぐるように設計するのがカギ、というわけです。最近ではいろいろ書籍も出ていますが、「スーパーベターになろう!」とかは過去にNoteのほうで紹介したことがありましたね。そのほか、「幸せな未来は「ゲーム」が創る」とかも良書。


例によって、ゲーミフィケーションが本当に効果があるのか?ってのを、 éŚ™ć¸Żĺ¤§ĺ­ŚăŽăƒĄă‚żĺˆ†ćžă‚’ăƒ™ăƒźă‚šăŤç˘şčŞă—ăŚăżăžă—ă‚‡ă†ă€‚ă“ăŽç ”çŠśăŻă€2,500人の参加者を含む35の独立した介入研究を分析した、比較的信頼性の高いもの。

で、メタ分析の結果、何がわかったかというと、

  • ゲーミフィケーションは、学習者の内発的動機づけ(心からのやる気)を高める上で、小さいながらも有意な効果があった(効果量 Hedges' g = 0.257)
  • 特に、「自律性」と「関連性」の欲求を、かなり強く満たすことがわかった(自律性 g = 0.638, 関連性 g = 1.776)77。
  • 「有能感」への影響は、ごくわずかだった(g = 0.277)8888。

要するに、ゲーミフィケーションは「自分で選んでる感」と「仲間とやってる感」は爆上げするけど、「俺できるじゃん感」に対しては意外とそうでもないってことですね。ポイントやバッジは有能感を満たすためのものだと思いきや、実はそこが一番の弱点だったというのは若干以外で面白いっすね。

ちなみに、この謎(?)を解くヒントをくれる研究もあったりします。サウジアラビアのウンム・アルクラ大学の研究チームが、ゲーミフィケーションの各要素が学習者のエンゲージメントやモチベーションにどう影響するかを、構造方程式モデリング(SEM)という手法で分析してくれてるんですな。

具体的に何が分かったかというと、

  • ポイントやバッジ、リーダーボードといった要素は、学習者のエンゲージメント(没入感)を明確に高めることが示された(パス係数 = 0.805)
  • 報酬や競争は、モチベーションも高める(パス係数 = 0.665)
  • しかし、学習者自身は、ゲーミフィケーションが学習効果そのものを高めるとはあまり感じておらず、むしろわずかにネガティブな認識すら持っていたん

つまり、多くの人はゲーミフィケーションを「楽しいけど、これで賢くなれるわけじゃないよね」と、どこか冷めた目で見ているわけですな。だから「有能感」が伸び悩む。これがリーダーボードで下位になった時の不快感や、簡単すぎるバッジへの無価値感に繋がるんだ、と。

じゃあ、どうすりゃいいのよ?ってことで、私が実践しているのは、この研究結果の「穴」を突くようなアプローチ。つまり、ゲーミフィケーションの強みである「自律性」と「関連性」は最大限に活用しつつ、弱点である「有能感」は自分でデザインしなおすようにしています。具体的には、面倒なレポート作成を一つの「クエスト」と見立てて、自分だけのルールを作ったりします。

  1. クエストを自分で設計する(自律性のハック): 「レポートを終わらせる」というタスクを、「序章:資料収集」「第一章:構成案の作成」「第二章:本文執筆」「最終章:校正と提出」といったクエストに分解する。各クエストに自分で勝手に経験値(XP)を割り振る。「構成案の作成完了!よし、100XPゲット!」といった具合。これは他人に与えられたゲームじゃなく、自分が作った自分のためのゲーム。
  2. 進捗をゆるく共有する(関連性のハック): このクエストの進捗を、友人や同僚に「今、クエストの第二章で苦戦中…」みたいに、ゆるーく共有する。仲間がいる感覚、見られている感覚が、サボり心を抑制し、モチベーションを維持してくれる
  3. 「実績」を自分で定義し、解除する(有能感のハック): 他人やシステムが用意したバッジは当てにしない。自分で「実績」を定義する。例えば、「25分間、スマホを触らずに執筆に集中できた」ら、「実績解除:精神と時の部屋」みたいに、自分だけの称号を与える。この「実績」は、自分の成長したい方向と完全に一致しているため、安っぽいバッジよりもはるかに強い「有能感」を与えてくれる。

結局のところ、ゲーミフィケーションで大事なのは、与えられたゲームに乗っかることではなく、自分の脳の「やる気スイッチ」の仕組みを理解して、自分自身が最高のゲームデザイナーになること。ゲーミフィケーションも簡単ながら、効果を感じやすいのでおすすめです。


おわりに

今回は、5月病や梅雨のだるさといった「なんとなくの不調」をテーマに、自己決定理論から始まり、マインドフルネス、目標設定、運動、睡眠、筆記開示、感謝日記、人助け、そしてゲーミフィケーションに至るまで、かなり多角的なアプローチを紹介してきました。

ここまで読んでくださった方ならお分かりかと思いますが、私が一貫してお伝えしたかったメッセージはたった一つ。

「気分が乗らないのを、気合や根性、あなたのせいにするのはもうやめようぜ!」

ということです。

私たちの「やる気」や「気分」なんてものは、脳の仕組み、体のコンディション、そして置かれた環境との複雑な相互作用で決まります。意志の力だけでコントロールできるほど、人間は単純にできていません。

今回ご紹介した知見は、いわばその複雑な自分自身を理解し、うまく付き合っていくための「攻略のヒント」や「便利なツール」のようなものです。全てを一度に試す必要は全くありません。

この中から一つでも、「これならできそうだな」「ちょっと面白そうかも」と思えたものがあったなら、ぜひ、あなたの日常で小さな実験として試してみてください。そして、自分の心と体がどう変化するのか、面白がって観察してみてください。

大事なのは、完璧にこなすことではなく、自分に合ったやり方を見つけようと試行錯誤する、そのプロセスそのものなんだと思っています。

とにかく、気分が落ち込みがちなこの時期をハックして、楽しく元気に過ごしていきましょー(雑)

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ではまた次回!